じじぃの「科学・芸術_75_宇宙はもつれでできている」

Quantum Universe and Entanglement Science Documentary 動画 YouTube
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宇宙は「もつれ」でできている 「量子論最大の難問」はどう解き明かされたか ルイーザ・ギルダー amazon
一人の天才の独創によって誕生した相対論に対し、量子論は、多数の物理学者たちの努力によって構築されてきた。
数十年におよぶ精緻化のプロセスで、彼らを最も悩ませた奇妙な現象=「量子もつれ」。たとえ100億km離れていても瞬時に情報が伝わる、すなわち、因果律を破るようにみえる謎の量子状態は、どんな論争を経て、理解されてきたのか。EPRパラドックス、隠れた変数、ベルの不等式、局所性と非局所性、そして量子の実在をめぐる議論…。当事者たちの論文や書簡、公の場での発言、討論などを渉猟し尽くし、8年超の歳月をかけて気鋭の科学ジャーナリストがリアルに再現した、物理学史上最大のドラマ―。

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『宇宙は「もつれ」でできている』 ルイーザ・ギルダー/著, 山田克哉、窪田 恭子/訳 ブルー・バックス 2016年発行
もつれ より
2つの実体が互いに作用すると、必ず「もつれ」が生じる。光子(光の小さな破片)や原子(物の小さな破片)であっても、原始からなるもっとも大きな塵埃や顕微鏡、あるいはネコやヒトのような命あるものであっても同様だ。のちに別の何かと創造作用しないかぎり――ネコやヒトにはそれができないためにその影響に気づかないが――どれほど互いに遠く離れていても、もつれは持続する。
このもつれこそが、原子を構成する粒子の動きを支配している。まず、互いに作用しあうと、粒子は単独としての存在を失う。どれほど遠く離れても、片方に力が加えられ、測定され、観測されると、もう片方は即座に反応するらしい。両者の間に地球がすっぽり入るほどの距離があったとしても、だ。そのしくみは未解明だ。
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もつれの存在(特に水素分子内部など、ミクロの距離の場合)が明らかになりはじめたのは20世紀初頭、初期量子論の時代である。しかし、この大きな矛盾を単純な代数と深い思考で世に示したのはベルであった。
量子力学上のこの謎に対して、その創始者たちの反応は大きく4つに分かれた。ボーア、ハイゼンベルグ、パウリの3人は正統派解釈の立場を取った。のちに「コペンハーゲン解釈」とよばれるものである。それに対し、アインシュタインら3人の物理学者はいわば異端派で、自分たちがその発展に大きく貢献した量子力学は「何かがおかしい」と考えていた。懐疑派は実際主義的な考えに立ち、謎の解明は時期尚早と主張した。最後に、量子力学が突きつける謎に困惑して単純化しすぎた説明で片づけた者もいた。
ちぐはぐな靴下 より
僕の靴下? 一体なんの話だ? EPR相関だって? 悪い冗談だ、ジョン・ベルは雑誌でひどい悪ふざけをしているに違いない。
「EPR」とは、論文の著者であるアルベルト・アインシュタイン、ボリス・ポドルスキー、ネイサン・ローゼンの頭文字をとったものだ。この論文は発表からおよそ30年後の1964年、ベルの定理に大きな影響を与えることになるが、ベルの論文同様、物理学にとっていささか厄介なものであった。タイトルが示すように、「物理学実在の量子力学的記述は完全と考えられるだろうか?」という問いかけに対して、アインシュタインと無名の2人の著書が出した答えはノーだった。3人は量子力学における謎の存在を提示して物理学者たちの関心を集めた。いったん互いにつながった2つの粒子は、どれほど遠く離れようとも、「もつれ」――シュレーディンガーがEPR論文と同じ1935年につくった言葉である――が続く可能性がある。量子力学の法則を厳密に当てはめれば、1つ目の粒子の測定が2つめの状態に影響を与えていると結論づけざるを得ないように思われた。遠く離れた相手方に「まるで幽霊のように」作用するというのだ。
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ファインマンの講演からほどなくして、数人の優秀な頭脳が量子コンピュータの潜在能力の一部を証明した。これが物理学と無縁な人びとにも大きな影響を与えたのは、銀行や政府、インターネットとの安全性を担保しているあらゆる暗号を量子コンピュータが解読できるようになるからである。
世界中の量子物理学者の実験研究グループが量子コンピュータの製作に関心を寄せる中、もつれは今なお謎に包まれている。とはいえ、この謎は着実に解明が進んでいる。この魔訶不思議な相関はエネルギーや情報と同じくらい基本的なものであり、追及する価値がある、と物理学者たちは考えるようになっている。よく知られているように、さまざまな機械づくりを通じて科学者はエネルギーや情報の基本的思想を理解するようになった。19世紀、エネルギーに対する理解の進歩は蒸気エンジンの製造や稼働と切り離せなかった。20世紀、コンピュータと情報理論の台頭は表裏一体であった。21世紀、量子コンピュータやもつれから生まれたもう1つの奇跡といえる「量子暗号」に実践的に取り組めば、もつれになじみを覚えると同時にいっそう畏怖の念を強めるだろう。