じじぃの「カオス・地球_454_哺乳類の興隆史・第9章・氷河時代の哺乳類②」

マンモス小象リューバ 1

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=MpSDyE5Xc-M

シベリアの永久凍土から発見されたケナガマンモス「リューバ」


永久凍土から発見の赤ちゃんマンモス「リューバ」、香港で公開中

2012年5月4日 AFPBB News
2007年にロシア・シベリア(Siberia)地方の永久凍土から、内臓やまつげまでほぼ完全な保存状態で発見されたメスの赤ちゃんマンモス「リューバ(Lyuba)」が香港で公開されている。
https://www.afpbb.com/articles/-/2875930?pid=8891709

『哺乳類の興隆史――恐竜の陰を出て、新たな覇者になるまで』

ティーブ・ブルサッテ/著、黒川耕大/訳、土屋健/監修 みすず書房 2024年発行

約3億年前に爬虫類の祖先と分かれたグループが、幾多の絶滅事件を乗り越えて私たちに至るまでの、途方もない歴史を描く書。

第2章 哺乳類が出来上がるまで より

ペルム紀末、現在のロシアに当たる地域には多くの獣弓類が生息し、火山地帯からそう遠くない場所で暮らしていた。ゴルゴノプス類がディキノドン類に犬歯を突き立て、キノドン類がシダ種子植物の森に身を潜めていた。それらの動物が噴火の直接の被害者となったにちがいなく。多くは低俗な災害映画よろしく文字どおり溶岩に飲み込まれただろう。
しかし被害はこれに留まらず、溶岩よりずっと恐ろしい火山の潜在的な脅威が露わになった。「サイレントキラー」と呼ばれる二酸化炭素やメタンなどの有害なガスが溶岩とともに湧き上がり、大気に放出され世界に拡散したのだ。これらは温室効果ガスであり、赤外線を吸収して地表に送り出すことで熱を大気に留める。おかげで急激な温暖化が起き、気温が数万年で5~8度ほど上昇した。
いま起きていることに似ているが、実は現在の温暖化よりはペースが遅かった(現代人に現状の再考を迫る事実だ)。それでも海洋を酸性化・貧酸素化させるには十分で。殻を持つ無脊椎動物やその他の海棲生物が広範囲で死滅した。

第9章 氷河時代の哺乳類 より

氷河時代には、氷地獄が延々と続くのではなく、寒冷期と温暖期がジェットコースターのように入れ替わった。両極から諸大陸に氷床が拡大した時期を「氷期」、氷床が解けて後退した時期を「間氷期」と呼ぶ。このジェットコースターはまさに絶叫もので、気候がコロコロ変わるうえに、温暖期と寒冷期の切り替わり方が急激だった。過去13万年間のイギリスを見ても、国土が厚さ数キロの氷に埋まった時期もあれば、ライオンがシカを狩りカバがテムズ川でくつろいでいた温暖な時期もあった。この両極端な状態の切り替わりは急激なもので、数十年~数百年で起きることも多かった。ヒト1人の一生のうちに起きることもあったほどだ。

1番の驚きは次の単純な事実にある。私たちは今も氷河時代の中にいる。現在は間氷期の1つにすぎず、氷床は拡大を停止しているにすぎない。そう遠くない将来、地球は再び氷期に突入し、シカゴやエジンバラはまたしても氷床に覆われる。しかし、人類がいま大気に放出している諸々の温室効果ガスがその寒冷化を抑制するだろう。地球温暖化がもたらす、好ましい(そしておそらくは予期せぬ)副作用の1つである。
    
氷河時代メガファウナの中で世間の人気をほぼ二分している動物がいる。マンモスと剣歯虎だ。この2大スーパースターは博物館の展示物として抜群の人気を誇り、日常会話では比喩に使われ(「大きい」の同意語としての「マンモス」を普及させたのはジェファソンその人だ)、ハリウッドでは正真正銘のスターとして君臨している。
長寿映画シリーズの『アイス・エイジ』でマンモスのマニーとサーベルタイガーのディエゴが主役を張っているのも納得だ。しかし、セレブの宿命として、マンモスと剣歯虎には様々な誤解がある。そこでこの氷河時代の2大スターの正しいプロフィールを学ぼう。

動物界を見渡してもマンモスほどよく理解されている絶滅動物はおそらく他にいない。T・レックスやブロントサウルス、本書に登場する絶滅哺乳類のほとんどと違い、私たちはマンモスがどんな姿をしていたから実際に知っている。なぜなら私たち――――祖先のホモ・サピエンスと親戚のネアンデルタール人――は、生きたマンモスを目撃し、その姿をよく洞窟の壁に描いていたからだ。フランスやスペインの洞窟にマンモスの壁画が残っている(人類最古の落書きだ)。私たちの祖先はジェファソンに負けず劣らずマンモスの虜になっていたらしい。
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アフリカという温暖な故郷から遠く離れた地で、巨躯と活発な代謝を支えつつ体温を高く保つ必要があったケナガマンモスは、旺盛な食欲を発達させた。現生のゾウは1日最大135キロの植物」を平らげるが、マンモスも少なくとも同じくらい、ひょっとしたらそれ以上の量を食べていたと考えられる。ステップでその場に生えている草を食み、氷漬けミイラの胃の内容物が示すように、特に長い夏の成育期には草や花(キンポウゲなど)を好んで食べ、冬には木の葉や、樹皮などを食べてしのいでいた。

マンモスには好みの食物を採取し摂食するための道具がいくつか備わっていた。1つめのキバは、恐ろしい見た目とは裏腹に武器としてより道具として使われることが多く、雪かきをして草地を露出させるためのスコップの役割や、塊茎や根を掘り起こすための鋤(すき)の役割を果たしていた。マンモスのキバは上顎の第1切歯が変化したもので、巨大だった。最長4.2メートル、前方と上方に向かって優美な曲線を描き、生涯を通じて数センチずつ伸びた。どこかヒトの手と似たところがあって、個体群の中で大きさと形に著しい多様性があったうえに、左右非対称だったことから右利きと左利きに分かれていた可能性がある。

キバを使って食物を集めたら、次は臼歯を使ってそれをすり潰す。マンモスの臼歯は大きく(最大で直径約30センチ、重さ約2キロ)、複雑だった(複数のエナメル質の稜が平行に走り、植物のすり潰しに適した洗濯板状になっていた)。この見間違えようのない形態――大きさ、形状、稜――があったからこそ、ストノの奴隷は即座にその臼歯をゾウのもとと認識できた。先に述べたとおり、マンモスの「グラインダー」を湿地から引き抜き、北アメリカの化石哺乳類を史上初めて同定・記録したのは彼らだ。現生のゾウと同じ句、口内には一時(いっとき)に4本の臼歯しかなかった(各顎に1本ずつ)。新しい臼歯はベルトコンベヤーの要領で後方から押し出されてくる。マンモスの臼歯には他にも興味深い特徴がある。丈が高いのだ。そういう歯を何と呼ぶかと言うと、前章で説明したように、高冠歯と呼ぶ。つまり、マンモスは中世期のアメリカのサバンナにいたウマと同じことをした。歯がすり減りやすい草などの植物を食べるための適応として、歯の丈をめいっぱい高くし、摩耗が徐々に起きるようにしていた。

マンモスには社会性があり、少なくとも一時的には群れで過ごし、草だらけの夕食を一緒に摂っていた。
カナダ・アルバータ州の化石山地にはマンモスの群れが残したディナープレートサイズの足跡がある。氷河前面からの砂塵が吹き溜まり砂丘となった場所をマンモスたちが歩いた跡だ。大型の成獣、中型の亜成獣、小型の幼獣の行跡がほぼ同じ割合で残っている。この行跡のほとんどはメスのものだと考えられる。なぜなら現生のゾウが母系社会であり、母親とその子供から成る小さな群れを作っているからだ。オスは幼い頃は群れで暮らすが10代で独立し、単独で行動するか独身のオスどうしで群れを作る。洞窟の壁には小柄な個体から成るマンモスの群れが描かれており、典型的なメスの特徴を備えた個体が寄り集まっている(動物の社会生活を人類が記録した最古の例の1つだ)。

マンモスの母親も子供も楽な生活は送っていなかっただろう。根拠は、極めて良好な保存状態で発見された生後1ヵ月のマンモスの氷漬けのミイラだ。2007年に、シベリア地方のヤマル半島(北極海に突き出た極寒の半島)で見つかった。大型犬サイズのその死骸はネネツ族のトナカイ飼いユーリ・フディにより発見されたが、その後盗難に遭い、スノーモービル2台と引き換えに売られ、野犬にかじられもした。しかし後日救出され、博物館に送られて、ユーリの妻の名にちなみ「リューバ」と命名された。約4万1800年前、その子ゾウは川を渡ろうとして岸のぬかるみにはまり、冷たく湿った泥を吸い込んで窒息し、命を落とした。マンモスステップの過酷な環境の犠牲となり、短く苦しい一生を終えたのだ。しかし、そうして死ぬことで、マンモスの成長と発達に関する情報を詰め込んだ。”タイムカプセル”になった。皮肉な話だが、今後もしマンモスがクローニングされることになれば、マンモスという種の復活に一役買うことになるかもしれない。