じじぃの「人の生きざま_635_ポール・ボイヤー(生化学者・ATP合成酵素)」

F1 ATP synthase 動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=J8lhPt6V-yM
ATP合成酵素の回転 (natureasia.com HPより)

CHLOROPLAST ATPASE | Hisabori-Wakabayashi Laboratory at CLS, Tokyo Tech. 東京工業大学科学技術創成研究院化学生命科学研究所 久堀・若林研究室
葉緑体ATP合成酵素の調節
1997年度のノーベル化学賞は、長年ATP合成酵素の触媒機構の研究を行って来た米国P. D. Boyer博士とこの分子の各サブユニットの一次配列および分子構造を明らかにした英国分子生物学研究所J. E. Walker博士に贈られました。
1997年3月、当時の東工大・資源研・吉田賢右研究室と慶應大学理工学部・木下一彦研究室の共同研究によって明らかにされたATP合成酵素F1のγサブユニットの回転が、この酵素の触媒機構の本質であることが、世界に認められたのです。ATP合成酵素の分子構造は、バクテリアから高等動物のミトコンドリア、高等植物葉緑体に至るまで非常によく保存されています。
http://www.res.titech.ac.jp/~junkan/Hisabori_HomePage/chlt_atpase2.html
ポール・ボイヤー ウィキペディアWikipedia)より
ポール・ボイヤー(Paul Delos Boyer、1918年7月31日 - )は、アメリカ人生化学者。アデノシン三リン酸合成酵素の構造の解明に対して、1997年のノーベル化学賞を受賞した。1963年からはカリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)の化学および生化学の教授を務め、1965年には分子生物学研究所の責任者となった。また大学院部局間の調整にもあたった。しかしこのような激務でも彼の創造性は低下することがなく、ATP合成酵素の結合性に関して、3つの仮説を打ち立てた。即ち、獲得したエネルギーは最初からATPの合成に使われるのではなくリン酸基の結合を励起し、ATPの強い結合を緩ませるのに使われること。3つの活性部位は強制的に配列の結合性が変わること。酵素の外周にある活性サブユニットの結合性が変化が内部の小さなサブユニットの回転に由来するという仮定である。

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『脳とビッグバン―生命の謎・宇宙の謎 (100億年の旅)』 立花隆/著 朝日文庫 2000年発行
生命を支えるモーターをとらえる (一部抜粋しています)
東京工業大学・資源化学研究所の吉田賢右教授の研究室で、ATP合成酵素が微小な回転モーターであることを実験で示すビデオを見せてもらった。
蛍光を発する小さな短い棒が、幾つも幾つもクルクル回っている。あるものは速く、あるものはゆっくり、あるいはふらつきながら。
1997年、スウェーデンストックホルムで開かれたノーベル賞の事実上の予備審査にあたっている委員会で、このビデオが上映されたときの様子を、そこに出席していたニューヨーク州立大学のリチャード・クロス教授が、イギリスの科学雑誌『ネイチャー』(97年10月23日号)に、次のように語っている。
「その映像を見せられたとたん、みんな口をぽかんと開けてしまいました。これがノーベル賞の決定に最も大きな影響を与えたことは疑いありません」
やはりその会に出席していたアメリカ・カーネギー・メロン大学のデイヴィッド・ハックネー教授はこう語っている。
「ビデオの上映が終ると、フロアの聴衆から拍手喝采がまき起こり、しばらく会の進行が中断したほどです。そんなことはいまだかつてなかったことです。生化学的データから、ATP合成酵素が回転するにちがいないとみんなすでに納得していましたが、やはりそれを見える形で示したことは決定的でした」
読者の方にも、その映像を見ていただけるとよいのだが、とりあえず上(画像参照)に示した連続写真でその動きを味わっていただくしかない。
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ATPの何たるか、ATP合成酵素の何たるかを知らない人は、それを見ても何も感じないかもしれないが、これはその背景を知る人には、やはり、唖然、呆然のたぐいの映像なのである。そのあたりのことを本当に理解していただくためには、もう少し問題の背景を知ってもらわなければならない。
ともかくこれは、ノーベル賞は当然といっていいレベルの研究なのである。実際、1997年のノーベル化学賞は長年にわたってATP合成酵素の研究をつづけ、ATP合成酵素は回転体にちがいないという説を20年も前に立てた、アメリカ、カリフォルニア大学名誉教授のポール・ボイヤーに与えられた。
共同受賞者になったのは、イギリス、ケンブリッジ大学のジョン・ウォーカー教授だった。ウォーカーは、1994年にATP合成酵素を単離して、X線結晶回析によってその立体構造を決め、なるほどこれは回転体にちがいないと納得させた人物である。
そしてもう一人、吉田教授も、最後の最後まで、もう一人の共同受賞者になると思われていた。何しろウォーカーがやったことは、回転体にちがいないという構造を示すところまでであって、本当に回転していることを、誰の目にも疑いようもない形で、はっきり証明したのは、吉田教授たちのグループの実験だったからである。