じじぃの「人の生きざま_666_坂口・志文(免疫学者・医師)」

坂口志文 (osaka-u.ac.jp HPより)

ノーベル賞有力候補に森和俊、坂口志文氏 トムソン・ロイター発表  2015年09月25日 ハフィントンポスト
国際情報サービス企業のトムソン・ロイターは2015年、今年あるいは近い将来ノーベル賞を受賞する可能性が高い研究者を発表した。森和俊(もり かずとし)京都大学大学院理学研究科教授と坂口志文(さかぐち しもん)大阪大学免疫学フロンティア研究センター教授が、医学生理学賞の有力候補者に挙げられている。
http://www.huffingtonpost.jp/science-portal/nobelkouho_b_8193084.html
坂口志文教授ら がん攻撃型T細胞発見 JC-NET
大阪大学の坂口志文教授(免疫学)と国立がん研究センター研究所・先端医療開発センターの西川博嘉分野長ら のチームが、がんを攻撃する免疫の作用を抑えてしまう「制御性T細胞」と遺伝子の特徴が似ているものの、逆にがんを攻撃し死滅させようとするT細胞がある ことを、大腸がんで突き止め、2016年4月26日付の米医学誌ネイチャーメディシン電子版に発表した。
坂口志文教授(1951年1月19日生)は、日本の免疫学者、医師。大阪大学免疫学フロンティア研究センター教授。滋賀県長浜市出身。過剰な免疫反応を抑える制御性T細胞の発見と免疫疾患における意義を解明したことで知られる。
http://n-seikei.jp/2016/04/post-37054.html
『免疫が挑むがんと難病 現代免疫物語beyond』 岸本忠三/中嶋彰/著 ブルーバックス 2016年発行
制御性T細胞の物語 より
免疫細胞は誕生した直後に、胸腺という特殊な組織で身内の「顔」をしっかり記憶し、仲間を決して攻撃しないように教育されている、とかつての免疫学は教えていた。
だが、それはいささか楽観的すぎたようだ。最近の研究では、胸腺にも手抜かりや不手際が少なからずあり、教育不行き届きの免疫細胞を送り出していることがわかってきた。私たちの体にはわが身を敵とみなす恐ろしい自己反応性の免疫細胞がたくさんうろついていて、正常な臓器や組織を攻撃してしまうのだ。
おっかない保安官ならぬ免疫細胞たちがそうやって実際に引き起こす病気が、自己免疫疾患なのである。
骨が溶け、最後には関節まで破壊されてしまう関節リウマチ、膵臓インスリン生産細胞が破壊されてしまう1型糖尿病、脳や脊髄の神経細胞を覆う膜が攻撃されて多発性の硬い病巣組織ができる多発性硬化症など枚挙にいとまがない。
しかし、免疫は自らの不完全さを意識していたのか、自らのしくみの中に、不思議な細胞を内在させていた。免疫の働きが過剰になったり、自己反応性の免疫細胞が悪さを始めたりしたときに、やりすぎを抑制して「撃ち方やめ」を周知徹底させる役割を担う細胞だ。それが坂口が発見した制御性T細胞である。
もし制御性T細胞がなかったら、免疫細胞はブレーキをかけられない車のように暴走し、いまよりもはるかに多くの人が自己免疫疾患で苦しむことになっただろう。制御性T細胞の功績は実に大きい。
成人T細胞白血病との戦いの物語 より
成人T細胞白血病を引き起こす犯人は、ヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV-1)という病原体だ。このウイルスの感染者は約110万人、日本の人口の約1%に相当するというから、決して少なくない。
いったん発病してしまったら、本人と家族には厳しい覚悟が求められる。病状は重篤だ。骨髄移植などの造血幹細胞移植ができなければ、発症してからの余命は半年から1年が、しばらく前までの通例だった。この病気は白血病の中でも難治性で、致死性が高いがんである。
救いがあるとすれば、この病原体が長期間、”おとなしく”していることで、キャリアと呼ばれる感染者となっても、9割以上の人は発病せずに天寿を全うできる。40歳を超えるまではほぼ発病することはない。だから「成人」T細胞白血病と呼ばれるのだ。
不思議なのは、この病気が日本とラテンアメリカカリブ海地域にしか見られない感染症であることだ。病気を起こすウイルスは、とても偏りのある広まり方をしたらしい。日本国内でも、発病には著しい偏りがみられる。患者の大半が九州や四国、沖縄に集中しているのだ。
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成人T細胞白血病と制御性T細胞の関わりを示す、もう1つの研究結果をお知らせしよう。
それは坂口が京都大学ウイルス研究所教授の松岡雅雄とともに唱えた有力な新説。成人T細胞白血病の犯人は、従来注目されてきたHTLV-1ウイルスの「裏遺伝子」ではないか、とするものだ。
裏遺伝子というと難しそうに聞こえるが、さほどのものではない。
遺伝子のDNAは二重らせんの姿をしている。らせんの片方は、遺伝暗号を刻んだ”記憶テープ”の役割をしていて、他方は遺伝暗号を持たない無意味なテープだ。
一方、成人T細胞白血病の原因ウイルスであるHTLV-1はレトロ・ウイルスで、人体に侵入するとRNAの遺伝暗号をいったんDNAに写し換え、DNAの姿で細胞の角の中にある宿主の遺伝子に潜り込んでしまう。
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2人の主張を要約するとこうなる。HBZ遺伝子は、T細胞の核内にいるFoxp3遺伝子を強く刺激する。これにより活動を開始したFoxp3遺伝子は、配下の遺伝子群を操り、体内のT細胞を制御性T細胞に変身させるのだろう――と。
まだ最終的な決着はついていない。HBZ遺伝子犯人説は今後も従来説と競いあいながら、成人T細胞白血病の謎と真相に迫っていくだろう。