Neoteny and Human Evolution 動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=jiUBf5VdFi0
ヒトとチンパンジーの
頭蓋骨成長の違い
ヒトはサルのネオテニー 福岡伸一の生命浮遊 ソトコト
子どもの期間が長く、子どもの特徴を残したままゆっくりと性成熟することを生物学用語で「ネオテニー」と呼ぶ。そして、ネオテニーには外見が子どもっぽいということ以上に、進化上、意外な有利さがあった。
子どもの期間が延びるというのは、それだけ、恐れを知らず、警戒心を解き、柔軟性に富み、好奇心に満ち、探索行動が長続きするということである。また試行錯誤や手先の器用さ、運動や行動のスキルを向上させる期間が長くなるということでもある。つまり学びと習熟の時間がたっぷり得られることになる。
一方で、性成熟が遅い、ということは縄張り争いや順位づけ、メスの取り合いやオス同士の闘争などが起こりにくい、つまり攻撃性が低いということでもある。このことこそが知性の発達に手を貸すことになった。つまりヒトはサルのネオテニーとして進化したというのだ。なかなか魅力的な仮説ではないだろうか。
https://www.sotokoto.net/jp/essay/?id=46
『ヒトはなぜ争うのか―進化と遺伝子から考える』 若原正己/著 新日本出版社 2016年発行
ヒトと野生動物を分けるもの (一部抜粋しています)
図(画像参照)は、チンパンジーとヒトの頭蓋骨の発達度合いを模式的に示したものだ。まず胎児の頭蓋骨を横から眺めたものを正方形の座礁で表す。次に、大人になった時の頭蓋骨を同じように描き、それぞれどの点がどのように伸びていったかを示す。こうすることで各部分の総体的な成長の度合いを正確に知ることができる。それを相対成長(アロメトリー)と呼ぶ。
チンパンジーの場合は、大人になるに従って、特に顎の部分が大きく発達していく。それに伴って頭の円さが失われて、つぶれた頭蓋になってしまう。だから、最初の正方形の座標が大人になるにしたがってどんどん歪んでしまう。
それに対してヒトの場合は、胎児の頭蓋骨と大人の頭蓋骨では、あまり大きな座標の乱れはない。顎の部分が少し歪んでいるだけで、頭の部分は円いままなので正方形の座標はあまり歪まない。
このように、ヒトとチンパンジーという非常によく似た動物同士でも、発生が進むことによって、体の各部域の相対成長が異なり、次第にそれらしさが出てくることがよくわかる。
さらに出生後の脳の発達にも違いがみられる。前にも説明したように、ヒトは胎児のうちは小さいな脳だが、出生後急激に脳を発達させる。しかしチンパンジーでは、出生時にはすでに脳が大きく発達している。つまりチンパンジーの発生は速く進み、ヒトの発生はあまり速くない。発生が速く進むか。遅く進むかによって、もとの部品が同じでも別の形態が出現するのだ。
こうした発生の時間と体の各部分の発達の関係を調べる学問分野がある。発生に要する時間によって、できてくる形態が違ってくることを「異時性(ヘテロクロニー)」という。異時性というのはあまりなじみのない言葉だが、ヒトの進化を考える上でとても重要なものだ。
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チンパンジーでは、時間がたつにしたがって大人の形、大人の形質が発達するが、ヒトの場合は、時間がたっても大人の形質があまり表れない。それを発生における異時性の違いと考える。
ヒトは、今述べた頭蓋骨の発達以外でもさまざまな発達が相対的に遅く、年齢を重ねても大人の形質があまり表れずに子どものままとどまっている。しかし、生殖機能は特に遅れることもなく発達する。それに対して、チンパンジーは体が著しく速く発達するので、時間とともに大人の形質がどんどん出現し、チンパンジーらしくなる。
このように体の発達の程度が遅いか速いか速いかの組み合わせはいろいろあるが、ヒトのように体の発達が相対的に遅く、生殖の仕組みは普通に発達する異時性の組み合わせをネオテニー(幼形成熟)と呼ぶ。
つまり、ヒトはネオテニーの傾向が非常に強い。それがヒトの特徴なのだ。ヒトが人になっていったのはネオテニー的な特徴があったためだ、と考えることができる。
水族館で人気のウーパールーパーは、メキシコサンショウウオという両生類のネオテニー個体だ。体つきは子ども(幼生)なのに、性的には成熟して子どもを作ることができる大変面白い動物だ。
ウーパールーパーの1番の特徴は鰓(えら)を持っていることだ。鰓があるということは水中生活をしている。つまり幼生の状態だ。ウーパールーパーは子どもの状態(幼形)のまま、生殖活動を行うことができることで有名だ。