じじぃの「科学・芸術_438_ヒトの秘密・拡大する文明格差」

ダイアモンド博士の“ヒトの秘密”[終] #12「“格差”をのりこえて」 動画 Dailymotion
https://www.dailymotion.com/video/x6gseb3
Jared Diamond The Third Chimpanzee

世界の所得比較図 (2017)

WDI 2017 Maps
For the current 2017 fiscal year, low-income economies are defined as those with a GNI per capita, calculated using the World Bank Atlas method, of $1,025 or less in 2015; lower-middle-income economies are those with a GNI per capita between $1,026 and $4,035; upper-middle-income economies are those with a GNI per capita between $4,036 and $12,475; high-income economies are those with a GNI per capita of $12,476 or more.
https://data.worldbank.org/products/wdi-maps
ダイアモンド博士の“ヒトの秘密” 「12 “格差”をのりこえて」 2018年3月23日 NHK Eテレ
12回シリーズの最終回は、拡大する文明格差について。
今、世界の富は一部の富裕層に集中し、貧困層との隔たりが大きな社会問題となっている。また、国家間の経済格差は、国際社会をきわめて不安定にしている。ダイアモンド博士は、ヒトの社会が抱える大きな矛盾を示しつつ、未来を担う生徒たちにメッセージを託す。
今日は格差と富の集中についてお話します。
社会の中の不平等、そして国家間の富の不均衡は未来に暗い影を落とす大きな問題です。
太古から続く伝統的な社会、いわゆる部族社会はおおむね平等でした。平等ということは住民が同じくらい裕福で同じような社会的地位を得ていることを意味します。
伝統的な暮らしでは食糧を保存できなかったため、集落の全員が狩猟採集民や農民として働きました。
世襲のリーダーや王様や官僚を養う余裕はなかったのです。
ある日、南太平洋のソロモン諸島で畑で働く男性が私に手を振って挨拶しました。
どこの農家の方と思ったら、その方は現地で大変著名な芸術家でした。
平等な社会ではセレブでも庶民と同じようにタロイモを作る必要があるわけです。
伝統社会の不平等はこのようにごく小さいものです。
しかし今日、社会の不平等は世界各国できわめて深刻な問題に発展しつつあります。
国内社会の不平等
博士 先進国のなかで平等から最も遠い国はどこでしょう?
生徒たち アメリカ!
博士 先進国で最も不平等な社会。みなさんはまさにそこにいる。
この国はお金持ちと貧乏な人の格差がとても大きいのです。
先進国で貧富の差が大きいのは、アメリカ、ポルトガル、そしてイギリスです。しかもこの国の格差は拡大しています。
「社会的経済的流動性」という言葉があります。
貧しい両親のもとに生まれた子どもが貧困層から脱して富裕層の仲間入りをする機会や可能性を示しています。
アメリカの社会的経済的流動性は他の先進国と比べて低く、しかもアメリカン・ドリームをつかむ機会は減っています。この不平等はどのような結果をもたらすのでしょうか。
博士 貧困層の人々はどんな困難に直面していくと思いますか?
生徒 周囲から見下される状況が定着してしまって、誰も手を差し出さなくなっています。
博士 何で、健康状態が良くないのでしょう?
生徒 ジャンクフードが安いから。
博士 安い食品は不健康なものが多く、適切な医療を受けるのも困難です。
生徒 教育の問題。
博士 教育が行き届かないし、1クラスの人数が多くなりすぎる。国のなかの不平等は健康と社会的問題に大きく影響します。
アメリカは乳児死亡率が他の先進国はもちろん、キューバよりも高い。そして肥満率も先進国でトップです。
健康の問題、特にメンタルヘルスの問題も深刻です。そして、不平等は暴動のリスクを伴います。
国家間の不均衡
国が色分けされています。赤く塗られているのが世界で最も豊かな国。アメリカ、カナダ、西ヨーロッパ諸国。
国家間の不均衡の主な原因は農業の始まりにあることはこの授業でも見てきました。
博士 その他にも何か原因がありますか?
生徒 水へのアクセス。
博士 主要な水路へのアクセス。内陸国の問題です。アフリカにはザンビアジンバブエウガンダなど15の内陸国があります。内陸国は海の接する国と比べ、平均40%貧しいといわれています。そして天然資源です。石油や木材、宝石などがある国の方が豊かな国になると思いがちですが、逆なんです。天然資源の輸出で収入を得る国は貧しくなる傾向にあります。アンゴラの石油、シエラレオネのダイヤモンド、ボリビアの鉱山などです。
博士 なぜ、資源を持つ国が貧しくなってしまうのでしょう?
生徒 彼らがその資源を自由にできないからじゃないでしょうか。資源を買う方の国の発言権が高くなっているから。
博士 それも理由の1つ。資源が特定の場所にだけあるというのも問題です。ナイジェリアでは国の南東部に油田がありますが、これが内戦の原因となりました。
http://www4.nhk.or.jp/diamond-hakushi/x/2018-03-23/31/11164/2753032/
『若い読者のための第3のチンパンジー ジャレド・ダイアモンド/著、秋山勝/訳 草思社文庫 2017年発行
農業がもたらした光と影 より
現代の狩猟採集民は何千年にもわたって農業社会に隣接しながら暮らしてきた。しかし、農業革命がおこる以前、狩猟採集民はどのような生活を送っていたのだろう。はるか遠い過去の時代に生きていた人たちの生活は、狩猟から農業に切り替えてからはたして向上したのだろうか。
古病理学者のおかげで、こうした疑問に対しても答えを出せるようになってきた。古病理学者は大昔に生きていた人びとの遺骨から病気の徴候を研究している。身長が歴史的にどのように変化してきたのかを見てみよう。栄養状態が改善された結果、現代人は9〜10世紀前に生きていた人たちよりも身長が伸びたことは知られている。たとえば、中世の城の入り口に入るときに身をかがめなくてはならないのは、栄養不足のせいで、当時の城はいまよりも身長が低かった人に合わせて建てられていたからなのである。
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農業はさらにもうひとつ、人間性に対する元凶をもたらしていた。階級の分化である。狩猟採集民は食料を貯蔵せず、もっていてもほんのわずかで、果樹園や牛の群れなどのように食料資源を集中させることもなかった。日々手に入る野性の植物や獲物で暮らしを立て、子どもや病人、老人を除き、全員がいっしょになって食べ物を探しに出かけたのだ。王や専門職に従事する者はおらず、他人の食べ物に頼ってぬくぬくと肥えていく社会的寄生者もいなかった。
農業を営む集団において唯一、病気にさいなまされる大衆と、富と権力をもって生産にはまったく従事しない健康なエリート階級という対比が明らかになっていく。紀元前1500年前後のギリシャ人の墓から出土した骨はこの対比を示す1例だ。王侯貴族は平民よりもいいものを口にしていたことが出土した骨からうかがえる。
たとえば、王侯貴族の身長は、平民に比べて5〜8センチ高かった。また、王侯貴族の場合、虫歯と欠損歯は平均1本だが、平民の平均は6本だった。この例とよく似た特徴を示していたのが南アメリカで出土した遺体だ。南米チリの墓地にいまから3000年前に埋葬されたミイラで、遺体は装飾品や金の髪飾りをまとい、骨には感染症による損傷が残っていたが、損傷頻度は平民の4分の1程度でしかなかった。
アメリカやヨーロッパの大半の読者には、人間性の点で、狩猟採集民のほうが現在の私たちよりも豊かな暮らし向きだったという考えは馬鹿げたものに聞こえるかもしれない。産業社会に暮らす大勢の人間のほうが、狩猟採集民よりも健康な暮らしを楽しんでいるからだ。しかし、アメリカ人もヨーロッパ人も今日の世界ではエリートにほかならない。石油やほかの資源は他国からの輸入に依存しているのである。資源輸出国には膨大な数の貧しい農民がいて、健康状態の点では世界の水準をはるかに下回っているのだ。