じじぃの「科学・地球_486_温度から見た宇宙・生命・エントロピーと生命」

「フシギなTV」No.13 アンチエイジングや恋愛も?逃れられない宇宙の大原則 NGKサイエンスサイト【日本ガイシ

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=qVaoOqSNidQ&t=192s

エントロピー増大の法則

逃れられない宇宙の大原則(No.13 エントロピー)

NGKサイエンスサイト
整理整頓しておいた机がすぐに散らかるのも、水に落としたインクがだんだん広がっていくのも、熱いコーヒーが冷めていくのも、すべて物質や熱が、乱雑に広がっていこうとするからです。
ピラミッドみたいな壮麗で巨大な建造物も長い年月を経て、だんだん風化していきます。形あるものは形がなくなる方向にしか進まない。これもエントロピー増大の法則です。
https://site.ngk.co.jp/tv/no13/

『温度から見た宇宙・物質・生命――ビッグバンから絶対零度の世界まで』

ジノ・セグレ/著、桜井邦朋/訳 ブルーバックス 2004年発行

第2章 尺には尺を より

エントロピーと生命

マクスウェルが分子運動の分析に成功して間もなく、ウィーンのルートヴィッヒ・ボルツマンは、その分析が無秩序と可逆性の理解にどのように役立つかについて考え始めた。何年もかかって彼は、エントロピーに関するクラウジウスの考え方に対して統計的解釈を与え、熱力学の第2法則を原理的に説明することに成功した。
熱が高温から低温側へと流れ、その逆には流れないことの説明は、分子運動の概念を用いて説明することができる。容器内の分子が互いに衝突するとどうなるか。速い分子は減速し、遅い分子は速くなるが、その逆は決して起こらない。このことは、より熱い部分が冷たくなり、より冷たい部分が熱くなることを意味する。その結果として、熱的な平衡状態が達せられるのである。室温状態にある大きな箱の隅に氷を置いておくと、氷は解ける。しかし、もう一方の隅に湯を置いても、それが氷になることはないのである。
ボルツマンは、神経質で気分屋で、しばしばひどい鬱に襲われた。1906年に彼が自殺したあと、故郷のウィーンは彼の記念碑を建てた。音楽を愛好したボルツマンは、ベートーヴェンシューベルトブラームスシュトラウスの4人が眠る大きなツェントラルフリードホフ墓地の一角に埋葬された。本人がこれを知ったら、さそ喜ぶことだろう。もっとも、彼の墓石には音符は刻まれていない。彼のレリーフ像に刻まれているのは、エントロピーに関するボルツマンの公式S=klogWである。この式で、Sはエントロピー、kは現在ボルツマン定数と呼ばれている数、Wはその系がとり得る状態の数である。
現在ではエントロピーの概念は、物理学実験以外でも、あらゆる形で私たちの生活に浸透している。2個のサイコロを投げると、合計が3よりも7のほうが出やすい。7は6と1、5と2、それに4と3の3つの場合があるのに対し、3には2と、1の組み合わせしかないからである。つまり、7のほうが大きな”エントロピー”をもつ。とり得る状態の数が多ければ、それだけ出やすいということだ。
気体を充たしたゲイ=リュサックの容器に立ち返って、仕切り板を外した時、どのように気体が広がるかを思いだしてみよう。分子のとり得る運動経路の数が多くなるため、エントロピーは増加する。広がったあとの気体が、容器の片方側にすべて戻るのを確率は、分子数が増すにつれて急激にゼロに近づくのである。このような偏りの発生は、エントロピーを減少させ、分子の運動を厳しく限定することに相当する。2個のサイコロ投げで合計が3より7になる場合の数のほうが大きいのと同様に、分子を容器の片方側に入れておくよりも、容器全体に充たす場合の数のほうがより多いのある。
気体分子すべてを、容器の片方側に戻すことができるだろうか。このようにするいちばん簡単な方法は、容器の右端に例えばピストンを設置し、ゆっくりとこれに圧力を加え、気体が元の状態に戻るまで、分子を左側へと押し込むことである。これはうまい方法である。これはうまい方法である。だが、この圧縮によって気体は熱せられるから、分子を元の状態に戻すには、この余分な熱を取り去らなければならない。
もし、この熱を100%の効率で変換できて、それをピストンを動かすのに利用できたとしたら、容器内の気体の膨張と圧縮をくり返しながら、永遠に運動する機械を作ることができよう。しかしながら、これは不可能で、熱の仕事への変換は100%の効率では絶対にできないのである。気体を容器の一方の側に押し戻すにつれて、気体のエントロピーは減少するが、ピストン、冷却装置、それに容器の全体としてのエントロピーは増加するのである。
ボルツマンにより始められた確率と情報の関連性の追及は、いまでは熱力学から遠く離れた情報や通信の理論の領域にまで広がっている。さらに、この関連性はいくつかの興味ある課題も提起している。無秩序が増大したり、宇宙のエントロピーが常に増大するというクラウジウスの考えにしたがうと、生命の秩序ある発展、遺伝情報の伝達や、そうした情報の複製はいかにして可能となるのだろうか。これは厄介な問題である。

生命は絶えず栄養分のエネルギーを力学的エネルギーと熱に変えることによって、驚くほどの秩序を維持している。死後、代謝的な変化は終息し、有機体の無秩序さとエントロピーはともに急激に増加する。ところが、生命の誕生とその維持には、栄養分を無秩序な状態からエントロピーのより小さい秩序ある状態へと、絶え間なく変化させるという過程が含まれている。

このように、個々の生命体のエントロピーは減少するのに、他の個体、植物、動物、海洋、大地など生命体を取りまくすべての環境を併せて考えると、エントロピーは全体として常に増加する。生命は確かに存在し得るが、それでも、クラウジウスは正しかった。宇宙のエントロピーは確かに増加しているのだ。

正しく考えれば、生命は物理学と化学の基本原理とは矛盾しないのである。それどころか、生命システムに対する19世紀末の新しい見方は、個々の要素ではなく集団としての性質ももとらえるというエントロピーの考え方にうまく合致している。
フランスの偉大な分子生物学者、フランソワ・ジャコブは、熱の性質に関する新たな考え方、熱運動を統計的に理解するという方法、そして万物を支配するエネルギー保存則が、生命に対する科学者の考え方を変えたのだと語っている。つまり、19隻の初めには、生合成や形態形成を遂行するのに、生命体は謎めいた生命力を使うと考えられていた。だが、20世紀の終わりには次のように考えるようになった。生命体は、ただ、”エネルギーを消費しているだけだ”。
1900年には科学者たちは、もはや生命力や熱素などといった言葉を口にしなくなってしまった。エネルギーが基本的概念となったからである。
新しい考え方がでるたびに、科学は劇的な変化をくり返してきた。その新しい考え方の1つとして、地球は昔から多くの温暖化や氷河期を経験してきたという考え方が生まれた。科学はいかなる分野にあっても、新しい謎を次々と明らかにしてきた。そして今や、科学者たちは将来に目を向け、近い未来や遠い未来の地球の寒暖がどうなるのかとか、それが生命にとってどんな意味をもつのかといったことを推測するようになってきたのである。