Donald Metcalf (1929-2014)
Donald Metcalf Wikipedia より
Donald Metcalf AC FRS FAA (26 February 1929 - 15 December 2014) was an Australian medical researcher who spent most of his career at the Walter and Eliza Hall Institute of Medical Research in Melbourne. In 1954 he received the Carden Fellowship from the Anti-Cancer Council of Victoria; while he officially retired in 1996, he continued working and held his fellowship until his retirement in December 2014.
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現代免疫物語―花粉症や移植が教える生命の不思議 岸本忠三・中嶋彰/著 ブルーバックス 2007年発行
サイトカイン物語 (一部抜粋しています)
次に、目を血液学の方に転じよう。情報伝達分子は1950年代に血液学の分野でも捉えられた。現代では血液細胞を増殖させる働きを持つ分子として知られる「CSF(コロニー刺激因子)」の発見である。
まずイスラエルのレオ・サックスがこんな報告をした。彼はネズミの骨髄から血液細胞を取り出し、寒天の上でコロニー(細胞の集団・群体)に生長させた。そして彼はその過程でコロニーができるためにはある種の分子が必要であることを突き止め、その分子を「MG1」と命名した。
それからしばらく後、オーストラリアのウォルター・アンド・エリザ・ホール医学研究所のD・メトカーフがほぼ同様の実験を試みた。ネズミの骨髄組織から取ってきた血液細胞を寒天の上でコロニーに増殖させようというのである。
彼は、その際、寒天の中に、ネズミの胎児から採取した繊維芽細胞や骨髄の支持細胞を加えておいた。すると狙い通り、血液細胞はコロニーへと生長した。逆に寒天にこれらの細胞を加えておかない場合はコロニーはできなかった。そこで彼は「繊維芽細胞や骨髄支持細胞は血液細胞を増やす分子を作っている」と判断し、この分子を「CSF」と名付けた。「コロニーを刺激して増やすファクター」という意の言葉だ。
ちなみにメトカーフが属した研究所はオーストラリアの免疫研究の中核といわれたほど一流科学者が顔をそろえていた。
当時の研究所長は「クローン選択説」を提唱したF・バーネット。またT細胞を発見したジャック・ミラーや、バーネットの後に30代の若さで所長に就いたG・ノッサルもいた。メトカーフ、ミラー、ノッサルはシドニー大学医学部の同級生。彼らは互いに刺激し合い光輝く仲間でもあった。
メトカーフは1960年代から1970年代にかけ、さらに研究を続けた。そして寒天に加える分子によりコロニーの性質が違ってくることを突き止める。まずマクロファージだけの集団となる場合、次に白血球(顆粒球)だけお集団となる場合、そしてマクロファージと白血球が混ざった集団となる場合の3ケースだ。
そこで彼は、これら3つのケースに対応した分子を「M-CSF(マクロファージ・コロニー刺激因子)」、「G-CSF(顆粒状・コロニー刺激因子)」、「GM-CSF(顆粒状マクロファージ・コロニー刺激因子)」と命名した。それぞれの分子は文字通り、マクロファージを増やしたり、白血球を増やしたり、どちらをも増やす働きを持つ情報伝達分子である。
レオ・サックスとメトカーフの研究成果は学界でどちらが高い評価を得たのだろうか。「CSF」という名前を歴史に残したメトカーフである。
なぜ後発ともいえるメトカーフに多くの支持が集まったのか、1つの理由はここでも命名の巧みさがあげられる。
「コロニーを刺激して増やす」という意味のCSFは現象そのものをイメージしやすく、わかりやすい。そして何よりも、研究成果の深みと広がりの面で、メトカーフの方に軍配があがるのである。
レオ・サックス確かには血液細胞を刺激して増殖させる情報伝達分子を見つけはしたが、その中にはいくつか役割の異なるものがあることは突き止めていない。それに対し、メトカーフは血液細胞の情報伝達分子の働きを詳細に突き止め、3つに分類する成果を上げた。
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1960年代に入っても情報伝達分子の研究は、なおウイルス学はウイルス学で、血液学は血液学で、免疫学は免疫学でというようにそれぞれの分野で独自に進められた。こうした個別の流れが合流して、大きな潮流となるのはもうしばらく時間の経過を待たねばならない。