じじぃの「科学・地球_180_人類宇宙に住む・レーザー帆・イオンエンジン」

はやぶさ2 主要機器

ファン!ファン!JAXA!
小惑星探査機「はやぶさ2」(Hayabusa2)の主な機器、ミッション機器の概要をご紹介します。
小惑星探査機「はやぶさ2」プロジェクトメンバーが担当業務の解説と抱負を語るビデオメッセージを随時公開します。「ビデオメッセージを再生する」をクリックすると動画をご覧いただけます。
電気推進系(イオンエンジン
地球から小惑星、また小惑星から地球へ航行するときの軌道変更に使います。
イオンエンジンは、地球と小惑星との往復航行を、化学推進の10分の1という少ない推進剤の消費で可能にします。
https://fanfun.jaxa.jp/countdown/hayabusa2/instruments.html

人類、宇宙に住む 実現への3つのステップ

ミチオ・カク(著)
地球がいずれ壊滅的なダメージを受けることは避けがたく、人類は生き延びるために宇宙に移住する必要がある。
本書は世界的に高名な物理学者が、1)月や火星への移住、2)太陽系外への進出、3)人体の改造や強化、の3段階で宇宙の進出の方途を示す。NASAイーロン・マスクジェフ・ベゾスらの宇宙開発への挑戦を追いながら人類の未来を見通す、最高にエキサイティングな一冊!
第Ⅰ部 地球を離れる
 第1章 打ち上げを前にして
 第2章 宇宙旅行の新たな黄金時代
 第3章 宇宙で採掘する
 第4章 絶対に火星へ!
 第5章 火星──エデンの惑星
 第6章 巨大ガス惑星、彗星、さらにその先
第Ⅱ部 星々への旅
 第7章 宇宙のロボット
 第8章 スターシップを作る
 第9章 ケプラーと惑星の世界
第Ⅲ部 宇宙の生命
 第10章 不死
 第11章 トランスヒューマニズムとテクノロジー
 第12章 地球外生命探査
 第13章 先進文明
 第14章 宇宙を出る

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『人類、宇宙に住む 実現への3つのステップ』

ミチオ・カク/著、斉藤隆央/訳 NHK出版 2019年発行

第Ⅱ部 星々への旅

第8章 スターシップを作る より

2016年、私の研究者仲間であるスティーブン・ホーキングが、「ブレイクスルー・スターショット」というプロジェクトへの支援を表明して世界を驚かせた。それは、高性能のチップを帆につけた「ナノシップ」を開発し、地球上の巨大なレーザー砲列から強力なビームを照射して飛行のエネルギーを与えようとする企てだ。ひとつひとつのチップは親指ほどのサイズで、重さは20グラムもなく、無数のトランジスタを搭載している。この企てのとりわけ有望な点は、100年、200年待つ必要がなく、今ある技術で実現できるということだ。ホーキングによれば、ナノシップは100億ドルで1世代のうちに開発でき、1000億ワットのレーザー出力なら、光の5分の1の速度で、地球から最も近い恒星系のケンタウルス座アルファ星系に20年以内に到達できるという。これに対し、スペースシャトルのミッションは、地球の低軌道までだったのに、一度の打ち上げにほぼ10億ドルかかっていた。
ナノシップは、化学燃料ロケットには不可能なことをなし遂げられる。ツィオルコフスキーのロケット方程式は、従来のサターンロケットが最も近い恒星にもたどり漬けないことを示している。速く飛ぶほど、必要な燃料は飛躍的に増えるが、化学燃料ロケットには、非常に長い旅の燃料をそもそものせられない。かりに隣の恒星にたどり着けるとしても、およそ7万年はかかるだろう。

レーザー帆の問題

ケンタウルス座アルファへナノシップの船団を送るには、レーザー砲列が船のパラシュート型の帆に向けて、総量100ギガワット以上のビームを約2分間、集中的に放射する必要があるだろう。こうしたレーザービームによる光圧で、船は宇宙を突き進む。船がターゲットに到達できるように、ビームはおそろしく正確に当てなければならない。コースがわずかでも逸れたら、ミッションの成功が危うくなる。
これに立ちはだかっている主な障壁は、すでに実現手段がわかっている基礎科学ではなく、資金である。高名な科学者や起業家が何人か支援を申し出ていても十分ではないのだ。
原子力発電所は、1基につき数十億ドルのコストをかけて1ギガワット、つまり10億ワットしか発電できない。十分に強力で高精度のレーザー砲列を作るには、公的・私的な資金提供を求める必要があるが、そこが大きな関門となっている。

イオンエンジン

レーザー推進と太陽帆のほかにも、スターシップの動力となりうる手だてはいろいろある。それらを比較するうえで、「比推力」なる外面を持ち込むと役に立つ。比推力とは、推力を単位時間(秒)に消費する推進剤の重量で割った値のことだ(比推力の単位は秒で表される)。ロケットのエンジンが噴射する時間が長いほど、その比推力も大きくなり、そこからロケットが最終的に到達する速度を計算することができる。
次に、数種類のロケットの比推力を比較した簡単な表をのせる。ただし、いくつかの方式──レーザー推進式ロケット、太陽帆、核融合ラムジェットロケット──は、エンジンを半永久的に噴射でき、理論上無限大の比推力をもつので除いている。

ロケットエンジンの種類 比推力(秒)

  固形燃料ロケット      250
  液体燃料ロケット      450
  核分裂ロケット       800~1000
  イオンエンジン       5000
  プラズマエンジン      1000~3万
  核融合ロケット       2500~20万
  核パルス推進ロケット    1万~100万
  反物質ロケット       100万~1000万
この表からわかるとおり、前2つの化学燃料ロケットは数分間しか燃焼しないので、最も比推力が低い。次に取り上げたいのはイオンエンジンで、これは近隣の惑星へのミッションに役立ちうる。イオンエンジンは、キセノンのようなガスを取り込み、その原子から電子を剥ぎ取ってイオン(帯電した原子)に変えたのち、そのイオンを電場で加速することで始動する。イオンエンジンの内部は、電磁場が電子ビームを誘導しているブラウン管テレビの内部にやや似ているのだ。
エンジンの推力は極端に小さい──えてしてオンス[1オンスは30グラム弱]単位になる──ので、ラボで作道させても、何も起きていないように見える。ところが宇宙に出ると、やがて化学燃料ロケットを上回る速度に達する。イオンエンジンは、ウサギとカメの競争(この場合はウサギが化学燃料ロケット)にたとえられている。ウサギは猛烈な速さでダッシュできるが、数分走るだけでくたびれてしまう。一方、カメはウサギより速いが、何日も歩けるので、長距離の競争に勝てるのだ。イオンロケットも、一度打ち上げると何年も飛びつづけられる。だから比推力が化学燃料ロケットよりもずっと大きい。
イオンエンジンのパワーを高めるために、マイクロ波や電波でガスをイオン化してから、そのイオンを磁場で加速する方法もある。これはプラズマエンジンと呼ばれ、提唱者によれば理論上は火星までの9ヵ月という感を40日未満にまで短縮できるというが、この技術はまだ開発の途上だ(プラズマエンジンの制約因子のひとつは、プラズマの発生に欠かせない莫大な電力で、惑星間飛行のミッションに原子力発電設備が居る可能性さえある)。NASAは数十年前からイオンエンジンの研究開発をおこなってきた。2030年代に火星へ宇宙飛行士を送り込む予定のディープ・スペース・トランスポートは、イオン推進を利用する。今世紀の終わりには、イオンエンジンは惑星間ミッションの要(かなめ)となるにちがいない。時間に制約のあるミッションでは、化学燃料ロケットがなお最良の手段かもしれないが、時間を第1に優先しなくてもいいときには、イオンエンジンが手堅く頼りになる選択肢となるだろう。
比推力の表でイオンエンジンより後にあるのは、さらに純理論的な推進システムである。