じじぃの「科学・芸術_383_光合成の発見」

History of Photosynthesis 動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=LgThiMETkv0
Photosynthesis

『土と内臓 (微生物がつくる世界)』 デイビッド・モントゴメリー、アン・ビクレー/著、片岡夏実/訳 築地書館 2016年発行
光合成の発見 より
1634年、フランドルの化学者で医師のヤン・バポティスタ・ファン・ヘルモントは、土壌肥沃度と植物の生長という不可解な世界の研究を始めた。もっともこれは、一番やりたかったことではなかった。錬金術師として訓練を受けたファン・ヘルモントは、自然物には物体を引き寄せたり斥けたりできる力が備わっており、またそれは観察と実験を通じて理解できると信じていた。ファン・ヘルモントは、自然現象の説明において神の介在を否認したために、教会と衝突した。機嫌を損ねた異端審問所は、神の被造物――自然――の働きを調べた厚かましい傲慢の罪でファン・ヘルモントを告発し、自宅軟禁を言い渡した。
数年にわたり自宅に閉じこめられたファン・ヘルモントは、その時間をうまく生かして、小さな種がいかにして大木になることができるのかを考え始めた。植物がどうして生長するかはまったくわかっていなかった。植物には口も歯もなく、獲物を追うこともなければ、何かを食べている様子もまったぅない。じっと動かずに大きくなっていくだけだ。植物は土を食べているという支配的な考え方に納得できなかったファン・ヘルモントは、2キロのヤナギの苗木を90キログラムの乾燥した土を入れた鉢に植えて、水だけ与えながら木が育つに任せた。自宅に閉じこめられた人間にとっておあつらえ向きの実験だ。5年が経ったとき、再び木の重さを量ると75キロに増えていたが、土の重さは60グラム減っただけだった。木は水を取り込んで生長すると、ファン・ヘルモントは結論した。
この発見に励まされたファン・ヘルモントは、さまざまな実験を試みた。その中の1つでは、28キロのオークの木炭を燃やし、灰を注意深く集めて重さを量ったところ、27.5キロの気体(二酸化炭素)ができていた。木を燃やすと灰ができることに不思議はない。だが、気体が、ましてこれほど大量に発生するというのは新発見さった。これ以前は、植物の大部分が目に見えない気体でできているという考えなど、お笑いぐさだっただろう。ファン・ヘルモントがこの2つの実験を結びつけていたら、植物は土から吸い上げた水と空気中の気体、それと少量の鉱物由来の材料を合成して自分の身体を作っていることに気づいていたかもしれない。
1世紀後半ののち、植物生理学を研究していたスイスの化学者、ニコラス=テオドール・ド・ソシュールが、それを1つにまとめた。1804年、ド・ソシュールはファン・ヘルモントの実験を再現し、植物が消費した水と二酸化炭素の重さを慎重に測定して、詳細を明らかにした。数十分の1グラムの精度を持つ新型機器の扱いに熟達した実験の名人だったド・ソシュールは、植物が液体の水と気体の二酸化炭素を太陽光の下で合成して生長することを実証した。私たちが光合成と呼ぶプロセスだ。
ド・ソシュールの発見は、肥沃度についての理解をひっくり返した。植物は炭素を土壌の腐植質から吸い上げるのではない。空気から取り出しているのだ! この逆転は、植物が腐植質(腐りかけた有機物)を吸収して生長するという何世紀も前からの認識を疑わせるものだった。それでもまだ、ド・ソシュールの研究は直感に反していた。何と言おうと農民は、先祖代々、畜糞が作物の生長を助けることをよく知っていたのだ。