じじぃの「科学・芸術_741_スペイン・ガルシア・ロルカ」

Federico Garcia Lorca

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=6u_1mjcvaF8

血の婚礼

『アンダルシアを知るための53章』

立石博高、塩見千加子/編著 赤石書店 2012年発行

ガルシア・ロルカとスペイン内戦 「プロのアンダルシア」の悲劇 より

1990年代の話、アンダルシア自治州をプロモートするテレビのCMのキャッチコピーに「青、フレッシュな君が好きだ。/色、鮮やかな君が好きだ。/アンダルシア、アンダルシアな君が好きだ」というのがあった。”Azul que te quiero fresco...”というこのコピーの構文は文法的には破格で、じつは意味はよくわからない。このコピーの最後の締めのセリフが「緑、緑な君が好きだ」”Verde que te quiero verde”というもので、どうやらこれがCM全体の基調となる一文のようだ。このCMをスペイン語教材として利用したルルデス・ミケルとネウス・サンスの説明によれば、この最後の一文は、たとえ誰の言葉なのか知らなくとも、スペイン人ならばたいていの人が、ほとんどこの諺が言い伝えのようにして知っているフレーズなのだととのこと。この有名な一節を生み出した人物こそが、*フェデリーコ・ガルシア・ロルカ
(1898~1936)その人。『ジプシー歌集』(1928)所有の「夢遊病者のロマンセ」の、あまりにも有名な書き出した。ガルシア・ロルカはこのように現代に息づいている。
アルゼンチンの作家ホルヘ・ルイス・ボルヘス(1899~1980)に「プロのアンダルシア」と揶揄(やゆ)されるほどに、ガルシア・ロルカはアンダルシアと密接に関連づけられ評価されている。グラナダ近郊に生まれた彼が文名を確立するのは『ジプシー歌集』や『カンテ・ホンドの歌』(1931)といった詩集でだった。前者は叙事詩に端を発して語り継がれた民衆詩ロマンセの形式を採用し、ジプシーたちをモチーフにした詩集であり、後者は、アンダルシアの民謡の形式を借りたものだ。この地方性が彼のアンダルシア人としての印象を決定した。ただし、同時代の前衛詩にも拮抗する喩法たイメージを採用して、すぐれて普遍的でもあったからこそ高く評価されたことも間違いない。「プロのアンダルシア人」とは、地方性と普遍性のこの融合ゆえの称号に違いない。
もちろん、「プロのアンダルシア人」とて、その地に生涯へばりついていたわけでもない。若き日のガルシア・ロルカについては特筆すべきはマドリードの学生館で暮らした日々のことだろう。ここではルイス・ブニュエル(1900~83)、サルバドーレ・ダリ(1904~89)といった仲間と友情を育んだ。
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1931年、第2共和制が成立すると、法務大臣に就任した恩師フエルナンド・デ・ロス・リオス(1879~1949)の援助を得て、古典演劇を全国各地で上演して回る学生巡回劇団ラ・バカーラを組織した。これが共和制シンパとしてのガルシア・ロルカのイメージを強め、後の不幸につながったのかもしれないが、ともかく、こうして演劇人としての濃密な数年間が始まる。いわゆる「3大悲劇」と称される代表作『血の婚礼』(1933)、『イェルマ』(1934)、『ベルナルダ・アルバの家』(1936)を次々と発表するのは、これ以後のことだ。いずれもアンダルシアを舞台にしたこれらの作品は世界的に知られることとなり、またしてもガルシア・ロルカとアンダルシアのつながりを強く印象づけることになる。
とりわけ『血の婚礼』は日本でもたびたび舞台にかけられている20世紀の古典ともいえる作品だ。