地球の地殻、マントル、核、それぞれの元素濃度(重量%)
鏡の日本列島 3:鉄なき列島
2021.10.4 生環境構築史 伊藤孝【編集同人】
地球の鉄
房総半島に露出する地層に国際的な地質時代の基準面、ゴールデンスパイク★4が打たれ、チバニアンという地質時代名が認定された決め手は、砂層と泥層の薄い縞々の繰り返しが一般的な房総半島の地層のなかに、地球の歴史記録をたっぷりと欠損なく含んだ厚い塊状の泥岩層が挟まっていたこと、その泥岩層に松山―ブルン境界という地磁気の逆転境界が記録されていたこと、さらに幸運なことにその境界の直前に白尾火山灰が含まれ、その年代が正確に決められたことだろう★5。
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『日本列島はすごい――水・森林・黄金を生んだ大地』
伊藤孝/著 中公新書 2024年発行
7章 元祖「産業のコメ」――列島の鉄 より
2 地球の鉄
チバニアンと地磁気逆転
2020年、千葉県の房総半島に露出する地層に国際的な地質時代の基準面が設けられ、チバニアンという地質時代名が認定された。決め手は、砂層と泥層の薄い縞々の繰り返しが一般的な房総半島の地層のなかに、地球の歴史をたっぷりと欠損なく記録した厚い塊状の泥岩層が挟まっていたこと、その泥岩層に松山ーブルン境界という地磁気の逆転が記録されていたこと、さらに幸運なことにその逆転境界の直前に百尾(びゃくび)火山灰が含まれ、その年代が正確に求められたことであった。(菅沼悠介『地磁気逆転と「チバニアン」』)。
地磁気の尺度でいうと、現在はブルン期(元号でいう「令和」に相当するもの)にあたる。周知のように方位磁針の赤い針は北を向くが、ブルン期より1つ前の松山期ではその逆だった。方位磁針の赤い針が南を向いていた時代だ。千葉の地層には、その地磁気の入れ替わった瞬間が記録されている。
最大の鉄資源――地球の核
そもそも地球がなぜ磁性を帯び、あたかも地球の内部に強力な棒磁石が存在しているようにみえるのか、という問題はなかなか手ごわい。簡潔にまとめると、地球深部の外殻が溶けた鉄でできており、それが対流し電流が流れ、磁場が形成されているからである。
近年の地球惑星科学によると、地球は、原始太陽系円盤に存在していた固体微粒子を起源とし、それをもとに成長した微惑星の衝突により形成されたという。原始地球の誕生直後、密度の大きなものが中心部へと沈み、密度の小さなものが表面に残った。その中心に向けて沈んでいったのが鉄であり、それが地球の核となった。そして軽くて地球浅部に残ったものがマントルであり、地殻はそのマントルがのちに分化することで作られた。地球全体で考えるとマントルや地殻は、いわば「鉄の抜け殻」「鉄の出がらし」ということになる(図、画像参照)。
すなわち、地球の核ほど鉄の超巨大鉱床なわけだ。しかし、そこには月よりも遠い。我々はまだマントルにすら到達したことがないのだから、
まとめ
最後になってお名前を出すが、われわれ悪童を可愛がってくださった先生、大町北一郎による日本列島の詳細な鉄資源リストによって日本列島に豊富な鉄資源がないことは一層明確になった(大町北一郎『日本の鉄鉱石資源』)日本列島は4、地球での大規模な鉄の酸化沈殿が終了し、かなりの時間が経過してから誕生した若き島弧である。列島をくまなく探しても縞状鉄鉱層は出てこない。現在、われわれが鉄鉱石を100%輸入している背景である。むしろ伝統的には、鉄含有量の低い花崗岩起源のマサ土から鉄を採り、それを使っていた。
しかし、立ち止まって考えてみれば、いたるところに良質な鉄資源がなくとよかったのでは、とも思う。もし仮に鉄が山ほどあったら、製鉄を覚えはじめたわれわれの先祖はすべての森林を根こそぎにするまで薪・炭を作り、鉄作りに励んでいたかもしれない。たたらの一工程では、「ひと山を裸にするほど木炭を食った」(司馬『砂鉄のみち』)のだから、伝統的なたたら製鉄を描いたドキュメンタリー映画『和鋼風土記』が映す、惜しげもなく投入される炭には背筋が寒くなるほどだ。
その一方、「山々の木は、伐採したあとすぐ植え、30年でもとにもどります」とは、司馬が『砂鉄のみち』で引用する代々砂鉄製錬を続けてきた家の当主の言葉である。同じくマサ土を原料にした製鉄によって、朝鮮半島は禿げ山だらけのままだったのに、日本の森はなぜ回復するのだろう。雨の量・季節ごとの降雨パターンに大きな違いはない。
その分かれ目は、地球科学的な変動帯に属しているか否かだ。朝鮮半島と日本列島、これほどの近距離なのに、地球科学的な位置づけはまったく異なる。朝鮮半島はすでに先カンブリア時代に安定した大陸、日本列島は新しい変動帯。安定大陸では、岩石が風化され、土壌が形成されたあと、それはなかなか更新されない。風化していない岩石が再び露出するきっかけに乏しいのだ。
一方、新しい変動帯では、岩石がかき混ぜられ、風化していない岩石が地表に現れるチャンスが大きい。具体的には、火山噴火、断層運動、地すべりなどが、その働きをする。岩石が露出し、風化によって新たにミネラルが供給されること。豊かな森を維持するためには、この地球科学的な背景も一役買っている。