じじぃの「科学・芸術_519_アルツハイマー病・アミロイドβ」

よく眠る事が大切なもう一つの理由 動画 TED
https://www.ted.com/talks/jeff_iliff_one_more_reason_to_get_a_good_night_s_sleep/transcript?language=ja#t-26297
脳の老廃物掃除は睡眠中に活発に働く

睡眠不足に注意! 脳の老廃物掃除は夜勤体制 2016/11/29 日経ナショナル ジオグラフィック社
細胞外に老廃物を排出しても、そのまま近くに放置していてはマズイ。ゴミを集積し、焼却炉へと運ぶ必要がある。体内には細胞外に排出された老廃物を運搬し焼却するシステムがあり、その主なルートがリンパ系システムである。
細胞と細胞の間(細胞間隙)は血管から漏出した体液(血漿(けっしょう)成分)で満たされている。細胞から排出された老廃物を含む体液はリンパ液となって全身に張り巡らされたリンパ管に入り、徐々に太いリンパ管へと合流し、最終的には血管に流し出される。その間、リンパ液や中継地であるリンパ節に存在するマクロファージなどの白血球によって老廃物は取り込まれ(貪食され)、細胞内の酵素などで処理される。
https://style.nikkei.com/article/DGXMZO09282490Y6A101C1000000
『身体をめぐるリンパの不思議』 中西貴之/著 技術評論社 2015年発行
認知症とリンパシステム より
脳は重さでは体重の2%しかないのに、消費する酸素の量は全身の20%にもなります。脳の非常に高度な活動を支えるためには栄養や酸素が大量に必要なので、脳は血管を非常に密に張り巡らせています。また、脳は全身で最も重要な器官なので感染症や血液中の有害物質が流入するのを防ぐために、血液ー脳関門と呼ばれるバリア機能を発達させ、全身の中で完全に隔離されたクリーンルームのような環境を作り上げました。
ところがその結果、細胞と細胞の隙間を満たす間質液は、行き場を失ってしまっています。脳以外の臓器であればそこに毛細リンパ管が存在し余剰な水分や老廃物をくみ出すのですが、リンパ管は雑菌の通り道でもあるため脳には存在していません。
そこで脳は、血管周囲リンパ排液路という独特の仕組みを作りあげました。血管周囲リンパ排液路はその名前から推測されるとおり、脳内毛細動脈血管の最も外側の細胞がこの排液路を兼ねています。つまり、この排液路は管ではなく、動脈血管の壁そのものが排液路を兼ねており、そこを滑るように動脈の拍動をポンプ代わりにして高速で老廃物が排出される経路です。この経路が発見されたのは1990年代初頭のことでした。
脳にはβアミロイドというタンパク質があります。アルツハイマー病患者の脳に蓄積していることが発見されたことから、アルツハイマー病の発症に大きく関わっていることが指摘されています。
アルツハイマー病治療薬のターゲットの1つが、このβアミロイドです。βアミロイドが作り出されることを抑制することによって、アルツハイマー病の進行遅延や予防ができるのではないかという説に基づいて、いろいろな新規医薬品の研究が進んでいます。
現時点で決定的な医薬品は見つかっていませんが、もし、βアミロイドが脳内にないことが治療につながるのではあれば、生成は許すとしても、βアミロイドがスムーズに排出され、その蓄積を防ぐことが出来れば、アルツハイマー病は防げるのではないかという仮説も立てることが可能です。
βアミロイドは脳内の間質液中にありますが、これらは血液と脳を隔てる血液ー脳関門を通過することが出来ません。そのため通常は、血管を使った排出、血管周囲リンパ排液路、脳内での分解処分の3通りのいずれかで処理されていると考えられています。
処理の詳しいメカニズムはまだ解明されていないのですが、βアミロイドの何割かは、血管周囲リンパ排液路で脳の外部に運び出され、頸動脈近くのリンパ節に流れ込みます。アルツハイマー病患者の脳におけるβアミロイドの蓄積部位と、リンパ経由の排液路との位置関係を調べると、それらは見事に一致していることから、リンパ系での排出能力の低下によってβアミロイドの蓄積が始まることが示唆されています。実際に、老齢マウスでは血管周囲リンパ排液路が詰まって機能が低下していることが確認されています。