じじぃの「人の死にざま_1752_オルダス・ハックスリー(作家・すばらしい新世界)」

Video SparkNotes: Aldous Huxley's Brave New World summary 動画 Youtube
https://www.youtube.com/watch?v=raqVySPrDUE
Aldous Huxley


すばらしい新世界
試験管内受精プラス「ボカノフスキー処理」によるガンマー、デルタ、イプシロン階級の創出、すべての階級に向けての厳密な条件反射学習と睡眠学習による行動と思考の動機づけ、家庭・一夫一婦制の廃止にともなう完全なフリーセックスの実現……その究極の目的は「共有・同一・安定」をモットーとする社会の建設であり、それはフォード紀元元年に開始された! SF史上に燦然と輝く古典であり、奇想と機知を縦横に駆使して描かれた「暗いユートピア」は、笑ってしまえる喜劇的未来記でもある。
ハックスリー(1894〜1963)英国の作家、批評家。
典型的な知的名門に生まれ、才気煥発な諷刺小説、批評に腕をふるった。代表作はなんといっても本書だが、他に「恋愛対位法」「ガザに盲いて」「猿と本質」などがある。
https://www.gutenberg21.co.jp/newWorld.htm
ひるまえほっと 2017年3月8日 NHK
【案内人】中江有里(女優・作家)
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中江有里のブックレビュー 「すばらしい新世界
西暦2540年のロンドン。
理想郷に疑問を持つ人たちを待つ運命は? SF小説不朽の名作の新訳版。
https://www.nhk.or.jp/shutoken/hirumae/book/201611index.html
『20世紀英米文学案内17 A. Huxley ハックスリー』 成田成寿/編 Kenkyusha 1967年発行
●抄訳・紹介
すばらしい新世界」 Brave New World
「猿と本質」 Ape and Essence
「天才と女神」 The Genius and the Goddess
「島」 Island
「若いアルキメデス」 Young Archimedes
すばらしい新世界』 Brave New World (一部抜粋しています)
<梗概>
この新世界は科学の極度に発達した世界であり、宗教は要らない。ただT型自動車を考案、発売して、自動車の大衆化に成功したヘンリー・フォードがあがめられている。この世界はそのT型の年、1908年を紀元元年と定め、これは、フォード紀元632年の話なのである。隔週の木曜日は団体礼拝日とされ、人間の個性を抹殺する儀式がとりおこなわれる。賛美歌は「フォード様、われら12人を、1人となさせたまえ」とうたう。人々はT字を切る。ソーマ(Soma 快楽の特効薬)がまわされる。だれの顔にも、融合の極地を味わったものの、恍惚の表情が読みとれる。それがバーナード(アルファ、ベータ、ガンマ、デルタ、エプシロンの階級のうち、最上位のアルファの階級の青年)にはくらしい。彼はいやというほどあがなわれなかったものの孤立感に悩まされる。
人工孵化・条件反射教育センターの看護婦をつとめるアルファがレーナ・クラウンである。彼女はバーナードのことを「妙な人」と考えている。ソーマも飲まず「ぼくはぼくのままでいたい」などと口走る男は、この世界では、「芸を仕こんでものみこまない犀(さい)のようなもの」と思われても無理はない。ただバーナードが近くニュー・メキシコへ飛んで野蛮人保護地区を見物する計画をもっていることが魅力で、バーナードに同行する。
2人は野蛮人保護地区で白人の青年ジョンに会う。ジョンはリンダという元来はベータの女性の子供であって、ロンドンのあの教育センターの所長トマスの実の子であることが判明する。リンダは、子供を生むなどということを恥と思うベータであるが、この野蛮国には人工流産所などないのであるから、仕方なかった。ジョンには母にまつわる思い出が多い。リンダは文明国の流儀で、多くの男たちと関係を結ぶ。その結果、男の妻たちにいびられたこと。リンダを「お母さん」とよんだとき、頬をたたかれて、「お前まで野蛮人になりさがって!」と叱られたこと。また母は文字を教えてくれた。彼女の持ちもののなかには『シェイクスピア全集』というものがあったこと。現在ジョンは、この社会で疎外された存在だった。孤独であった。バーナードはジョンにロンドン行きをすすめる。喜んだジョンはミランダの言葉を引用して「ああ、すばらしい新世界」と口走る。シェイクスピアの『あらし』(The Tempest)に出るミランダなどという人物のことを、文明人バーナードは知るよしもない。シェイクスピアというのは、多い昔の、まだ世界が未開であった頃の人物であって、文明人たるものが知っているはずもない人名なのである。
野蛮人保護地区で異常な人間達やその生活に接して疲れたレーニナは、休憩所でソーマを飲んで眠りにおちる。ジョンはその寝姿に見とれる。若者の心を悩ませる焦燥。
<解説>
以上が『すばらしい新世界』のあらましである。これが物質文明と人間的価値との、機械と神との、また知性と感情との、相剋を描いた小説であることは、一読して明らかである。
ハックスリーがH・G・ウェルズ流れの、科学の発達に人間の未来をかける、という考え方に、ロレンスとともに、反対であったことは、『対位法』1つ読んでみてもわかることである。反ウェルズ的な考え方は、早くも第一次世界大戦以前のイギリスにあったのであって、E・M・フォースターの『機械は止まる』などはその代表的な例である。個性の無視と人間性の抹殺をもってする社会改革は、人間を幸福にするものではないことを、いち早くフォースターが指摘したことに、ハックスリーはひそかに拍手を送っていたことだろう。
だがハックスリーの関心事は、単なる科学文明批判ではない。科学の発達に基礎をおいた現代文明が、残忍な全体主義の形をとって人間の価値をふみにじる現実が我慢ならなかった。だから、ハックスリーの未来小説は「未来」の空想を目的とするものではない。われわれはこの『すばらしい新世界』という作品を1930年前後の世界史の中において眺めみる必要がある。