じじぃの「VOICE5月号 ピックアップ」

『VOICE』 5月号は面白かった。
読んで、印象に残った文章をピックアップしてみました。

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『VOICE』 5月号 (一部抜粋しています)
【総力特集:大不況・突破への挑戦】
●日本経済・再浮上への三大戦略
〜世界経済を危機から救い、自らも復活せよ ポール・クルーグマン
10年後、もはやドルは基軸通貨の地位を失っているという議論もあるようですが、正直なところ、それについてはまだ頭の整理ができていません。かっては基軸通貨としてのドルはなくなる可能性が高い、と考えていました。いま世界が向かっているのは二つの通貨、すなわちドルとユーロの世界です。しかしユーロには弱点があることもわかってきました。ユーロゾーンのほとんどは財政上のトラブルがかなり大きく、その結果、市場が断片化されてしまい、現在のポジションはあまりよくありません。しかしこの危機を乗り越えれば、基本的にはほぼ同じGDPで、ほぼ同じ金融上の精巧さをもつ二つの通貨域が誕生します。そうなれば、ますますドルの役割は侵食されていくでしょう。
もしドルが基軸通貨としての地位を失ったとき、日本はどう対処すればよいのでしょうか。間違っていけないのは、たしかに日本はドル資産をたくさんもっていますが、そのほとんどは直接投資のかたちになっていることです。日本の貿易は圧倒的にドル建てでなされていますが、それがどのくらい重要であるかははっきりしません。それがユーロや円建てになったとき、どれくらい状況が変化するかもわからないのです。
●自動車危機を勝ち抜く力 〜ホンダはいかに黒字を死守したか 福井威夫(ホンダ社長)
−−一方、ホンダは、独自に燃料電池車の開発を進めてきました。2020年ごろに実用化されるという声もありますが、見通しについてはいかがですか。
福井FCXクラリティ」は、すでに実用レベルに近いところまできています。米国ではすでに一般のお客さまに販売しましたし、国内においても環境省帝都自動車交通がそれぞれ一台、ホンダも広報車や宣伝用にもっています。したがって、2020年ごろにの実用化というご指摘は、かなり現実的な話ではないでしょうか。
技術的な課題はほぼ見通しがついていますから、今後はコストダウンが課題になってきます。その見通しさえつけば、実用化も一気に射程に入ってくる。むろん、スタンドなどインフラ整備の問題もありますが、それよりむしろ、水素をつくる段階でいかにCO2の排出量を減らせるかのほうが大きな課題といえます。
いずれにしても、私は、自動車における環境技術の究極は燃料電池車であると確信しています。この技術さえ極めておけば、バッテリー式の電気自動車にせよプラグインハイブリッド車にせよ、技術的な対応はすぐできます。ですから、燃料電池車をできるだけ早く実用化しなければいけないと考えています。
環境技術は日進月歩の勢いで進んでいますから、少しでも油断したらたちまち抜かれてしまいます。なかでも、ドイツの自動車メーカーは技術も優れているし、競争力もある。スピーディに開発を進めなければなりません。
原子力発電は大輸出産業になる 〜世界が求める日本企業の技術力 大前研一
最後にグリーンニューディールを議論するうえで、どうしても欠かすことができないのが、地球環境破壊者としてのクルマをどうするか、という点だろう。
目下のところ、ホンダのハイブリッド車であるインサイトや新型プリウスが話題を集めているように、ガソリン車からハイブリッド車や(ドイツなどでは)クリーンディーゼル車へという流れが生まれつつある。まずはこの取り組みの延長上で、エネルギー効率を改良する方向に事態は進んでいくだろう。オバマもリッター20キロ以上が目標、と明確に述べている。さらにはこれからプラグインの電気自動車が注目されることは疑いはない。今年開催されたスイスの自動車ショーでも、三菱、マツダ、日産など数社が出品を行った。
そしてこの分野でも、日本は圧倒的に強い。実用車としては若干高価だが、アメリカのTESLAなどが先行しているし、ドイツもいい線までいっている。電気自動車で使用するリチウムイオン電池は日本製、モーターは日本または台湾製である。リチャージャブルな蓄電池は日本のお家芸で、日本企業には大いに活躍の場がある。
●中国特需が景気回復を呼ぶ 財部誠一
●勃興する新ビジネス 〜「これが仕事?」と思う分野が伸びる時代 伊藤洋一
●日本型へ進化する資本主義 〜「5つのパラダイム転換」を先駆けよ 田坂広志
松下幸之助箴言 〜市場が冷えても需要は無限 北 康利
昭和40年7月に日本生産本部第8回軽井沢トップ・マネジメント・セミナーで行われた彼の講演は、まるでいま、彼がよみがえってきてわれわれに話をしているかのように生々しい。
「いままで不景気なことに何べんも直面いたしましたけれども、本質的には今日ほど深刻な経済界の姿というものは、私といたしましては、かって味わったことがないと申していいと思うんであります」
「政府は次々と衆知を集めておやりになるでしょうが、大きく期待できないということを、われわれ経済人は覚悟しなくてはならない」
「政府を頼んではならない。経済界自体において、ある程度これを挽回するという方策を、お互いの所産として生み出さねばならんのではないかと考える次第であります。そうして、この不況の状態をいろいろな改革の転機にいたしまして、さらに一大躍進をしていくことができないのかどうか、ということを真剣に考えるべきやないか」
「もうだれも頼まないというように心の転換をすることが、きわめて大切やないかという感じがいたします」
「この不況、過去の実績を反省して、さらに勇猛邁進して、今度は正しい方向にもっていくことができるか。あるいは過去の足りなかったことを反省し、さらに実態を知って悲観して、勇気を失うか。この二つの境目だという感じがします。そういう観点に立って、今後見ていかなければならんと思うんであります」
そして筆者がいちばん感動したのが次の言葉である。
「私は需要というものは無限と考えていいと思うんです」
この言葉を前にすると、市場環境が悪いから、需要が冷え切っているからと言い訳する気が起こらなくなる。
希望を抱かせるとともに、たいへん厳しい言葉でもある。
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【特集2:ついに始まる! 企業大合併】
●日本の業界地図が激変する
◎日産はビッグ3と再編? 小宮和行
◎事業再編すらできない日立 遠藤典子
結局、10年前に事業の2割を入れ替えると高らかに宣言した日立では、いまだにテレビも冷蔵庫も原子力発電所も新幹線もつくっている。限りあるリソースは分散され、どの事業も本格的なテコ入れができない。わずかな市場シュアにとどまる一方で固定費は巨大だから、不況の風が吹けば瞬く間に膨張する。
そうした劣化した事業は、打つ手がきわめて限られてしまう。日立は社長交代と同時に、テレビを含む家電事業と自動車機器事業の分社化を発表し、業界内再編成への意欲を滲ませたが、もはや手を組む相手は見当たらない。
ダイエー、イオン統合の日 小屋知幸
そして2000年以降はイトーヨーカ堂とイオンが流通業界の頂点に君臨したが、現在は勝ち残りである両者の業績も急速に悪化している。つまり総合スーパーは、全社が負け組に転落してしまったような状況であり、総合スーパーのビジネスモデル自体が成り立たなくなりつつあると考えられる。
急速な市場縮小に対応し、総合スーパー各社は店舗のリストラを急いでいるものの、それだけでは企業の生き残りは覚束ない。イトーヨーカ堂を傘下におく7&iグループとイオングループは、グループ戦略のなかで総合スーパーの比重を落としている。これに対して、総合スーパー依存度の高いダイエー西友が生き残るためのハードルはそうとう高い。今後ダイエーに関しては、筆頭株主であるイオンとの統合がより現実的な課題となるはずだ。西友に関しては、親会社であるウォルマートの決断次第では、今後の業界再編の"目玉"となる可能性がある。
◎「三大不動産」は泰然自若 増田悦佐
◎解体されるソフトバンク 山本一郎
規模の経済という点では、多大な投資が必要となるネッワーク層において市場原理が働きすぎたことで結局、従来の電電公社と新電電の2社体制のような先祖返りに向かいつつあるのも特徴だ。とりわけ、携帯電話ビジネスではドコモ、auソフトバンクモバイルイーモバイルウィルコムなどが割拠しているものの、十分な利益体質はおろか全力で自転車操業を続けているソフトバンクほか通信中堅は、いつ競争から脱落し事業再編の対象となってもおかしくないところまで追い込まれている。
通信キャリアが潰れるのは経済に対するインパクトも大きいが、いつまでも膨大な有利子負債を抱えたまま、暗い将来しか見えない経営を続けるわけにもいかない。グループ全体で2兆4000億円を超える負債に喘ぎ、手元キャシュも頼りないソフトバンクなどは、折からの市況下落で資金の外部調達の道もなかなか険しいものがある。携帯事業を含む既存事業の不振から、株価は1600円台から一時700円台まで下落。
さらに、将来の業績不安定を機関投資家に嫌気され、CP(コマーシャルペーパー)500億円を前倒しで全額償還するよう求められた。仕方なく子会社をヤフーに切り売りするなどして償還資金を捻出する始末で、まさにダイエーの最後にも似た風雲児の切なさだ。
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かっての自動車業界や製鉄業界、製薬業界なども経験したことであるが、日本土着の大企業が日本市場でだけ競争を繰り広げた結果、日本独特の市場風土に順応しすぎて規模の経済が利かず、世界的な多国籍企業との競争に勝てない現象がある。日本はたしかに携帯電話文化では先進国ではあるが、そこで流通している携帯電話端末は高機能方面に進化しすぎ、国際的にはまるで存在感のないシェアしか各社が取れていない現状がある。
携帯電話市場では、ノキアモトローラなどの欧米企業に加え、サムソン、LGなどの韓国企業が上位をめぐって激しく争っているのに対し、日本勢はソニーとの合弁のソニー・エリクソンが4%でようやく5位、日本市場で強いはずのパナソニック富士通などは世界ではほとんど誤差の範囲でしか顧客を獲得できていない。参入各社ごとに研究開発を進め、小口の投資に留った結果、大きな資本を投下し、大口のビジネスを手掛ける海外勢に各個撃破されたも同然の状況だ。
同じく、日の丸半導体と高らかに謳ったはいいが、エルピーダメモリ富士通などの各社各様に投資を小口で行った結果、資本力で圧倒する他国企業に価格支配力を奪われ、日本各社が全社赤字に転落するといった事例もある。
ソフトウェアの分野でいうならば、日本で大企業とされ大規模システムの開発では有数と称されるNEC富士通NTTデータなどシステム関連企業が、世界的な汎用ソフトウェアでデファクト基準に採用されたという話をあまり聞いたことがない。開発外注をインドや中国に振り分けることがニュースになっても、海外から大規模な開発案件を獲得して収益を上げたという事例もとくになく、相変わらず売上の大半は国内に依存している。比較的元気なウェブサービスの分野でも、楽天アメリカ進出を志して失敗したり、日本独自のサービスが海外では見向きもされないのが現実だ。
◎新生、あおぞらの弱者連合 浪川 攻
◎『毎日』を踏み潰すANY 藤城裕之
●攻めの買収に出る好機
〜「あってもいい会社」から「なくては困る会社」に 遠藤 功
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○危機の時代に読むべき名著 〜古代ローマの人生論で自分を磨け 渡部昇一
○創業の極意(2) [ニトリは“進んで損をする”] 堺屋太一
○剣が峰に立つ中国 〜米国債購入を巡る共産党政府の虚 中西輝政
○九州「独立」論 〜道州制実現で“世界17位のGDP”を伸ばす
東国原英夫<対談>江口克彦
○「創造」の秘密 〜脳と言葉と音楽と 吉田秀和<対談>茂木健一郎
ソマリア沖で他国と共同作戦せよ 笹川陽平
○〔話題のテーマに賛否両論!〕婚活 山田昌弘/藤井 亮
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[巻頭の言葉]消費を拡大させる税制 伊藤元重
[コラム ニッポン新潮流]
<スポーツ>アジアで稼げ! Jリーグ 二宮清純
<生活社会>郵便局より歌舞伎座 山形浩生
<科学技術>フランスに負ける水戦略 竹内 薫
いま「水」が世界的な問題になっている。先日、私がナビゲーターを務めるラジオ番組(J-WAVE「JAM THE WORLD」)のゲストに吉村和就さんをお招きして、世界の水問題について伺った。吉村さんは長年、国連で発展途上国の水インフラ整備などの指導に携わってきた、水環境問題のスペシャリストで、現在はグローバルウォータ・ジャパンの代表だ。
吉村さんの口からは驚くべき数字が次々と飛び出した。まず、地球上に存在する水にうち97.5%までは海水で、人間が使うことのできる淡水は、わずか2.5%にすぎない。しかも、その2.5%のうちの7割は氷河や氷山なのだ。そして、残った水の9割以上は地下水なので、河川や湖沼として人類がそのまま利用できる水は、地球に存在する水の0.001%にすぎない。言い換えると、「水の惑星」の水のうち99.999%はすぐには使えない状態なのだ(『平成19年度 日本の水資源』国土交通省)
   ↓ ここでも見られます
http://gwaterjapan.com/writings/0905voice.pdf
<経済産業>「日銀券ルール」の誤謬 若田部昌澄
<国内政治>小沢vs検察の歴史的因縁 上杉 隆
[BOOK STREET]
・この著者に会いたい「椎名 誠」 仲俣暁生/ワンポイント書評
・おじさんのための名作講座 堀井憲一郎
[PHPからの主張]怠慢教授の居座りを許すな 川上恒雄
[高井戸の蛙、世相を覗く](5) 政策投資銀行が背負う重荷 江上 剛
アルピニストの眼](5) エベレストを汚す中国 野口 健
[大宰相・原敬]第29回 「農商務省大臣秘書」 福田和也
[私日記]第113回 「KY=空気しか読まない」 曽野綾子
2月12日
午後、国緑化推進機構の会合に行き、ほんとうにびっくりした。資料の中に、割り箸が一膳入っている。「緑の募金で防ごう地球温暖化」「緑の募金は1人ひとりの森林への思いを集め、豊かな森林づくりに役立てています」「緑の募金にご協力ください」「この割り箸は、地球温暖化防止をはじめ、健全で多面的な機能を発揮する美しい森林づくりに貢献するスギ間伐材を利用しています」など、割り箸を使いましょう、というキャンペーンだらけの箸袋だ。
もう数年前になったが、割り箸を使う人は悪者のように扱われていた時代があった。私の知人はハンドバックの中にきれいな箸箱に入れた「マイ箸」を持ち歩いていた。同じ頃、シンガポールでは、肝炎を防ぐために、安い食堂では洗って使う塗り箸の使用を禁止し、発砲スチロールの丼と割り箸しか使わせなかった。
質問してみると、当時から杉の間伐の費用を捻出するために、割り箸を使うことがいいとされていたのだと思う。あのバカ騒ぎの片棒を担いだマスコミは、今にいたるまで一度も「あれは間違いでした」と誤ったことがない。国緑化推進機構の関係者に、「当時、皆さま方はどうして、あの熱狂を正すことをなさらなかったのですか」と聞いて見ると、間伐を必要とする専門家の意見は、当時、どこの新聞でも全く扱ってくれなかったのだという。まさに一致団結して言論統制を行った証拠だ。たった一例だけ、反対を唱えた専門家の意見が新聞に載ったときには、すさまじい反対の投書が押し寄せた。日本人の、実質を見ずに空気でものを言う気質はかなり始末が悪そうだ。首相のKYは空気が読めないの略。国民のKYは空気しか読まないの略。
杉だけではない。畑をすれば、間引きが要る。間引きなしに植物は育たないことは、少し土いじりをすれば骨身にしみてわかることだ。義務教育中に、畑仕事を必修にしなければならない。
[巻末御免]「陸運」 谷沢永一