じじぃの「リンドウ・マン・泥炭沼に2千年埋もれていた男!パレオマニア」

Archaeology Lindow Man British Museum 1985

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=RJKMP0M2rNo

British Museum - Lindow Man

『パレオマニア 大英博物館からの13の旅』

池澤夏樹/著 集英社文庫 2008年発行

イギリス/ケルト篇【其の2】 3度まで殺された男 より

イングランドの西の方、チェシャー州にあるウィルムズロウ村リンドウという場所の泥炭採取場からこの死体は出てきた。ここは古代の植物の遺骸が水浸しのまま泥炭に変化した湿地で、近年になって泥炭は燃料用などに採掘されてきた。この湿った土はまったく酸素を含まない。防腐作用の強いフミン酸に飛んだ水分によって完全に密封された死体は形を保ったまま2千年近い歳月を渡って、1984年に出てきた。
「リンドウ・マン」と名づけられたこの人物の遺体の横の壁面に、復元された生前の顔の図が掲げてある。大英博物館に足繁く通ううちに男が惹かれたのはこの顔だった。頬骨が張って鼻も低いその若い男は、髪と髭(ひげ)が黒いこともあって、どちらかというと東洋人に近い印象を与える。この分だけ現実感が強い。男の友人の誰かに似ているような感じで、どこか思い詰めたような表情に「どうしたんだ?」と声をかけたくなる。つまり親しみを覚えるのだ。
どうしてこの男がチェシャーの泥炭地に埋められることのなったのか、なぜ2千年の跡に、生々しい姿で出てきたのか、これはなかなかそそられる問題だと思った。
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手元にある本によると、1984年8月のある午後、泥炭を掘削破砕してトロッコに積み込む大きな採掘機を運転していたアンディー・モールドという作業員が、コンベヤーに異物が載っているのに気づいて機械を止めた。岩などが入り込むと故障の原因になるから、この見張りは大事だ。
遺物は岩ではなく、どう見ても人の足だった。彼はすぐ警察に通報し、その日の作業は中止された。足が出てきた以上は近くに身体の他の部分も埋っている可能性が高い。
実を言うと、この仕事で人の死骸に出会うのは彼にとって初めてのことではなかった。その前の年、彼は何か丸いものがコンベヤーに載っているのを見つけ、機械を止めた。
「ははは、恐竜の卵かな」と言いながら、外を覆った泥炭を除いてみると、それは人の頭蓋骨だった。下半身は失われているが、一方の眼窩(がんか)にはまだ目玉が残っている。
頭蓋骨発見の報せを受けた警察は、これを犯罪と結びつけた。というのも、この村では23年前に人妻失踪という未解決の事件があったのだ。
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年代測定の結果は1世紀ごろと出た。2千年近い昔であり、やはり現代の犯罪とは無縁な死体だった。警察の出番はない。しかし、古代のものと言っても、これは変死体だった。この男は殺されていたのだ。それも3度まで。
法医学的な検査によれば、彼はまず坐っている姿勢で後頭部に斧のような狂気の一撃を受け、次に首を絞められ、最後に喉を掻き切られていた。首を絞めるのは、紐(ひも)を首に巻いた上でそこに棒を通してねじるという方法で行われたらしく、その紐はまだ首に巻き付いていた。CTスキャンで調べてみると頚椎が折れているのが明らかになった。切り傷の方は頸動脈が切断されていた。
ずいぶん念入りな殺人である。被害者は立派な体格の若い男性で、栄養状態がよく、爪もきれいだった。つまり激しい肉体労働に従事しなくてもいい上流階級に属していたらしい。

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どうでもいい、じじぃの日記。
大英博物館のガラスの箱に収められている「リンドウ・マン」。
紀元1世紀の遺体は、その死因まで詳細に解明された。
遺体を泥炭地に穴を掘って埋めれば、ミイラ化して死んだ直後の状態で発見されるということがある。
彼は健康状態がよく、爪が整っており高い身分の人間だったと推測されている。
彼がケルト人社会における祭司「ドルイド」の人身御供の犠牲者であるいう説がある。
彼の腸にはドルイドが珍重したとされるヤドリギの花粉が入っていた。ただ、そうであっても、望んで生け贄になったかそれを強いられたかは謎だ。
紀元1世紀のイギリスはローマ帝国支配下にあり、その時どうしてケルト文化の儀式的殺人が行われたのかは謎なのだ。
とか。