じじぃの「科学・芸術_338_映画『ゾンビ』」

Dawn Of The Dead (ゾンビ〉(1978)予告編 動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=l_EasMitEZU
 映画『ゾンビ』 1978

アナザーストーリーズ 運命の分岐点 ▽ゾンビ誕生の衝撃なぜ世界は恐怖したのか? 2017年11月28日 NHK BSプレミアム
【司会】沢尻エリカ
ホラー映画に革命を起こした“ゾンビ”! 1968年に公開された第1作「ナイト・オブ・ザ・リビングデッド」は歴史的名作としてNY近代美術館に永久収蔵されている。
究極のエンターテインメント、そこには人種差別やベトナム戦争アメリカが揺れた時代のメッセージが込められていた。ゾンビとは本当は何なのか? 今年亡くなった鬼才ロメロ監督の知られざる思いとは? アメリカの悪夢を描いた若者たちのアナザーストーリー。
https://www.nhk.or.jp/docudocu/program/3444/1453077/index.html
『ゾンビでわかる神経科学』 ティモシー・ヴァースタイネン、ブラッドリー・ヴォイテック/著、鬼澤忍/訳 太田出版 2016年発行
のそのそ歩きの神経相関 より
映画『ゾンビ(Dawn of the Dead)』(1978年)にこんなシーンがある。主人公たちが安全を確保し、数週間にわたって生活してきたショッピングセンターに、乱暴なならず者が押し入ってくる。これが原因で、モールの外に集まっていたゾンビの群れが、その後はどこからでも自由に侵入できるようになってしまう。人間たちがゲームに興じながら威勢よく動きまわっているあいだ、ゾンビはのそのそとぎこちなく徘徊している。人間たちは個々のゾンビの脅威をいとも簡単に退けてしまう。生ける屍はあまりにも動きがにぶいからだ。真の脅威が訪れるのは、人間側が数で劣勢に立たされたあとのことだ。
ゾンビのゆっくりしたぎこちない動きは、彼らの行動の最もわかりやすい特徴かもしれない(もちろん、かみついて人肉をむさぼることを除けば)。ゾンビのまねをしてくれるよう誰かに頼めば、その人はまずこんなふうにするだろう。両腕を前に伸ばし、スタンスを広げ、両足をこわばらせ、低くしゃがれたうめき声をあげる。というのも、映画に出てくるゾンビは生き返るやいなや歩きはじめるからだ。いや、歩くというより……むしろのろのろと進んでいく。一歩一歩がのろのろしていて実につらそうだ。歩幅は広く、ぎくしゃくしている。以上のことから、ゾンビの脳に何が起きているかについて、とても重要な手がかりが得られる。
では、健康な人のスムーズで、機敏で、調和のとれた正常な動きが、ゾンビの典型的なのそのそ歩きに変わってしまうのはどんな場合だろうか?
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こうした制約のもとで、大脳基底核が機能不全に陥っているときに何が起こるかを考え、小脳に障害が発生した場合とくらべてみよう。両方のケースで、人は歩くことや動作の調整に苦労するが、それにはさまざまなパターンがある。たとえば、パーキンソン病の患者は前屈みになり、足を引きずって小刻みに歩く。また、はっきりした目標がなければ行動を起こすのが難しい(動きが固まってしまうことが多い)。対照的に、脊髄小脳失調にかかった人は、脚を広げたこわばった姿勢をとり、大きな歩幅でのそのそと歩く。この病気の患者は、パーキンソン病の人と違って行動を起こすのは難しくない。
こうした情報をもとにすると、ゾンビの脳はどう診断できるのだろうか? 映画のなかで、歩く屍は脚を広げたこわばった姿勢をとり、大きな歩幅でのそのそ歩く。動きは(たいてい)のろく、スムーズで調和のある行動は見られない。だが、動作を起こすのが難しいようには見えない。実際、ゾンビはほとんどつねに活動しており、動きはじめる(たとえば新たな犠牲者に手を伸ばす)のが困難ということは決してないし、動いている最中に止まることもない。脚も引きずらなければ、前屈みにもならない。
これらの理由から、ゾンビに見られる一群の症状――広い歩幅、のそのそとした歩き方、止まることのない動作、苦もなく行動の基本計画を立てて実行すること――は、小脳変性症のパターンを示しているといっていい。つまり、ゾンビ感染の運動症状の多くは小脳機能障害のせいで生じるのだ。いっぽう、大脳皮質運動野と大脳基底核の神経経路はあまり損なわれていないはずである。