じじぃの「科学・芸術_258_小説『赤い高粱』」

紅高粱 (Red Sorghum) 動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=M3sZ-KFc12g
紅高粱

村上春樹を抑えてノーベル文学賞を射止めた「莫言」とは、いったいどんな作家か 2012.10.15 現代ビジネス
莫言は、1955年2月に、山東省の高密に生まれた。この辺りはかなり訛りが強いが、莫言もご多分に漏れず、強い訛りの中国語を話すのを、私もあるパーティの席で聞いたことがある。
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/33782
赤い高粱 (岩波現代文庫) 莫言(著), 井口晃 (翻訳) Amazon
この作品は抗日戦争を語っているようだが、本当の中身は高蜜県の村人たちの物語と言える。叙事詩と言っていいのかもしれない。祖先のやった事は、功績も過ちも消したり、隠したりしてはならない。
劉羅漢大爺の処刑の生々しい記録。祖母の嫁入りへの絶望と祖父との二人の親子を生贄した縁。祖父と父を含むゲリラ隊の日本軍襲撃と祖母の死が「100年の孤独/マルケス」のように効果的に折り重なって行く。県令の名審議と盗賊の長の交代はいいアクセントとなっている。
「大いなる行いは細かな気くばりなど顧みず、大いなる礼は小さな作法などにこだわらぬものだった。心は天よりも高く、命は紙よりも薄く、勇ましい抗い、闘うことで貫かれた。」
祖父と父はまさに祖母の一生を貫いたのだ。そして、すべては高粱とともに息づいている。高粱たちはまぎれもなく魂をもつ生き物なのだ。かれらは黒土に根をはり、日月の精をうけ、雨露にはぐくまれ、天空のしくもと地上のことわりを知っている。

                          • -

『世界文学大図鑑』 ジェイムズ・キャントンほか/著、沼野充義/監修 三省堂 2017年発行
天と地は大きく乱れていた 『赤い高粱(こうりゃん)』(1986年) 莫言(ばくげん) より
1980年代半ばごろに中国文学界で起こった尋根、すなわち「ルーツ探求」運動のなかで、作家たちは民族文化とふたたびつながろうと試みた。この運動の名前は1985年の韓少巧によるエッセイ「文学のルーツ」に由来するもので、忘れ去られた創造の源を探求せよと作家たちに呼びかけるものであった。尋根文学の作家には、中国の少数民族を調査する者もいれば、道教儒教の固有の価値を新たな目で見つめなおす者もいた。
何十年ものあいだ、中国文学は写実主義を厳粛に貫いてきた。民族の影響へ立ち返ると、尋根作家たちは超自然の要素も導入することとなった。新しい作品によって、中国の作家は久しぶりに文学界から注目を集めた。
尋根運動の傑出して有名な小説『赤い高粱』は管謨業(1955年〜)によって執筆されたもので、ペンネームの莫言(「言う莫れ」)のほうがよく知られている。『赤い高粱』というタイトルは珍しい穀物が由来で、その色は生命力、流血、永続性を象徴している。中国北西部の山東省の片田舎を舞台に、日本軍の占領、共産革命、文化大革命の恐怖を通して、ある家族の動向を1923年から1976年まで追う。
真の「ルーツ探求」小説として、『赤い高粱』には神話と民族の要素が組み入れられており、さらに写実主義に付き物の時系列構造からの脱却は、中国文学の近代化に新たな活気を与えた。