『数学まちがい大全集 誰もがみんなしくじっている!』 堀江太郎/訳 化学同人 2015年発行
代数におけるまちがい (一部抜粋しています)
古いことわざに「まちがいから学ぶ」というものがあるが、代数学においては、それは特に正しい。誰でも多かれ少なかれ、計算のまちがい、注意不足による見逃し、または基本的な代数法則の誤解などをしてしまう。そのうち、特に代数に対する理解不足から起こるまちがいはおそらく最も重要である。
【方程式を解くとき注意しないとまちがえる】
方程式 1 + √(x+2) = 1 - √(12-x) を解くことを考えよう。ここで生じがちな誤りは、巧妙に隠されていて見過ごしやすいので注意してほしい。
まず、両辺に -1 を加える。そして両辺を2乗すれば、 x + 2 = 12 - x となり、結果として x = 5 を得る。
この値を元の方程式に代入すれば 1 + √(5+2) = 1 - √(12-5) となるから、両辺に -1 を足した √(5+2) = -√(12-5) の両辺を2乗すれば 7 = 7 となる。よって x = 5 は正しい答えであると考えてよいだろうか?
↓ 【1】へ
【正の数が負になってしまう不等式のまちがい】
まず p、q がともに正の数であると仮定する。しかし、これから、p が負の数であることを証明してみせよう。
明らかに 2q - 1 < 2q は正しい。この両辺に -p を乗ずると、-2pq + p < -2pq。両辺に 2pq を加えると p < 0。つまり p は負の数と結論できてしまう。正の数から p 出発したのにどうしてこうなってしまうのか。どこに誤りがあったのだろう?
↓ 【2】へ
【1】
違いますよ! 実際は x = 5 を元の式に代入すると 1 + √7 = 1 - √7 となって正しくない。よって x = 5 はこの方程式の解ではない。
では、どこに誤りがあったのか? 実は、平方根をとるときにはそれが正なのか負なのかをきちんと考慮に入れ中ればならなかった。われわれは考察の過程でこのことをいい加減にしてしまったのだ。
「等式の両辺を2乗することは、同値変形ではない」ことを思い出すとよい。2乗すると、与えられた方程式とは別の新しい方程式(それが余分な解をもつかもしれない)を追加してしまうこともある。「2乗された方程式」のすべての解は、元の方程式の解になるとは限らないのだ。
【2】
実は、「不等式の両辺を負の数で掛けたり割ったりすると不等号の向きが逆になる」という不等式における大原則を破ってしまったのだ。
簡単な例 2 < 3 を見てほしい。両辺に負の数 -1 を乗ずれば、実際に不等号の向きが逆になって -2 > -3 となる。