じじぃの「科学・芸術_632_プランク定数」

Classroom Aid - Planck's Constant 動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=rl4TG1kv6nM
      Planck constant

『単位は進化する』 安田正美/著 DOJIN選書 2018年発行
プランク定数の発見 より
19世紀当時、統計力学電磁気学などの物理学の理論はすでに完成されていて、もはや新しい理論の入る余地がないと考えられていました。プランクが博士課程に進学するとき、指導教官から「物理学はもうやることがないから、行かないほうがいい」と忠告されたくらいです。ところが、そんな完成されたはずの物理学の理論をもってしても、熱放射の色変化(スペクトル)については理論化できなかった。それまでの物理学、すなわち古典物理学の限界がそこにあったのです。
プランクは光のエネルギーと波長が対応しているという法則を利用し、炉のような閉じた空間の中をある一定の温度にして黒い物体を熱し、その中にどのような電磁波が分布しているかを計測・分析しました。
黒いものを熱したのは、色のついたものを熱すると、放たれる波長がその色の影響を受けて変化してしまうからです。黒いものを熱するときだけは物体の色の影響を受けず、温度に応じた電磁波が発せられるとわかっていました。これを「黒体放射」といいます。
古典物理学の理論ではエネルギーは連続性を持っています。そのため、この黒体放射の実験ではどのようなエネルギーの波が出てきてもおかしくないと予想されました。ところが実際に出てきたのは、連続性をもたない飛び飛びのエネルギーでした。
次のような言い方をすると多少はイメージしやすいでしょうか。ある量があり、それは連続的な量なので、いくらでも無限に分割できる――というのが古典的な物理学の考え方です。それに対して量子論は、原始のようにこれ以上分割できない限界、最小の単位があるという考え方がベースになります。何かをどんどん細分化していっても、本当のゼロ、無限小にはならず、ここまでしか小さくできないという限界がある。そして世の中はその最小のものの組み合わせでできている、という考え方です。
もちろんその最小の単位(=量子)は小さすぎて私たちには見ることができません。しかし、プランクはこの量子という存在に気づいたことで、炉の中の温度分布に関する観測結果の理論化に成功したのです。
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ようやくプランク定数にたどり着きました。プランク定数は「6.62607004 X 10-34m2kg/s」という非常に小さい値で、SI単位系ではジュール秒(Js)という単位で表されます。このごく小さい謎の定数を用いると、熱放射を分光器で観察した結果を理論が一致するのです。量子論の誕生とともに登場したこのプランク定数は、その後に見つかったほとんどすべての量子的現象を説明する際に出てくることになります。
ちなみに、量子力学にはこの分野の発展に貢献した重要な式があります。
  E = hν
「E」はエネルギー、「h」はプランク定数、そして「ν(ニュー)」は光の振動数(周波数)を表し、エネルギーは光の振動数に比例していることを示したものです。周波数は「f」と書くことが多いのですが、光の場合は「ν」を使います。
20世紀の亜他r思惟物理学としてはもう1つ、アインシュタインの「相対論」がありますが、こちらでは光のスピードを表す「c」という定数が非常によく使われます。ミクロの世界を扱う量子論に対し、相対論は光のスピードのようにマクロな世界をとらえる理論です。そのミクロな世界やマクロな世界と、私たちが理解しやすい世界をつなぐための数値が、プランク定数や光のスピードだということです。
プランク定数が求められれば質量は再定義できます。しかし、プランク定数を正確に求めるのは至難の技であり、各国がそれぞれ自国内で頑張ってなんとかなるようなものではありませんでした。そこで20世紀後半、質量の再定義に向けてプランク定数を求めるための国際プロジェクトが立ち上げられました。
プランク定数を求める方法はいくつか考えられましたが、国際プロジェクトで取り組まれることになったのは「X線密度結晶法」と「キッブルバランス法(旧ワットバランス法)」の2つです。X線密度結晶法はアボガドロ定数を正確に求めることから間接的にプランク定数を導き出そうという方法、キッブルバランス法はすでに非常に高精度な計測技術が確立されている電気と結びつけることでプランク定数を求める方法です。前者は日独伊を中心としたチーム、後者は英米仏を中心としたチームが研究を進めることになりました。