じじぃの「科学・芸術_540_天国への階段・イザベラ女王と宝石」

Queen Isabella I Biography 動画 YouTube
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イザベラ女王
『宝石 欲望と錯覚の世界史』 エイジャー・レイデン/著、和田佐規子/訳 築地書館 2017年発行
エメラルドのオウムとスペイン帝国の盛衰 より
コロンブスは人生で最も意気揚々と帰還した。先住民を誘拐して船に詰め込み、彼らから盗み取った宝飾品少々を添えて、彼は宮廷に献上した。新世界の人々は奴隷にされたり、改宗されたりするのがふさわしい人間だったろうか? イザベラ女王が信じたように、彼らは今やスペインの国民になったのか? あるいは、コロンブスが主張したように、彼らはスペイン帝国の所有にかかる天然資源なのか? それはその後の数世紀間荒れ狂うことになる議論だった。奴隷の将来性を喜ぶスペイン人もいれば、新大陸の資源の可能性に心をそそらされる向きもあった。
イザベラ女王は新世界について、全く別種の興味を持っていた。神の国へと続く何かだ。
コンキスタドールは略奪のために新大陸へ渡ったというのが通説だ。そして、敬虔だが、心得違いの宣教師がその後を追い、強烈に現地人達を改宗させたというのも、また通説。読者諸君、お気づきでないかもしれないが、宣教師達も、コンキスタドール達も、そうした明らかに矛盾する役目のために、全く同じ人物によって送り込まれていたのだ。イザベラ女王である。
イザベラは実際的な能力を備えた女性で、彼女がコロンブスのために自分のコレクションの一部を抵当に入れたエピソードのおかげで、歴史上でも最も有名な宝石収集家の一人となった。また、ここまで見たように、イザベラは猛烈なカトリック教徒でもあった。イザベラ女王はその個人的な願いが願いが独力で世界を作り替え、彼女の生きた世紀とその後の5世紀の経済を変えた数少ない人物の一人である。特に、新世界の字飛戸が全てキリスト教徒になったところを見てみたいと望み、必要なら武力行使もいとわないと考えていた。
カトリック教徒の有名な指導者であったにもかかわらず、彼女は新しい国民についてはどちらとも決めかねているような感覚を持っていたらしい。コロンブスが最初の航海からほんのわずかな宝石類と大勢の人間を荷物として持ち帰ってきた時、スペイン国内では意見が大きく分裂した。結果的にはスペインをバラバラにしてしまうような分裂で、2つの対立する意見を巡って5日間にわたる公判の後、国王の退位へと発展して終った。
コロンブスはヨーロッパの人間のほうが本質的に優れていて、したがって、南北アメリカの現地人を含む、自分達よりも劣っている人種を支配して、奴隷とする「自然の権利」があるのだと信じていた。また、新世界から持ち帰る、黄金や銀、エメラルドなどと同じく、人間も没収物であり、スペインの所有物だと考えた。
イザベラは土着の人間は彼女の国民であり、奴隷ではない、カトリックに改宗させなければならないと強く主張した。事実、この表現よりも、彼女の感じ方は少々深く、そしてずっと奇妙だった。先住民には親切心を持って接しなければならない。また仲間のヨーロッパ人を改宗させるのと同様、先住民も改宗させなけれなならないとイザベラは言う(仲間のヨーロッパ人を改宗させる親切な手法と思えば、少々矛盾した話だが)。新約聖書に書かれている審判がこれであると、全く大真面目にイザベラは力説した。イエスが復活する前にあるという「最後の」審判なのだと。もしもスペインが新世界の全ての人間をカトリック教徒に改宗できたら、キリストは地上に再び現われるだろうと、彼女は信じていた。
しかし、ここで事件が起きる。彼女が収支のバランスを調べてみると、再び破産していることが判明したのだ。話のツボのところ、お気づきだろうか?
イザベラは非常に実用的な考えの持ち主であったと同時に、どこか偽善的な女王でもあった(両立は無理だという理由などない)。原則としてキリストの再来の話と、先住民の改宗問題では一歩も譲らなかった。しかし、彼女は後者について――先住民達を親切心を持って扱い、国民として同等の人間として改宗させる――放っておいて、暗黙の裡に現地の人間を奴隷化し、酷使し、実に目を見張るような規模で無差別の虐殺を承認したのである。そして、彼らは宝石や貴金属、その他の資源を大量に奪った。
では、イザベラはこれをどう正当化したのだろうか。非常に賢い論法だったと言いたいところだが、そうでもなかった。無器用で身勝手な経営ロジックだ。南アメリカの現地人を同等の人間として、スペイン国民としてカトリック教に改宗されることは、天国への階段を買うという試みの本質的な部分として、きわめて重要だとイザベラは信じていた。ただ、そう、それは今ではないのだ。今はまず彼らを奴隷として、全ての黄金や銀、エメラルドを新大陸から掘り尽くして、スペインの聖戦の戦費を賄うことのほうが、もっと重要なのだ。
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彼女を擁護するために言えば、明らかに精神異常だったのだ。