動物間での細胞の老化
談 editor's note after
●生命史の到達点としての老い
再生系の細胞死アポトーシスは、分裂寿命がほぼ60回ぐらいに決められているというのは興味深い指摘だ。分裂寿命について、インタビューでは触れられなかったことを補足しておこう。
分裂寿命は老化のメカニズムを解明する重要なしくみと考えられる。この事実はアメリカの老化研究の第一人者ヘイフリック(1928〜)によって発見されたことから、「ヘイフリック限界」と名付けられている。
ヘイフリックの行った実験方法は、細胞培養によって細胞分裂がどの程度起こるかを調べたもので、無脊椎動物や植物では体細胞は無限に細胞分裂が起こるわけだが、ほ乳類の場合は一定回数で分裂が停止してしまう。これが「ヘイフリック限界」である。「ヘイフリック限界」は、分裂寿命と個体の寿命が相関することを示している。分裂寿命が約10のマウスの最大寿命は約3年、ウサギでは分裂寿命が約20で最大寿命は約10年、ヒトは分裂寿命が約50〜60で、最大寿命は約120年である。この相関関係から、ヒトの寿命の限界は120歳ぐらいだといわれている。
http://www.dan21.com/backnumber/no59/editorsafter.html
『寿命はなぜ決まっているのか――長生き遺伝子のヒミツ』 小林武彦/著 岩波ジュニア新書 2016年発行
赤ちゃんも老化している!? (一部抜粋しています)
多細胞生物のなかで、例外的に「死なない」生きものであるプラナリアで、このことを考えてみましょう。
プラナリアは、『切っても切ってもプラナリア』(阿形清和著、岩波書店)という本があるくらい、再生能力が高い生きものです。なんと、100分割しても、それぞれが再生して100匹の小さな個体になります。ふつうの生きものなら、もちろん死んでしまうところです。
再生した個体は元の個体と遺伝的には同一なので、やはりクローンと呼ばれます。細菌が分裂で殖えるのに似ていますね。なぜかれらは、まるで忍者の分身のようなことができるのでしょうか。
それは、かれらは、まったく分化していない細胞をたくさんもっているからです。逆に言うと、これからなんにでも分化できる細胞、「全能性の幹細胞」が、全身に分布しているからです。
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さて、プラナリアがもっている「全能性の幹細胞」は何度でも分裂し、体のパーツを再生できることがわかりました。では、私たちの体の大部分を作っている分化した細胞には、そのような能力がないのでしょうか。
その答えはアメリカのヘイフリックという生物学者が、1961年に行った有名な実験にさかのぼります。彼は細菌の老化の有無を調べるため、ヒトのさまざまな臓器から細菌を分離してシャーレ(培養皿)の中で培養しました。すると面白いことにそれぞれの細菌の分裂回数はほぼ決まっていて、50回程度分裂すると分裂を停止し、死んでしまうことを発見したのです。さらに老人と赤ちゃん由来の細胞を同様に培養すると、赤ちゃんの細菌の方が老人よりも多く分裂しましたが、赤ちゃんの細胞もやがて分裂を停止し、死んでしまいました。
これらのことからヘイフリックは、細胞には分裂できる限度があり、それに達すると死んでしまう、と考えました。つまり、一つ一つの細胞にも老化による寿命があると主張したのです。これを「ヘイフリック限界」と呼びます。「限界」というのは、分裂できる回数の限界ということです。
しかし、その主張はすぐには受け入れられませんでした。多くの研究者は、ヘイフリックの実験では、細胞をシャーレで培養したため、その人工的操作の影響により死んでしまったと考えたからです。後に、分裂回数を決めるテロメアという染色体の配列が発見され、彼の説は正しかったことが証明されました。