じじぃの「人の生きざま_668_杉山・治夫(免疫学者・医師)」

 世界で認められたWT1ペプチド

WT1ペプチド特許技術 東京ミッドタウン先端医療研究所
杉山治夫教授(大阪大学大学院教授)等の研究発表により、「WT1ペプチド」の人工抗原の存在が発見されました。これは、ほぼ全てのがん(白血病等の血液がんも含む)に存在するがん組織(抗原)であることが明らかになり、今では世界でも有名ながんの抗原(がんの特徴)の一つとなっています。
WT1ペプチドは米国癌研究会議(AACR)の学会誌であるClinical Center Reseach誌(2009年15巻5323〜37頁)において、75種類のがん抗原の中で最も優れている(1位)との評価を受けました。
http://www.midtown-amc.jp/care/immunity/03.html
ワクチン免疫療法でがん治療の未来を変える Osaka University
杉山治夫(すぎやま・はるお)1949年大阪府生まれ。大阪大学医学部卒。医学部第3内科助手、講師を経て95年、病態生体情報学教授。2003年から医学系研究科機能診断科学教授。
趣味を問うと「こんな面白い研究をやっているとわくわくして、趣味どころじゃない」。http://www.osaka-u.ac.jp/ja/research/files/inspiring_science.pdf
『免疫が挑むがんと難病 現代免疫物語beyond』 岸本忠三/中嶋彰/著 ブルーバックス 2016年発行
制御性T細胞の物語 より
免疫細胞は誕生した直後に、胸腺という特殊な組織で身内の「顔」をしっかり記憶し、仲間を決して攻撃しないように教育されている、とかつての免疫学は教えていた。
だが、それはいささか楽観的すぎたようだ。最近の研究では、胸腺にも手抜かりや不手際が少なからずあり、教育不行き届きの免疫細胞を送り出していることがわかってきた。私たちの体にはわが身を敵とみなす恐ろしい自己反応性の免疫細胞がたくさんうろついていて、正常な臓器や組織を攻撃してしまうのだ。
おっかない保安官ならぬ免疫細胞たちがそうやって実際に引き起こす病気が、自己免疫疾患なのである。
骨が溶け、最後には関節まで破壊されてしまう関節リウマチ、膵臓インスリン生産細胞が破壊されてしまう1型糖尿病、脳や脊髄の神経細胞を覆う膜が攻撃されて多発性の硬い病巣組織ができる多発性硬化症など枚挙にいとまがない。
成人T細胞白血病との戦いの物語 より
成人T細胞白血病を引き起こす犯人は、ヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV-1)という病原体だ。このウイルスの感染者は約110万人、日本の人口の約1%に相当するというから、決して少なくない。
いったん発病してしまったら、本人と家族には厳しい覚悟が求められる。病状は重篤だ。骨髄移植などの造血幹細胞移植ができなければ、発症してからの余命は半年から1年が、しばらく前までの通例だった。この病気は白血病の中でも難治性で、致死性が高いがんである。
救いがあるとすれば、この病原体が長期間、”おとなしく”していることで、キャリアと呼ばれる感染者となっても、9割以上の人は発病せずに天寿を全うできる。40歳を超えるまではほぼ発病することはない。だから「成人」T細胞白血病と呼ばれるのだ。
不思議なのは、この病気が日本とラテンアメリカカリブ海地域にしか見られない感染症であることだ。病気を起こすウイルスは、とても偏りのある広まり方をしたらしい。日本国内でも、発病には著しい偏りがみられる。患者の大半が九州や四国、沖縄に集中しているのだ。
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白血病の治療で、杉山の検査方法は大きな効果を発揮した。ここに白血病にかかった人がいて、抗がん剤による治療を受けたとしよう治療が高価を発揮し症状が好転したら、やがて医師はこう告げるだろう。「よかったですね。寛解状態になりましたよ」と。
だが、楽観は禁物だ。抗がん剤の投与によって、当初、患者の体内にあった膨大な数の白血病細胞は急速に減っていく。しかし杉山によると、たとえ寛解にいたったとしても、体内にはなお少なからぬ白血病細胞が残っている、という。
従来は容態が好転したように見えるとき、医師はカンと経験を動員して「もう少しこれまでの治療を継続したほうがいい」だとか「もう治療をやめてもいい」などと判断していた。しかし、そうしたやり方は、実は裏づけに乏しいものだったのだ。
それに比べて、杉山の開発した方法は科学的で実践的だった。患者の体内に残っている白血病細胞がどれほどあるのかを定量的に把握し、治療の継続・中止を判断できる的確なデータを現場の医師に提供できたからだ。
杉山の研究成果には製薬会社大手の大塚製薬が注目した。急性骨髄性白血病の検査薬として厚生労働省に製造承認を申請し、2006年に異例の速さで認められた。翌年には医療保険も適用された。現在では「白血病を治療するために不可欠で、特に病気の再発を早期に診断するのに最適」との評価が固まり、海外にも利用が広がりつつある。