姿を消しはじめたチョウ
里山などの鳥類 スズメなど16種が“絶滅危惧種”相当の減少
2024年10月6日 NHK
具体的には、スズメが1年あたり3.6%減少していたほか、セグロセキレイが8.6%減っていたということです。
またチョウについても分析したところ103種のうち34種が年3.5%以上のペースで減っていて、国ちょうのオオムラサキは1年あたり10.4%、イチモンジセセリは6.9%減少していたということです。
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20241006/k10014602081000.html
『人類はどこで間違えたのか――土とヒトの生命誌』
気候変動、パンデミック、格差、戦争……20万年におよぶ人類史が岐路に立つ今、あらためて我々の生き方が問われている。独自の生命誌研究のパイオニアが科学の知見をもとに、古今東西の思想や文化芸術、実践活動などの成果をも取り入れて「本来の道」を探る。
第3部 土への注目――狩猟採集から農耕への移行と「本来の道」 より
26 ミミズに注目
ダーウィンの最後の本
農耕という言葉が示すように、農と言えば耕す姿を思い浮かべるのがあたりまえだというのに、土を生かすとは耕さないことだという話に最初は驚きました。けれども、近年土の質が落ちているのは、化学肥料や農業など化学物質の影響だけでなく耕作に問題があるという指摘がさまざまなところでなされているのです。その理由はある意味簡単でミミズがいなくなってしまうからです。ミミズに象徴される土壌中の生きものたちの世界が乱されるということです。
私の大好きな本にダーウィンの『ミミズと土』があります。生命誌は進化する生きものたちの歴史物語の中での人間を考えるので、進化について深く考えたダーウィンからは多くを学んでいます。そのダーウィンが最後に書いたのが『ミミズと土』。何でミミズなのと問いたくなりますが、実はダーウィンは若い頃からミミズに関心を持ち、観察を続けてきたのです。ミミズへの愛が溢れる好著ですが、ここでの注目はミミズの土づくりです。いろいろなデータがありますが、その中から1つだけ。1842年12月20日、ダーウィンが33歳の時に牧草地の一画に石灰をまき、そのままにしておきました。1871年11月末、62歳にその土地を掘ってみると表面には柔らかい土があり18センチ下に白い石灰がありました。ミミズが土をつくったのです。1年に0.6センチ。とても気の長い実験ですが、ミミズが土をつくる様子が明確に見えました。
DNA解析が明らかにする土の中の生態系
棲んでいるミミズの種類やここにあげた数字はそれぞれの土地で異なるでしょうが、ミミズが土づくりに大きな役割をしていることはどこでも同じです。土の中にはミミズだけでなく、さまざまな土壌動物や微生物が暮らし、生態系をつくっています。微生物にはバクテリアや糸状菌や原生動物などがありますが、これらは培養ができないために、どんなものがいるかがわかっていませんでした。近年DNA解析で培養しなくても性質を知ることができるようになり急速に研究が進んでいます。動物としてはセンチュウ、トビムシ、ダニなどの小さなものから、日常気をつければ目に入るヤスデ、ムカデ、ダンゴムシ、アリ、シロアリなど、さらに大きなモグラとさまざまです。もちろんこれはほんの一部、土壌生態系は複雑です。ただ、地上の植物が光合成でつくった有機物(炭素化合物)の90%が土の中に入って分解されると知ってびっくりしました。残りの10%の一部を農産物として私たちが食べていると思うと、土の世界はなんと豊かな場所なのでしょう。
重要なのは「団粒構造」です。細かな粒子がびっしり詰まっている単粒構造に対して、水や空気の通り道になると同時に微生物のすみかにもなる間隙がある状態です。この団粒構造を持つのがミミズのふんなのです。これによってふかふかの土が生まれます。
豊かな土の世界を象徴するのがミミズであり、耕すことでミミズがいなくなるということは本来の土を壊し、そこから得られる養分を無駄にしていることがわかります。
27 アグロエコロジーの潮流
途上国、先進国に共通の潮流
自然に目を向けた流れはさまざまな形で提案されていますが、その1つにアグロエコロジーがあります。生態系全体を意識し、土や水を生かすという考え方で、具体的には有機栽培を行うという取り組みであり、ブラジルをはじめ、いわゆる途上国での実践が進んでいるのが興味深いところです。
一方、フランスが2014年に制定した農業基本法には、アグロエコロジーが経済と環境を両立させる地産地消型小規模農業として位置づけられているなど、ヨーロッパにも広がりつつあります。
アグロエコロジーは文字通り生態系を意識し、環境と食べものづくりを良いものにしていこうというものです。それには多様性、循環、回復力、参加型経済、知識の共有、自然との調和、高いエネルギー資源効率、人と社会の尊重、文化と伝統の尊敬、責任ある統治など、農業にかかわらず、生きものである人間がいかに生きるかを示す言葉が並んでいます。農業をこのような形で始めることが、21世紀の生き方につながるということでしょう。
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「『私たち生きもの』の中の私」、つまり「生命誌的世界観」を持つことが求められます。行わなければならないのは農業の転換ではなく、農耕社会から始まったサピエンスとしての歴史の見直しです。1万年前に農耕を始めた時の日常感覚は「『私たち生きもの』の中の私」であり、アニミズム感もあったでしょう。けれども、進歩と支配という価値観の中で国家権力が生まれ、科学革命、産業革命の中でそれは消されてしまいました。
21世紀になって、科学に基づいて生まれた知が、新しく「『私たち生きもの』の中の私」を浮かび上がらせました。そこで行われる農耕は、自ずと土の力を生かすものになるはずです。土についてよく知り、そこで育てる動植物についての研究を進め、つくる人、食べる人ともに豊かさを感じられる暮らしを生み出すと共に、動植物たちも生きものとして生き生きと存在する姿を見せている状態を思い描きます。「生きものとしての農耕」です。