じじぃの「科学・芸術_409_映画『戦場にかける橋』」

戦場にかける橋 予告編 動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=HFWPW789Q6I

『戦場にかける橋』はなぜ面白いのか 2014年2月19日 ジス・イズ・レジェンド『戦場にかける橋』The Bridge on the River Kwai (1957)
監督 : デヴィッド・リーン
原作 : ピエール・ブール『戦場にかける橋』
製作 : サム・スピーゲル
言わずと知れた映画史に残る最も重要な映画の一つ、『戦場にかける橋』という映画がある。
製作から50年以上過ぎた今でも、デヴィッド・リーンの『戦場にかける橋』『アラビアのロレンス』を最高傑作として語る人もいる。その一人がシドニー・ポラックであり、スティーブン・スピルバーグだ。
http://tamakinosuke.blogspot.jp/2014/02/blog-post_19.html
『巨匠たちの映画術』 西村雄一郎/著 キネマ旬報社 1999年発行
大自然を写すコツ より
女性心理を描くことがうまかった巨匠監督デヴィッド・リーンが、もうひとつ得意としたものは、大自然の描写であった。
大砂漠、大雪原、大海原――どうしても”大”の字をつくたくなるほど、リーン映画に登場する自然の壮大さ、厳粛さ、過酷さ、神秘性は、とにかく圧倒的だ。
そして非常に特徴的なのは、それと対照的に描かれるのが、人間の微小さ、矮小さ、ちっぽけさなのである。画面に写しだされる大自然の前では、人間界のできごとなど、とるに足らぬものなのだ。その対比が鮮やかであればあるほど、人間たちはより卑小に、大自然はより壮大に見える。のみならず、人間たちのドラマをとうとうと押し流す時間の大きさ、永遠さえも、リーン作品からは感じることができる。
この”雄大な自然と微小な人間”というテーマを表すのに、映画の大画面はこれ以上ない媒体であった。今回紹介する4つの作品のうち、「戦場にかける橋」を除いた3作品は、すべて70ミリである。60年代、映画がテレビに対抗して打ち出した70ミリという武器を、デヴィッド・リーンほど生かしきった人はいなかった。
特に「アラビアのロレンス」は、「70ミリが初めてなしえた芸術作品」と評された。どこまでも果てしなく続く砂漠の地平線、その中をちょこまかと動く人間という構図は、大画面だからこそ表現できたものだった。この章ではデヴィッド・リーンが作った大作をテキストにしながら、自然描写の卓越したシーンをピックアップして、自然を表現するときのヒントを考えてみることにしよう。
デヴィッド・リーンは冒頭のシーンが抜群にうまい。のっけから映画全体の核となるものをズバリ見せて、見る者の心をぐいぐいと大自然の胸元にまで引っ張っていく。
「戦場にかける橋」はビルマ(現ミャンマー)戦線で日本軍の捕虜になった英米人が、死の鉄道路線にかりだされて、クワイ河に橋をかけようとする話だ。
まずトップ・カットは静かな大空をハゲタカ。次にそのハゲタカが見た主観ショットのように、空撮でとらえた大密林全体の姿が映る。鳥の声が大きく響く中、今度はカメラはジャングルの中に降りて、樹木をパン・ダウンした後、右へ横移動していく。
そこには、欧米人たちの死体が埋められた場所を示す十字架と線路が見える。その線路の上をものすごい勢いで横切る列車。そこでメインタイトルが出る。列車には多くの捕虜たちが乗せられ、その列車が着いた所は発掘の作業場で、何百もの捕虜たちが働かされていた。
このように、プロローグ部分で全体から核心へと導きながら加速度的にテンポを速め、むんむんとするような迫力で推しきっていく。この発端で紹介されるジャングルの熱さに狂わされた人間の熱気が、ラスト・シーンでアメリカ人士官が叫ぶ「マッドネス! マッドネス!(狂気だ! 狂気だ!)」という結論につながっていくのだ。
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ちなみに、そうした演出意図で作られた構図をトリミングしてしまうと、リーン監督の考えたことが半分も伝わらない。「アラビアのロレンス」を衛星放送で放映した時も、70ミリの画面の両端を切り、トリミングしていたが、これでは、練りに練られた”点と線”の構図がめちゃくちゃになってしまう。
この映画だけは、映画館で見るのが無理なら、せめてビデオの”完成版”と呼ばれるノートリミング版でご覧になることをお勧めする。
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大自然の描写の奥底に隠された、こうした微妙な味わいを見据えてこそ、”雄大な自然と卑小な人間”というテーマが、より明確になってくるのだ。
最後に、音楽について述べておきたい。アリ登場の場面を除き、これまで述べてきたすべてのシーンには、繊細かつ勇壮な音楽が入っている。
「戦場にかける橋」のタイトルにはマルコム・アーノルドの強烈な音楽、それに続く捕虜の行進シーンには、有名な『クワイ河マーチ』が鳴り渡る。
また70ミリ映画の3本では、モーリス・ジャールの音楽が、重要な役割を果たした。ジャールの音楽抜きにして、リーン作品は考えられないほどだ。