じじぃの「科学・芸術_368_ニューロンの同期発火・結びつけ問題」

How a Neuron Fires 動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=C4Gt322-XxI
ニューロンの同期発火


同期発火現象(Synchronous firing) J-STAGE
ニューロン神経細胞)は連続的な刺激の印加によって短い時間幅のスパイクを発生させる。この現象は発火と呼ばれ、脳内の情報処理において重要な役割を担うことは近年の脳科学における基本的な認識となっている。この発火による情報のコーディング方法としては、ニューロンの発火頻度、集団(グループ)の発火活動によるコーディング、短い時間間隔での発火パターンによる符号化などが考えられている。一方で複数のニューロンが同時(あるいはある一定の間隔を保って)に発火するなどニューロン同士が見せる発火のタイミングの関係性が重要であるとも考えられている。このような発火現象は同期発火(Synchronous firing)と呼ばれている。
同期発火はとくに結びつけ問題(Binding problem)と非常に深い関わりがあると考えられている。結びつけ問題とは脳科学における未解決問題の一つである。通常、視覚や聴覚などの感覚器が受ける情報は脳に伝わると形や色、運動方向やその速度などの細かな情報に分割されそれぞれについて処理される。そしてこれらを再統合するのだが、細分化された情報をどのようにして統合しているのかというメカニズムの詳細は解明されていない。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsoft/26/3/26_113_1/_article/-char/ja/
『脳研究の最前線(上巻)』 理化学研究所脳科学総合研究センター/編 ブルーバックス 2007年発行
脳はどのように情報を伝えるのか より
現在では、複数の神経細胞の発火に同期が見られる例はいくつも知られています。ただし、個々のニューロンの膜電位のリズミックな振動を伴う同期発火と、振動現象を伴わない同期発火が存在するため、これら2つの同期発火は別々の情報伝達表現と考えたほうがいいかもしれません。歴史的にみて、脳の認知機能と結びついて議論されてきたのは、脳波に代表される振動的な脳活動です。またリズム現象は物理学でもよく研究されてきたテーマなので、理論的な道具立ても揃っています。そこで、ここではまず振動的な脳活動に着目したいと思います。
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このように、脳には特徴的な周波数をもった振動活動が存在することがわかってきました。さらに、そのようなリズミックな脳活動が特に注目されるようになったのが、1990年代にマックスプランク研究所のジンガーらによって行われたネコの視覚野における電気生理実験と、そこから提起された「結びつけ問題」です。結びつけ問題はもともと視覚認知に関係して提起されたものでしたが、他の感覚情報の認知にも当てはまるものだったのです。この問題を、図(画像参照)を例に説明しましょう。
この図形をじっと眺めていると、あるときは花瓶に見えたり、あるときには向き合う人の顔に見えたり、認知される視覚対象がゆっくり交替するはずです。注意して欲しいのは、物理的な意味での視覚刺激は変化しないのに、図形の解釈の仕方が変化するという点です。一般に、一次視覚野のニューロンが応答できる視野の範囲(受容野と呼ばれます)は非常に狭いため、個々のニューロンの応答は受容している視覚刺激がどういう図形の一部かということには無関係なはずです。
上図の例では、図形の輪郭線上のある点に応答する一次視覚野のニューロンは、その点が花瓶の一部であろうと人の顔の一部であろうと、応答を変えることはないはずです。しかし認知の最終段階では、一次視覚野での視覚対象の断片的情報が、意味のある全体情報に正しく統合される必要があります。この統合かの問題を「結びつけ問題」と呼びます。
問題はそのような視覚対象の統合がどこで、どのようにして行われているのかということです。ジンガーらは、一次視覚野のニューロン活動がガンマ周波数で同時発火したときに統合が起こると主張しました。いま図の中の花瓶に注目してみます。このとき図中のA点とC点は、花瓶の輪郭に属しますが、向き合う人に注目すると、A点とC点は別々の顔の輪郭に属するようになります。(図のA点は顔の眉毛、B点は同じ顔の鼻上、C点は向かい合う顔の鼻上)
ジンガーの仮説によれば、脳が花瓶に注目している認知的状態にあるときには、これら2点に応答する一次視覚野のニューロンのスパイク発火は同期し、向かい合う顔に注目している場合は同期しないことになります。
一方、A点とB点はどちらの場合も単一の視覚対象に属するため、常に同期がみられることになります。つまりスパイク発火の同期は、断片的な視覚情報の間の関係性を表現するというのがジンガーらの主張です。
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例えば、視覚刺激が存在している空間的な位置情報が、結びつけ問題を解く鍵になるかもしれません。つまり同じ空間位置にある形と色の情報が、脳の中で自然に結びつけられればそれでいいわけです。しかしその場合でも、物体の場所、色、形状など異なる属性の情報は、いったん分解され、脳内の違う経路を通って処理された後、連合野などで再結合されて認知されるため、やはり情報の統合の問題は残ったままなのです。