じじぃの「科学・芸術_622_はやぶさ2・イオンエンジン」

小惑星探査機「はやぶさ2」の記者説明会(18/09/27) 動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=pJOxlZPlL6o
 はやぶさ

 イオンエンジンの構造

はやぶさ(探査機) ウィキペディアWikipedia) より
はやぶさ(第20号科学衛星MUSES-C)は、2003年5月9日13時29分25秒(日本標準時、以下同様)に宇宙科学研究所ISAS)が打ち上げた小惑星探査機で、ひてん、はるかに続くMUSESシリーズ3番目の工学実験機である。
【軌道制御系】
はやぶさ」には軌道制御を行うための主推進機としてマイクロ波放電式イオンエンジンμ10を中心とするイオン・エンジン・システム (IES) が搭載されていた。μ10はスラスタAからスラスタDとして、計4台が搭載され、他にも多数の装置と組み合わされて宇宙探査機の推進システムとして用いられた。また、姿勢制御にも用いられるRCSが軌道制御にも使用された。
IESのエンジン4台は同一のテーブル上に配置されていた。
【イオン生成】
イオン生成には電子サイクロトロン共鳴 (ECR) という現象を利用している。燃料タンクから流量制御部を経由してイオン生成チャンバー内に導入された希薄なキセノンガスは、マイクロ波による加熱でプラズマされ、電子とキセノン・イオンに電離する。チャンバー壁面が正電圧に印加されているため、負の電荷を持つ電子は生成と同時に壁面へ引き寄せられて比較的短時間に消滅する。反対に正の電荷を帯びたキセノン・イオン (Xe+) は、チャンバー壁面から軽く反発を受けゆるやかに蓄積してゆく。4.25GHzのマイクロ波と1500ガウスの永久磁石によって脈動する電子流が作られ、この高速電子がキセノン原子に次々に衝突することでイオン化を起こす。

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『宇宙はどこまで行けるか-ロケットエンジンの実力と未来』 小泉宏之/著 中公新書 2018年発行
イオンエンジン小惑星探査へ より
小惑星と言えば「はやぶさ」とその後継機「はやぶさ2」を真っ先に思い浮かべるだろう。「はやぶさ」は多くのトラブルと華やかな帰還で有名となったが、その最大の快挙は往復探査だ。
それまで、深宇宙の探査は片道切符があたりまえであった。宇宙は広く遠くに行くには大きな加速器が必要でこれだけでも大変だ。それが往復となれば単純に考えて2倍の加速が必要になる。ロケット公式を思い出せば、それが指数関数的な増加につながることがわかるだろう。
これを克服するのは電気推進が有効だ。全電化静止衛星のように推進剤を1桁少なくできれば、往復探査やはるか遠方の探査も見えてくる。さらに小惑星探査は大きな力も不要なので電気推進にはぴったりだ。ここから、小惑星探査で大活躍するイオンエンジンの仕組みと、それらを使った探査の実例を見ていこう。
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2014年12月には、もう1基のイオンエンジンH2Aロケットで打ち上げ、地球から遠く離れた深宇宙で作動させることに成功した。この2例目は、深宇宙における初めての作動だったので、こちらにも「世界初」という記録がついてきた。世界3例目は、2018年4月まで待たねばならないが、ここでは2基目の小型イオンエンジンの話をしよう。
2基目のエンジンが搭載されたのは、「プロキオン」という東京大学JAXAが協力して作った65キログラムの超小型深宇宙探査機だ。ここでの「深宇宙」とは、月より遠い場所を指す。実際に「プロキオン」は月よりはるか遠く地球から数千万キロほど離れたところまで行った。これは地球の重力圏のはるか外で、「プロキオン」はまさに太陽のまわりを回る「人工惑星」だ。
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次は軌道遷移だ。深宇宙の望みの場所に向かうためには、大きな速度変更が必要になる。「プロキオン」は大量の推進剤を積むことは難しいので、ここはイオンエンジンなどの電気推進が必要となる。
そして最後は、小惑星を通り過ぎる際の調整だ。このためには、お互いの位置と速度を知らなければならない。もちろん地球からの観測である程度はわかるが、はるか遠くの小惑星なので限度がある。結局、小惑星の近くに行って初めて、衛星にぶつかりそうとか、観測するのは遠すぎるといったことがわかるのである。その段階で軌道を直すには、イオンエンジンのゆっくりとした力では間に合わない。限られた時間内に、強い力をだすために、緊急用の力強いエンジンが必要になる。
推進機屋から見て「プロキオン」が難しかったのは、いま説明した「姿勢制御」「軌道変更」「緊急対応」という3つの異なるエンジン特性が求められることだ。姿勢制御エンジンは回転を操るために一定以上の数が必要であり、性能より超小型であることが優先せれる。次に軌道を大きく変更するためのエンジンには排気速度がほしいので、必然的にイオンエンジンなどの電気推進ということにある。そして、緊急用の力強いエンジン。こちらは化学推進になるだろう。通常の衛星は2つあるいは3つのエンジンを積んでこれをクリアしてしまうが、制限の多い小型機はそうはいかない。
プロキオン」で求められた難題をクリアするために我々が出した答えが、イオンエンジンとガスエンジンを統合するシステムだった。組み合せは単純だ。イオンエンジンは推進剤にキセノンを使っていて、そのキセノンは高圧タンクに貯蔵されている。その高圧タンクのガスを直接外に噴射しても推力を得ることができる。これを「コールドガスジェットヌラスタ」と呼ぶ。コールドといっても特段冷たいわけではなく、加熱していないという意味だ。ただ、名前が長いので、ここではそれを「ガスエンジン」と呼ぼう。