じじぃの「科学・芸術_373_ヒトの秘密・ヒトが作り出した言語」

Vervet monkey's escape plans - Talk to the Animals: Episode 2 Preview - BBC One 動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=q8ZG8Dpc8mM
Jared Diamond The Third Chimpanzee

pidgin and creole of Hawaii

ダイアモンド博士の“ヒトの秘密 「2 動物のコトバ、ヒトの言語」 2018年1月12日 NHK Eテレ
第2回は、ヒトが作り出した最も古くて重要な「言語」について。
ヒトは進化の過程で言語を手に入れ、高度の文明を築くことができた。では、動物には言語は無かったのか。ヒトは、どのようにして複雑な言語を獲得したのか。ユニークな発想で生物の進化を見つめるジャレド・ダイアモンド博士が、この疑問を解き明かす。
前回の授業で、チンパンジーからヒトが進化した経緯をたどってきたように言語においても進化の道筋をたどる事ができると思います。
私たちの初期の言語はベルベットモンキーのヒョウ、ワシ、ニシキヘビのように名詞だけだったと思われます。
そして、言語は少しずつ複雑に進化し農園で話されていたピジン語(ハワイなどで話される言語)のように形容詞や副詞も含まれるようになったのでしょう。
続いて、クレオール語ピジン語から発達した言語)のように単語の順番が任意で代名詞などが加わった複雑な言語が登場しました。
そして、最後に今私たちが使っている言語に行き着くのです。
https://hh.pid.nhk.or.jp/pidh07/ProgramIntro/Show.do?pkey=001-20180114-31-08627
『若い読者のための第3のチンパンジー ジャレド・ダイアモンド/著、秋山勝/訳 草思社文庫 2017年発行
言語の不思議 より
鳥はさえずり、犬はほえている。ほとんどの人が、毎日の生活のなかで動物の鳴き声を耳にする機会に接している。動物の鳴き声に関する理解が一気に進んだのは、野性の動物の声を録音できる高品質のレコーダー、鳴き声の微妙な違いを解析できるソフトウェア、採録した動物たちに聞かせてその反応を調べるといった、新しい機器や手法が開発されたおかげだ。そして、こうした研究からわかったのは、動物の音声コミュニケーションは、半世紀前に考えられていた以上にはるかにヒトの言語に近いということだったのである。
「動物の言語」に関して、これまでおこなわれた実験のなかでも、もっとも精巧をきわめていたのがベルベットモンキーの研究だ。ベルベットモンキーはアフリカではごく普通に見られる猫ぐらいの大きさをしたサルである。野生のベルベットモンキーは、サバンナや降雨林の樹上でも地上でも暮らしていける。そして、ほかの動物と同じように、ベルベットモンキーもまた効果的なコミュニケーションを使うことで、生きのびていける状況に毎日のように直面している。
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動物とヒトのコミュニケーションのあいだに開いたギャップは確かに大きく隔たっているが、研究者はこのギャップの橋渡しをするために動物の側から理解を積み上げている。この橋について今度はヒトの側からたどってみることにしよう。動物がもっと複雑な「言語」を私たちはすでに発見してきた。そして、文字通りの原始的なヒトの言語はいまだに存在しているのだろうか。
原始的な言語がどんなものだったのかを理解するため、普通のヒトの言語とベルベットモンキーの音声がどのように違うのかそれを考えてみよう。違いのひとつは、ヒトの言語には分法、つまり言葉をどのように使って文章を組み立てていくのか、それを調整するルールがある。
2つ目に、ベルベットモンキーの音声は、たとえば「タカ」あるいは「タカに注意しろ」などのように、目に見えるものや行動に移すことができるのを表わしているという違いだ。しかし、ヒトの言語がもつ単語の半分近くは、「そして」「なぜなら」「はずだ」などのような言葉で、目に見えたり、行動に移せたりできるような物事について表現している言葉ではないのだ。
3番目の違いはヒトの言語は階層的な構造をもっている点だ。ヒトの言葉は昔、音節、単語、句、文章といった異なるレベルで構成されている。下のレベルの上に次のレベルがそれぞれ構成されていて、下よりは上のレベルのほうが大きい。最下位のレベルは数十個の音からできている。その次のレベルでは、こうした音が組み合わさって千万別の音節が作られる。次に音節が結びつくことで何千という数の単語が生まれるわけだが、これらの単語が文法規則に従って句へと連なっていく。それから句は連結して、どこまでも組み合わせ可能な、膨大な数の文章を作っていくのだ。
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ピジンからクレオールへ、あるいは2歳児による単語の羅列から4歳児が作る完全な文章へという変化は、なみなみならぬ大きなステップだ。このステップで、接頭辞、接尾辞、語順といった文法上の要素が加わる。また、「そして」「する前に」「もしも」といった、現実世界の具体的な事物には言及しないかわりに、文法的な働きをもつ単語もこのステップで加わる。この段階を迎えて、単語は句や文章へと整っていく。おそらく、大躍進の引き金となったのが、この巨大な一歩だったのだろう。
人間のコミュニケーションと動物のコミュニケーションは、かつて埋めようのないギャゥプで隔たれていると考えられていた。しかし、現在、私たちはそれぞれの岸から架けられた橋の一部を特定したうえに、ギャップのあいだに置かれた足がかりの踏み石さえ見つけ出した。ヒトのもっともユニークで重要な特徴である言葉――その言葉が、動物の世界にいたヒトの祖先からどのように発生したのかについて、私たちの理解はようやく始まったのである。