じじぃの「カオス・地球_379_街場の米中論・第1章・中国からイノベーションは生まれない」

USA vs China - Military Comparison

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=jGebzGKD1EQ

USA vs China Military Power Comparison 2024


Revealed: How China's military overpowers the US amid South China sea disputes

Oct 1, 2019 express.co.uk
CHINA flexed its military might on Tuesday, unveiling a series of highly sophisticated and deadly weapons on the streets of Beijing.
https://www.express.co.uk/news/world/1184986/world-war-3-china-us-donald-trump-xi-jinping-nuclear-missiles-military-spt

街場の米中論

【目次】

第1章 帰ってきた「国民国家」時代の主導権争い

第2章 自由のリアリティ
第3章 宗教国家アメリカの「大覚醒」
第4章 解決不能な「自由」と「平等」
第5章 ポストモダン後にやって来た「陰謀論」時代
第6章 「リンカーンマルクス」という仮説
第7章 国民的和解に向かうための「葛藤」
第8章 農民の飢餓
第9章 米中対立の狭間で生きるということ

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『街場の米中論』

内田樹/著 東洋経済新報社 2023年発行

疫病と戦争で再強化される「国民国家」はどこへ向かうのか。
拮抗する「民主主義と権威主義」のゆくえは。
希代の思想家が覇権国「アメリカ」と「中国」の比較統治論から読み解く。

第1章 帰ってきた「国民国家」時代の主導権争い より

「民主政のコスト」が軍事のアップデートを阻害する

パンデミックに限らず、中国のアドバンテージは完全なトップダウンだということです。習近平が下した指示が統治機構の末端まで遅滞なく示達されて、物質化する。前に出した指示とまったく違う指示が出ても、「前と話が違う」とか「現場が混乱する」とかいう理由で反対に遭遇するということがない。これほどの効率はアメリカには期待できません。

軍事がそうです。軍事のAI化は米中両国の喫緊の課題ですが、これは中国にアドバンテージがあるといわれています。2017年ランド研究所の報告は「妥当な推定を基にすれば、米軍は次に戦闘を求められる戦争で敗北する」と結論づけています。同年、ジョセフ・ダンフォード統合参謀本部議長も「われわれが現在の軌道を見直さなければ、量的・質的な競争優位を失うだろう」と警告を発しています。
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でも、それはしかたがないんです。これこそが「民主政のコスト」だからです。広い国民的合意が得られないままに統治者が独裁的にふるまうことが許されない。アレクシス・ド・トクヴィルが『アメリカの民主政治』で指摘した通りです。まさにそれこそが民主主義の「手柄」でもあるわけですが、とりあえず、アメリカが軍事のアップデートにおいて中国に遅れているのは、アメリカが民主政の国だからです。

「前代未聞のイノベーティブなアイデアが生まれる場」

でも、長期的に見ると、アメリカには民主政ゆえのアドバンテージもあります。
これまでのところ科学的発見では圧倒的にアメリカが中国を凌いでいるとう点です。2021年までのノーベル賞受賞者国別ランキングでアメリカは394人で1位。中国は8人で23位です。ただし、中国の自然科学分野の受賞者5人のうち2人は米国籍の華人です。この大きなハンディはこの先も簡単には詰められないだろうと思います。

最大の理由は「前代未聞のイノベーティブなアイデア」を思いつき、語り、進化させる自由がアメリカにはあるけれど、中国にはないということです。
中国の場合、それまでのテクノロジーを刷新するような新しいアイディアを1人の天才的な科学者が思いついたとしても、それが国家機密に指定されたら、この科学者はそれを学会で発表することもできないし、世界中の研究者仲間と語り合うこともできない。それで名声を得ることも、特許料を受け取ることもできない。すべては政府が管理する。

科学というのは、公共的な言論空間においてしか生き延びることができません。それに、ついて自由に語り合うことができる場が絶対に必要です。自分の仮説を別のラボで追試したり、反証事例を出してくれる「科学者のコミュニティ」が存在することが科学性の必須条件です。カール・ポパーはこう書いています。

  「われわれが『科学的客観性』と呼んでいるものは、科学者の個人的な不党派生の産物ではない。そうではなくて科学的方法の社会的あるいは公共的性格の産物なので、ある。そして、科学者の個人的な不党派性は(仮にそのようなものが存在するとしてだが)この社会的あるいは制度的に構築された科学的客観性の成果なのであって、その起源ではない。」

ポパーは「科学性」をこう定義しています。「いまの中国では科学は成立しないだろう」という僕の予測はこのポパーの定義に基づいています。中国において自然科学は「公共的性格」を持つことが制度的に禁じられている。それは専一的に中国共産党の支配体制に貢献する以外の目的を持つことができない。むらん短期的にはその方が効率的にテクノロジーの進化に資すると思います。でも、本当の意味でのイノベーションはそういう「合目的的」な環境では起きません。テクノロジーの劇的なブレークスルーは、既存のシステムの受益者たちを何十万、何百万、場合によっては何千万人という単位で失業させたり、その技能を無価値化することがあります。そういうものです。グーテンベルグの印刷術がローマ・カトリックの一元支配を終わらせたように、蒸気機関車が馬車の御者や馬具商を失業させたように、NetFlixが貸しビデオ屋を駆逐したように。既存のシステムを土台から揺るがしてしまうものだからこそ「ブレークスルー」と呼ばれる。でも、そういうことはいまの中国の統治システムにおいてはまず起こらない。予兆があった段階でたぶん潰される。

ですから、短期的には、国民監視テクノロジーやディープフェイクなどの技術で中国はしばらくの間世界標準を創り出すことができるでしょうが、長期的にはアメリカの創造力には勝つことができない。僕はそう見通しています。

中国がアメリカを抑えて世界の超覇権国家になろうと本気で思っているのだとしたら、どこかにタイムリミットがあります。アメリカが自然科学上のブレークスルーを起こして、現在の科学技術の基幹的分野のいくつかを「時代遅れ」のものにしてしまうより前に、アメリカに勝たなければならない。これはかなりきびしい時間制限です。