じじぃの「科学・芸術_294_ギリシャ叙事詩『イリアス』」

Classics Summarized: The Iliad 動画 YouTube
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CLOUD | The Trojan Horse (from jmyrtle13 Productions) 動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=9RYGQQ_qybY
Trojan War

Map of the Trojan War States

ホメーロスイーリアス物語 (岩波少年文庫) 2013 バーバラ・レオニ・ピカード (著), 高杉 一郎 (翻訳) Amazon
ホメーロスの『イーリアス』を散文の形で再話した本です。
トロイア戦争アキレウスを軸にして語っていきます。
気まぐれに動いているような神々や喜怒哀楽の人間たちを描き、トロイア戦争ギリシャトロイア双方に「ほとんどなんの利益ももたらさなかった戦争」と締めくくっています。
時間的にも地理的にも遠いかなたの話のようでいて、実は身近な話のようにも思えてきました。

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『世界文学大図鑑』 ジェイムズ・キャントンほか/著、沼野充義/監修 三省堂 2017年発行
歌え、女神よ、アキレウスの怒りを 『イリアス』(紀元前8世紀ごろ)ホメロスの作とされる より
イリアス』は洗練された物語である。そこでは、イリウム(トロイア)で起こった戦争の話が、あるひとりの登場人物――アキレウス――の視点から語られる。回想や未来の預言という形で語られる場面もある。物語の大筋には、いくつも脇筋が織りこまれ、登場人物たちの人生についての洞察が加えられる。どこまでがホメロスの功績によるものなのか、どこまでがそれより前の世代によって磨かれ、潤色されたものなのかは定かではない。だが、完成した作品には、歴史や伝説や神話が融合され、読み進めたくなるすぐれた物語に不可欠な要素――冒険と人間ドラマ――がそろっている。
イリアス』は、長さにおいても物語のスケールにおいても壮大であり、全24巻に及ぶ。ホメロスは話を単に時系列に沿って語るのではなく、叙事詩の多くに共通する仕掛けを使って読者の興味を引く。すなわち、展開する物語の真っただなかに向って、読者を突き落とすような仕掛けである。ホメロスの物語は戦争の9年目、つまり最後の年からはじまる。ときおり横道にそれて出来事の背景について説明が加えられるものの、同時代の読者なら戦争の原因についてよく知っているはずだという前提で話が進められる。
トロイア戦争は、海のニンフであるテテイスと英雄ヘラクレスの友でギリシャの英雄であるペレウスとの婚礼の際に起こった出来事に端を発する。
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戦争と流血と憤激のあと、ホメロス叙事詩は平和と和解で終わる。おそらくこの詩で最も強く記憶に残り、心を動かされるのは、年老いたプリアモス王がアキレウスのもとを訪れ、息子ヘクトールの亡骸(なきがら)を返してくれと嘆願する場面だろう。老人の訴えに心を動かされたアキレウスは、一時休戦を申し入れて、しかるべき葬儀を執りおこなう時間をトロイア人に与え、それによってみずからの怒りも静めていく。だが、こうした一見平和な結末を目にしても、わたしたちはこの静けさが長つづきしないと知っている。戦いはふたたびはじまって、トロイアは陥落し、いつかアキレウスは死ぬことになるだろう。物語はまだ完結していない。
それどころか、ホメロスの2作目の叙事詩オデュッセイア』では、この戦いのあと、ギリシャの別の英雄オデュッセウス(ローマではユリシーズと呼ばれる)がトロイアからイタケーへの帰途でたどる運命が描かれ、未解決の部分が完成される。『オデュッセイア』のなかで、オデュッセウスは最終的にトロイアが滅亡し、アキレウスが死んだことを語るが、それこそがまさにみずからの苦難に満ちた旅の背景となっている。
イリアス』と『オデュッセイア』が古代ギリシャやローマの文学、ひいては西洋の文学全体に及ぼした影響については、どれほど強調しても言い過ぎにはなるまい。ヨーロッパ最古の文学作品であるだけでなく、叙事詩というジャンルの基盤を確然と築いた記念碑的作品でもあるからだ。
ホメロスが巧みに用いる複雑で視覚的効果の高い比喩は、作品に空前の深みを与えた。また、強弱弱六歩格を使いこなすことで、心に響く音楽性が生まれている。ホメロスの用いた韻律はその後のギリシャ語やラテン語叙事詩にも取り入れられ、方言混じりの語りことばはギリシャの文章語として認められていった。
何より意義深いのは、民族に口承されてきた英雄の物語をホメロスが文学の形――叙事詩――に変えたことだろう。また、この形式の特徴も明確にした。たとえば、英雄の探求や旅を物語の中心とし、歴史を背景にさまざまな伏線やエピソードをからませることだ。また、叙事詩の脇筋において、個人と社会の価値観が対立するさまを描くときの基準も示した。