じじぃの「科学・芸術_207_人類遺伝子のボトルネック現象」

PL3_HOMINIDS_ICE AGE AND TOBA ERUPTION 動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=HYHUD_euWBI
トバ火山の噴火 (7万3000年前)

Toba volcanic eruption around 73,000 years ago

人類を絶滅寸前に追い込んだ「トバ火山」 噴火の原因が明らかに 2017年02月09日 Huffington post
今から7万3000年ほど昔、超巨大火山(スーパーボルケーノ)の「トバ火山」が噴火し、インドからインドネシアにかけての上空に、2800立方キロメートル以上もの火山灰が噴出した。
「トバ火山の噴火によって人類は絶滅寸前まで追い詰められました」と、スウェーデン・ウプサラ大学のバレンティントロール教授は語った。
http://www.huffingtonpost.jp/2017/02/08/super-volcano_n_14647174.html
『気候文明史』 田家康/著 日本経済新聞出版社 2010年発行
気候変動との闘いの始まり (一部抜粋しています)
人類がアフリカ大陸から他の地域に移住する「出アフリカ」は、150万年前のホモ・エレクトスやホモ・エルガスターの時代から何度も行われてきた。氷河が訪れるたびに海面水位が低下して紅海が干し上ると、ユーラシア大陸まで徒歩で移動することができた。ホモ・エレクトスは、ヨーロッパではハイデルベルク人、アジアでは北京原人ジャワ原人となり、数多くの人骨が遺跡から発掘されている。
現世人類の「出アフリカ」は2度試みられた。最初が12万年前のエーミアン間氷期の温暖な時代に行われたもので、シナイ半島に渡りレバント地方まで移住している。しかし、9万年前に短期的ながら急速に寒冷化した時代があり、このときレバント一帯が砂漠化しこの地で死に絶えた。
そして2度目に進出した人々が、アフリカ以外に住む人類の共通の祖先である。8万5000年前から地球規模での寒冷化が進み、紅海の海面水位が一時的に80メートル低下した。このとき、ごく少数のグループが紅海入口のバブ・エル・マンデブ海峡(悲しみの門)を渡り、彼岸のアデンに移住したと考えられている。この一団の子孫は、海岸での食糧採取を続けながらアラビア半島の沿岸を巡り、西アジアからインドを経て、1万年の間にマレーシアからインドネシアまで到達した。
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インドネシアスマトラ島の北部に、トバ湖とよばれるカルデラ湖がある。このカルデラ湖は7万4000年前の火山噴火により形成されたもので、噴火の規模は過去200万年で最大のものであった。トバ火山のカルデラの大きさは南北100キロメートル、東西60キロメートルに及び、阿蘇カルデラの南北25キロメートル、東西18キロと比較すると、約12倍に相当する。
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現世人類の場合、他の類人猿と比べて遺伝子の多様性が極端に少ないという特徴がある。個々の個体の遺伝子の違いという面では、アフリカの同じ山に棲む2頭のゴリラの方がアフリカ大陸の人と南米大陸に住む先住民との差よりもはるかに大きい。これは、ある時期に人類の人口が極端に減少したことが原因とされる。先祖にさかのぼるにつれて、DNAの多様性が極端に少なくなる分布を描くことができる。このことは、その形状がビール瓶などの口先が上に向かうほど細くなっている姿に似ていることから、ボトルネック現象と名づけられている。
「エデンの脆弱な園」(Weak Garden of Eden)とよばれるモデル(1993年)では、人類の遺伝子の多様性が他の哺乳類と比べて極端に少ない点に注目する。ある時期に自然災害によるためか、あるいは病気が蔓延したためか、何らかの理由によって人口が極端に減少した時期があったと考える。この仮説によれば、15万年前から3万5000年前のある時代に、人類の人口は1万人にまで激減したと考えられる。研究者によっては2000人ほどの小集団になったと主張する者もいる。
イリノイ大学教授のスタンレー・アンブローズが1998年に提唱したトバ・カタストロフ理論では、現世人類の遺伝子に刻まれたボトルネックは2度あり、20万年前から14万年前の人類の母たるミトコンドリア・イブがいた時代と、7万年前から6万年前のトバ火山噴火に由来する時代だという。実際、現在のインド地方に住む人々の遺伝子には、7万3000年前に生まれた固有の構造が残っている。
さらにアンブローズは、トバ火山の噴火によって、アジアに住んでいたホモ・エレクトスは絶滅したと主張している。ただし、インドネシアのジャワ島ではホモ・エレクトスの頭骨が出土され、彼らが生存していた期間は5万年前から2万5000年前までと年代測定されておりホモ・エレクトスがこの地域で現世人類に隣接して生きていた可能性がある。また2004年に同じ地域のフローレス島で1万2000年前まで、ホモ・エレクトスの仲間とされる身長1メートルしかないホモ・フロレンシエンシスが暮らしていたことが発見された。
したがって、確かにトバ火山が東南アジアでのホモ・エレクトス衰退の契機にはなったかもしれないが、火山の冬をきっかけに絶滅したと言い切るには無理があるようだ。