じじぃの「人の生きざま_642_デナム・ハーマン(生化学者・フリーラジカル)」

錆びた車


フリーラジカル説の父デナム・ハーマン博士死す (2015年9月14日) 健康長寿
昨年(2014年)11月、老化のフリーラジカル説の提唱者デナム・ハーマン(Denham Harman)博士がアメリネブラスカ州オマハ市の病院で亡くなった。ヒトは100歳まで生きられると語っていた彼は、あと一歩で(98歳10ヵ月)その年齢に届かなかった。
フリーラジカル説は一般には活性酸素が老化の主原因であり抗酸化物質により、それを遅らせることができるはずだという説として知られている。
http://www.mnc.toho-u.ac.jp/v-lab/aging/column/20150914.html
ラソン選手のカラダは限りなく「鳥」に近い 2014/03/19
鳥は長寿といってもあまりピンとこないかもしれませんが、体の大きさを考えると驚異的に長いのです。セキセイインコは10年以上生きることも珍しくないし、鳩は35年も生きる種類があるそうです。
ラソン選手と一般の人を比べると、活躍するようなマラソン選手の多くは生まれつき「鳥型ミトコンドリア」の持ち主なんです。
http://mi-tsu.net/?p=1100
ミトコンドリアが進化を決めた』 ニック・レーン/著 みすず書房 2007年発行
ミトコンドリア老化説 (一部抜粋しています)
デナム・ハーマンは、生物学におけるフリーラジカル研究の草分けであり、1972年にミトコンドリア老化説を初めて提唱した。ハーマンの主張の核心は、「ミトコンドリアは、生体内における酸素フリーラジカルの主な発生源である」という単純なものだ。そんなフリーラジカルは破壊的な力をもち、DNA、タンパク質、脂質の膜、炭水化物など、細胞を構成するさまざまな要素を攻撃する。これによる損傷の多くは、細胞の構成要素の世代交代によって、ふつうに修復したり部品を取り換えたりできるが、損傷のとくに起きやすい場所、なかでもミトコンドリア自体は、食事によって抗酸化物質を摂取するだけでは保護しにくい。したがって、ハーマンいわく、老化の速さと変性疾患の発症は、ミトコンドリアからのフリーラジカルの漏出速度と、損傷に対する細胞本来の保護・修復能力との複合的な要因で決まるはずなのである。
ハーマンの主張は、哺乳類の代謝率と寿命との相関にもとづいている。彼はミトコンドリアのことをはっきり「生体時計」と呼んでいる。要するに、ハーマンによれば、代謝率が高い程酸素消費量が多く、そのためフリーラジカルの生成も増すのである。あとでわかるように、この関係は多くの場合正しく、しかしつねに正しいわけではない。この但し書きは些細なことに思えるかもしれないが、まる一世代にわたってこの分野全体を混乱させた。ハーマンは見事に筋の通った仮定を考えたが、それは正しくないことがわかった。残念ながら、彼の仮定は、ミトコンドリア老化説全体と深くからみ合っていた。この仮定が謝りだと説明しても、そのままハーマンの説の半鐘になるわけではない。しかし、「抗酸化物質で寿命を延ばせる」という彼の最も重要でよく知られた予言は覆されるのだ。
ハーマンによる合理的だが混乱をきたす仮定は、「ミトコンドリアの呼吸鎖からフリーラジカルが漏れる割合は一定」というものだった。その漏出は基本的に、呼吸鎖における電子の流れと酸素分子の必要性とが共存する細胞呼吸のメカニズムから、何の制御もなしに生じる不可避の副産物だ、と仮定したのである。ハーマンの考えによれば、呼吸鎖を流れる電子の一部が必然的に抜け出して酸素と直接反応し、有害なフリーラジカルを生成することになる。フリーラジカルが、生成量全体の1パーセントなどといった一定の割合で漏れるとすれば、漏出の総量は酸素消費の速度によって決まる。代謝率が高いほど、電子や酸素の流れは速くなり、実際に漏れる割合は変わらなくてもフリーラジカルの漏出が速くなる。したがって、代謝率の高い動物はフリーラジカルを速く生成し、寿命が短くなる一方、代謝率の低い動物はフリーラジカルの生成が遅く、寿命が長くなる。
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われわれが抗酸化物質の魅力に惑わされてきた理由は単純で、呼吸鎖から漏れ出るフリーラジカルの割合が一定でないためだ――ハーマンの当初の仮定が間違っていたのである。フリーラジカルの漏出はたいてい酸素の消費を反映するが、増減の調節ができることもある。言い方を変えると、フリーラジカルの漏出は、細胞呼吸によって何の制御もなしに生じる不可避の副産物であるどころか、制御され、だいたいは抑えられるものなのだ。コンプルテンセ大学(マドリード)のグスタボ・バルハらによる先駆的な研究によれば、鳥類が長生きするのは、そもそも呼吸鎖からのフリーラジカルの漏出が少ないからだという。結果として、彼らは大量の酸素を消費するにもかかわらず、それほど多くの抗酸化物質を必要としない。さらに、カロリー制限も同じような働きを示す可能性が考えられる。その際の遺伝子要因による変化はいろいろあるが、とくに重要なもののひとつは、酸素消費が同じぐらいあっても、ミトコンドリアからのフリーラジカルの漏出が抑えられることだ。ともに長寿である鳥類でも哺乳類でも、呼吸鎖から漏れ出るフリーラジカルの割合は減るのである。