じじぃの「科学・芸術_286_宇宙の熱死」

Entropy of Coffee 動画 Youtube
https://www.youtube.com/watch?v=0ZZVX-PVihE

気が遠くなる未来の宇宙のはなし 佐藤勝彦/著 Amazon
超ひも理論によれば、宇宙はより多次元の膜(ブレーン)宇宙であり、われわれの宇宙が開いた系であると考えることもでき、エントロピーの増大則はおろか、エネルギーの保存則も破れる可能性があり、宇宙の熱的な死が回避される可能性があります。
このように、全体の大宇宙は定常かどうかまだよくわかりませんが、その中の個々の小宇宙は、ビッグバンにより形成されるビッグバン宇宙の場合が考えられます。ところで、宇宙の膨張はエントロピーの増大、つまり熱力学の第二法則で説明されたりもします。宇宙はエントロピーの増大とともに膨張するが、一般相対性理論による重力の働きで膨張には限界がある、とか説明されたりもします。ただ、重力とエントロピーにはもっと直接的な関係が指摘されてもいます。

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宇宙論と神』 池内了/著 集英社新書 2014年発行
神のお遊び――膨張する宇宙 より
この法則(熱力学第二法則)は1850年にルドルフ・クラウジウス(1822年〜1888年)が提唱したもので、宇宙に存在するエネルギーは常に劣化していき、有用なエネルギーの総量は現象し続ける点に注目し、系の熱量と絶対温度の比をとると常に増加することを見出した。彼は後年にこの量を「エントロピー」と名付け、宇宙のエントロピーは常に増大し続け、それが最大になったとき利用可能なエネルギーは何ら残されておらず、宇宙全体が完全な無秩序状態に陥ることになるとしたのである。つまり、宇宙のエネルギーは使い物にならない摩擦熱や雑音のエネルギーに変わってしまい、その余熱によって宇宙の温度が上がっていくことになる。すると、星や銀河よりその周囲の温度の方が高くなり、星や銀河に熱が流入してすべての物質構造が崩れてしまうのである。宇宙がより多様に進化することがなくなるどころか、宇宙はただ崩壊していくのみとなるのだ。宇宙の時間の矢は宇宙崩壊の方向に向いているというわけだ。こうなると宇宙を指図する神ですら余熱によって蒸発してしまうか、狂い死にするというご託宣にならざるを得ないのである。
この宇宙崩壊の問題は、19世紀後半から物理学者を悩ませ続けた。エントロピーの法則をそのまま受け取れば、宇宙は創成された段階において最高の状態にあり、それ以後はどんどん劣化していくだけの運命をたどり、やがて星も銀河も姿を消してノッペラボウになってしまうのである。これが「宇宙の熱死と呼ばれた問題である。
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熱力学第二法則である「エントロピー増大の原理」を受け入れれば、宇宙は時間とともに劣化し、やがて崩壊してしまうことになる。星から放出された熱エネルギーが宇宙空間に蓄積されて宇宙の温度が上昇し、やがて星の表面の温度を上回ると外部から星に向って熱が流入するようになって、星は蒸発していくのだろう。溜まった廃熱によって宇宙は熱死してしまうと予想されていたのだ。宇宙が閉じた系である以上、その内部にエネルギー源がある限り劣化した熱エネルギーは宇宙空間に溜まっていき、やがて有用なエネルギーは枯渇して廃熱に埋もれてしまうのは避けがたい運命として考えざるを得なかった。そうなってしまうのはずっと先のことであるとはいえ、ジリ貧となる運命を許容している神とは何だろうと疑われていたのである。
宇宙が閉じていることは疑いない。もし他の系と接していたとしても、それをも含めて宇宙とみなせばよく、全体として孤立した系とすることができるためである。そうすると宇宙という系のエントロピーは増加することは確かである。星が熱を放出する限り、もはや利用できない廃熱が溜まっていくのも確実である。しかし、ここで系が膨脹していることを考慮しよう。体積が大きくなっているのである。そうすると系全体のエントロピーは増加していくのだが、それを体積で割った単位体積当たりのエントロピーは減少していく。とも考えられる。つまりエントロピー密度は下がるのである。体積が変化しない場合は、系のエントロピーの絶対値と単位体積当たりのエントロピーは区別せずに使ってもよいが、体積が時間変化をする場合には、2つは区別してつかわなければならないことに注意しなければならないのだ。
要するに、エントロピー密度(単位体積当たりのエントロピー)は減少していくのだから、星の周囲の温度は下がっていき、廃熱が溜まって星に熱エネルギーが流入するなんてことは起こらないのだ。むしろ、星からエントロピーをいくらでも捨てることができるから、宇宙には新しい物質構造を創る余地ができるようになる。宇宙は熱死するどころか、膨脹することによってより豊かになると言えるのである。神は廃熱で焼かれてしまうどころか、膨張によって廃熱が溜まらないように工夫していたのである。ハラハラさせておきながら、その実は安泰となる仕掛けをしている神はしたたかと言うべきだろう。