じじぃの「科学・芸術_564_梅棹忠夫『文明の生態史観』」

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梅棹忠夫 文明の生態史観

『見る読書』 榊原英資/著 ベスト新書 2018年発行
視野を広げる より
書かれたのは60年も前ですが、とてもおもしろく、なんとも刺激的な本があります。
生態学民族学者で国立民族学博物館初代館長も務めた京都大学梅棹忠夫は、『文明の生態史観』(初出57年、書籍化67年)で、世界を「第1地域」と「第2地域」に分けて、日本と西ヨーロッパを第1地域としました。
世界を分けた人は、これまでも大勢いました。「西洋」と「東洋」に分けた人もいれば気候や地理で分けた人もおり、民族や文化で分けた人もいます。
「西洋と東洋」や「ヨーロッパとアジア」という分け方の背景には、キリスト教世界とそのほか、白人社会とそのほか、先進地域と後進(発展途上)地域という考え方が、ぬぐいがたくあるでしょう。大航海時代から、とくに産業革命をへて、先進地域として世界を支配した西欧では、そのような分け方が主流でした。
日本もその見方を西洋から輸入して、東洋という地域から引っ越すことはできないが、まずじぶんたちだけは彼らと肩を並べようとか、次は遅れた東洋やアジアを率いる盟主国となって西洋に対抗しようとか、考えたわけです。
だから以前は、学校でコロンブスの「新大陸発見」なんて教えていました。西洋から見た場合に限って「新」大陸のはずなのに、誰もそのことを疑いませんでした。
それはおかしい。「西洋と東洋」という見方、区分の仕方は間違っている。
梅棹忠夫という人は、半世紀以上も前に、そう主張したわけです。
梅棹が描いた、ユーラシア世界の区分図があります。おもしろいので、ご自分で世界地図に線を引いて、区分してみることをお勧めします。
面倒な人は、京都大学の宇宙計画研究室サイトの<「文明の生態史観」にあてはめた各国の宇宙活動>というページをみれば、区分時が載っています。このサイトの表紙は、「これからは宇宙ですわ」という梅棹忠夫の言葉を掲げています。
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梅棹の生態史観は、繰り返し本にまとめられているので、本ごとに表現が微妙に違っていて、別バージョンの本では、右の箇所に「箱入り」という言葉が出てきます。
第1地域は、たしかに中緯度の温帯地域で、適度の雨量があり、森林におおわれた、非常にめぐまれた環境があります。しかも、中央から遠い辺境です。
第2地域から文明が入ってくるのは遅いですが、遠くて攻撃されにくいので、環境のよさとあいまって、安定した社会をゆっくり建設していくことができます。
つまり、第1地域では、土地に根付いた封建制度を長く維持して、誰にもジャマされず富を蓄積することができ(前章で見た江戸時代がそうでしたね)、これが資本主義を準備しました。近代に入ると植民地を獲得して資本主義を本格化させ、やがて帝国主義で世界を席巻し、資本主義を高度化していきました。
第1地域の列強帝国同士は、第2地域を奪い合ってたびたび熾烈な戦争をしましたが、勝った者も負けた者も、依然として第1地域のままです。
それが、イギリス、フランス、ドイツであり日本だ、というわけです。
たしかに、そんな気もしてきます。ユーラシア大陸で起った主な出来事は、だいたい梅棹の生態史観で説明できてしまうのでは、と思うくらいです。