じじぃの「科学・芸術_598_BMIパラドックス」

How to Calculate Body Mass Index - Body Mass Index Explained 動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=TKnlUbM37yg
BMI Paradox

『ヒトはなぜ病み、老いるのか―寿命の生物学』 若原正己/著 新日本出版社 2017年発行
寿命の生物学 より
サーチュイン遺伝子が注目を集めたのは比較的最近のことだ。テロメア説はもう30年ほどの歴史があるが、サーチュイン遺伝子がヒトの寿命に関係していると言われてから5〜6年しかたっていない。非常に新しい話題だ。
そのきっかけとなったのは2011年6月のNHKスペシャルで「あなたの寿命は延ばせる〜発見! 寿命遺伝子」が放映され、さらに2012年のNHKサイエンスZEROで「寿命遺伝子が寿命を延ばす」という番組が放映されて、非常に大きなインパクトを与えたことだ。その寿命遺伝子というのが今述べたサーチュイン遺伝子だ。その内容は『寿命遺伝子が寿命を延ばす』(NHKサイエンスZERO編著、NHK出版、2011年)という本にもなって、多くの国民に強い印象を与えた。この遺伝子を上手く活用すれば120歳まで生きられるといううたい文句だった。
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実験動物でカロリー制限をすると、本当は栄養不足だから生理活性も落ちて、生殖もしにくくなり体も弱くなって病気にもかかりやすくなっているはずだが、何しろ無菌状態で手厚く保護されているから、長生きできるのだ。
ヒトの場合は、無菌の実験室で100年間実験するのは無理だし、生殖せずに寿命をやみくもに伸ばしても意味がないから、実験動物とヒトとでは全く条件が違う。だから動物実験だけからではそうした結論を得るのは難しいのだ。
現在サーチュイン遺伝子説にも少し陰りが出てきたようだ。個人的な意見だが、サーチュイン遺伝子はヒトにもあるし、それが活性化すると寿命が延びるかもしれないが、寿命を決めているのはそれほど単純なものではない、と思っている。
今述べたようにヒトでは実験ができないから結論をだしのは難しい。一方、現在カロリー制限による健康法がもてはやされているし、糖質制限が寿命を延ばすだの、ロカボ(ローカーボン食)、低糖質が健康の秘訣だなどなどいろいろな説が流行している。メタボリック・シンドロームという言葉が社会にも定着し、テレビのコマーシャルを見ても、メタボ対策の健康食品が次から次へと宣伝されている。ビールも糖質オフとかカロリーゼロをうたい文句にしたものが売り上げを伸ばしているようだ。場合によってその糖質制限の提唱者が急死したりして、話題になっているからこの問題を少し整理しておこう。
1つは、過激なダイエットは健康に良くないし、長寿命につながらないという点だ。特に中年期以降は、鉤来なダイエットは勧められない。なぜかと言えば、若いうちはともかく年をとると栄養が大事なのだ。少し小太りの方が長生きだというデータがある。太りすぎると糖尿病になり、心筋梗塞脳梗塞になって死を早めるというのが厚生労働省をはじめとする公式的な考えだが、一部の研究者はダイエットをやりすぎると免疫能が低下すると主張している。
寿命に関係する要因はたくさんあるが、なかでも重要な免疫能は栄養状態に依存する。たとえば戦前戦後の死因の1番は結核だった。当時は栄養状態が非常に悪く免疫能が低下していたので、結核菌が体内で増殖し国民病として恐れられた。今や栄養状態もよくなり国民全体免疫能も高まっているので結核はかなり克服されたが、今でもたとえばホームレスなどでは結核が多く発症している。栄養不足は免疫能を低下させ寿命を短くするのだ。
BMI(ボディ・マス・インデックス)はすでに多くの国民が知っている。肥満傾向があるかどうかを簡単にチェックできる体格の指標だ。BMIが高ければ高いほど肥満傾向が強いが、肥満が強くなれば、生活習慣病になりやすく、脳神経系の病の危険率が高まると言われている。
しかし、高齢期に入った人については、BMIと死亡率は関係がないことがわかってきた。むしろBMIが低い人たちの方が死亡率が高いという。それがBMIパラドックスだ。だから、多少太っていた方が長生きするのだろう。痩せたほうが明らかに寿命が短い。