じじぃの「遺伝子の不思議」

『読まない力』 養老孟子/著 PHP新書 2009年発行
第1章 石油と文明 (一部抜粋しています)
なぜ文明はエネルギーを消費するのか。その根本はエントロピー問題にある。自然界では、秩序はいわば同量の無秩序と引き換えでしか手に入らない。エネルギーを消費すれば、たとえば石油を燃やせば、秩序正しく並んでいた炭素や水素の原子が、炭酸ガスや水のような小さな分子に代わり、それらの分子がランダムに動き出す。さらに熱が発生し、空気を含めた周囲の分子のランダムな動きを高める。つまり自然界に無秩序が増える。その代わりに、人間社会は何らかの秩序を手に入れることができる。たとえば冷暖房。
機能的に見るなら、気持ちがいいから、冷暖房を入れる。それが普通の解釈だが、それは寒いから服を着る、というのと同じ論理でしかない。じゃあ暑いときには、裸でいいのか。いくら暑くても、裸で歩いていたら警察に捕まる。じつは冷暖房とは、気温一定という「秩序」の要求なのである。文明人とは、ひたすら「秩序」を求める人たちである。だからこそ、タバコが気に入らないんだろうが。「勝手に気を散らしやがって」。天皇陛下に拝謁するとき、タバコを吸うやつはいない。
なぜ秩序を要求するのか。意識とは、秩序活動にほかならないからである。意識的にランダムな行動が可能か。それを考えたら、すぐにわかるはずである。意識はランダムに働かないからこそ、サイコロのような単純極まる道具が、古代から残っている。
意識が秩序的であるなら、意識が一定時間存在したら、その分の無秩序が溜まるはずである。つまりエントロピーが増大する。それは脳に溜まる。意識は脳の働きだからである。だからわれわれはイヤでも眠る。寝ているあいだは秩序活動である意識はない。寝ているあいだに、脳は溜まったエントロピーを処理する。それには意識活動と同じエネルギーが必要だから、寝ていても起きていても、脳はほぼ同量のエネルギーを消費するのである。文明とは意識の産物である。文明とはその意味でつまり秩序であり、あるシステムの秩序はシステムの外部に無秩序を放り出す。それが炭酸ガス問題、環境問題の本質である。ヒト自身は眠るから自分のなかに環境問題を起こさないが、「意識が外部化したもの」としての文明は遺憾ながら眠らない。ひたすら秩序を生み出す。それを一般には「便利だ、楽だ」という。本当か?

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サイエンスZERO ZEROスペシャル シリーズ ヒトの謎に迫る(7) 4月25日放送 NHK教育
【ゲスト】東京理科大学教授…田沼靖一 【コメンテーター】東京大学大学院教授…佐倉統 【司会】安めぐみ、山田賢治
「死と向き合う心」
細胞は、活性酸素や紫外線などから受けたダメージが大きいと、自死(アポトーシス)する。これは、ダメージを細胞レベルで食い止め、個体を守る危機管理システムで、およそ15億年前、遺伝子をランダムに組み換える有性生殖とともに進化したものだという。よくない遺伝子の組み合わせを持つ細胞、さらには傷ついた遺伝子を持つ個体を消去する「死」が生まれたというのだ。「死」の視点から、「進化」と「生」の仕組みを読み解く。
http://pid.nhk.or.jp/pid04/ProgramIntro/Show.do?pkey=001-20090425-31-20162
5/1、再放送であったがサイエンスZERO ヒトの謎に迫る(7)」を観た。
大腸菌は細胞が増殖しっぱなしで、死ないのだそうだ。
生化学者の田沼靖一氏によると、地球上に生命が誕生して15億年位経ったころ、遺伝子の組み合わせに死というものが組み込まれた。
活性酸素や紫外線で傷ついた細胞は、ダメージが小さければ修復して生き続けることができるが、ダメージが大きくなると死を選択、自らを粒状に分解して死んでいく。
正常な細胞から、傷ついた細胞に「お前は死ね」という指令を受けると、受けた細胞は自ら死んでいくのだそうだ。
新しいものが生まれるために古いものが死ぬシステムができた。死ぬことで多様な進化をするようになった。
コメンテーターの佐倉統氏。「人間が死んだのを考えるのは人間しかいない」
物質や熱の拡散の程度を表すのにエントロピーというのがある。
万物においてエネルギーを消費しない限りエントロピーが増大し、ばらばらになる。だから、すべての万物はいつか必ず死んでしまう。
活性酸素や紫外線で傷ついた細胞は体内の「秩序活動」を阻害する因子(エントロピーが増大)と見なされたのである。
宇宙のシステムも、この「秩序活動」で成り立っているのかもしれない。