じじぃの「カオス・地球_131_南海トラフ地震の真実・地震予知の失敗」

南海トラフから命を守れ 【対策】【研究】最前線

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南海トラフから命を守れ


南海トラフ揺らぐ80% (3)港掘り下げ「間違いない」 小沢慧一(東京社会部)

2022年11月27日 中日新聞
防災予算獲得のために高確率が採用された南海トラフ地震の80%予測。
唯一の根拠となっている古文書の調査を始め、解読を進めると、古文書の記録は国の地震予測のデータにするにはあまりに大ざっぱなものだとわかった。だが、さらに調べると、毎年、港で工事がされたことを示す記録が見つかる。
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南海トラフ地震の80%予測の根拠となっている古文書に記された室津港高知県室戸市)の水深の記録は、実はこれまで考えられてきたような地震の隆起ではなく、人工的に掘り下げられた上での記録である可能性が高まった。学術的に検証するため、東京電機大の橋本学特任教授、東京大の加納靖之准教授と共同調査を始めた。
https://www.chunichi.co.jp/article/589793

南海トラフ地震の真実』

小沢慧一/監修 東京新聞 2023年発行

はじめに より

静岡県から九州沖にかけてマグニチュード(M)8~9級の巨大地震が30年以内に「70~80%」の確率で発生するとされている南海トラフ地震。この数字を出すにあたり、政府や地震学者が別の地域では使われていない特別な計算式を使い、全国の地震と同じ基準で算出すると20%程度だった確率を「水増し」したことを、ほとんどの人は知らないだろう。なぜなら、そうした事実は私が取材するまで、政府や地震学者によって「隠す」かのように扱われていたからだ。

この確率の根拠となっているのは、元をたどれば江戸時代に測量された高知県室戸市室津港1ヵ所の水深のデータだ。しかもこの数値は、港のどこを、いつ、どうやって測ったかが不明なデータで、さらにその港は測量前後に何度も掘削工事を重ね、確率計算の前提となる自然の地殻変動をきちんと反映していない。このことを知ったらこの数字を信用できるだろうか。

第6章 地震予知の失敗 より

「虚構」の地震予知

地震予測」の問題点を考えるうえで「地震予知」の失敗についても知っておく必要がある。

まず地震予測と地震予知とでは、その手法が異なる。地震予測は過去に起きた地震の統計から、「30年以内に何%」などと大ざっぱな次の地震の時期を予測するものに対し、地震予知地震が起きる前に発生すると考えられている前兆現象を観測でとらえ、「3日以内に静岡県地震が発生する」などとピンポイントで言い当てるものだ。先に結論を言ってしまえば、現在の地震学では地震との因果関係が証明された前兆現象は見つかっておらず、地震予知はできない。

予知は「オカルトのようなもの」

日本の地震予知への批判が高まるきっかけをつくったのは、ロバート・ゲラー東大名誉教授だ。
ゲラー氏は米スタンフォード助教授から、1984年に初めて任期なしの外国人教員として東大理学部の助教授になった地震学者だ。地震予知を批判する論文が1991年に英科学誌ネイチャーに掲載され、脚光を浴びた。

研究室に取材に行くと、ゲラー氏は冒頭から「前兆現象はオカルトみたいなものです。確立した現象として認められたものはありません。予知が可能と言っている学者は全員『詐欺師』のようなものだと思って差し支えないでしょう」と言い切った。

ゲラー氏によると、「地震の前兆現象」といわれているものは1万件以上あるという。いずれもその現象が起きれば必ず自身が発生するという再現性があるものではなく、因果関係が証明されたものはないという。米国では1980年代に予知の研究はほぼ行われなくなった。

「前兆現象があったら教えてほしいという市民の気持ちは理解できます。しかし、それを悪用する学者は最低です」

それでは、なぜ学者は「できない」と言わなかったのだろうか。

「当時、地震予知を研究していると言えば、他の分野の研究よりもよっぽど楽に研究予算が下りました。予知研究は打ち出の小づちだったのです。地震予知研究が叫ばれてから、学者たちにとっては『幸い』なことに阪神・淡路大震災(1995年)まで甚大な被害をもたらす大きな地震がなく、予知が不可能なことがばれずに済んだのです」

実は神戸周辺には活断層が多く、大地震が起きてもおかしくないことは地震の専門家たちにはよく知られていた。
だが政府は当時「地震発生前に東海地震の予知ができる」と過信して東海地方に偏った地震防災対策を取っており、テレビや新聞も東海地震予知体制の下で報道を続け、全国的に地震といえば東海地震や首都直下地震に関する報道が多かった。
こうした状況から、特に専門家が地震は起きないと言ったわけではないが、自治体や住民らの間になんとなく「関西では大地震が起こらない」といった「安全神話」が形成されたのである。

阪神・淡路大震災の発生によって地震予知ができないことが白日の下にさらされ、政府と予知研究をしていた地震学者には多くの批判が集まった。当時地震予知推進本部長を兼務する科学技術長官の田中真紀子氏は「地震予知に金を使うぐらいだったら、元気のよいナマズを飼ったほうがいい」と言い放ったと語り継がれており、地震予知推進本部は今の「地震調査研究推進本部」に看板を掛け替え、政府の目標が地震予知から予測に切り替わった。

しかしその後も大震法が廃止されることはなく、2011年の東日本大震災をきっかけに、政府の中央防災会議は2013年、ついに「確度の高い予測は困難」と認めた。

ゲラー氏は、予知体制の弊害は今も残っているという。

「予知が虚構であることが明らかになりました。だが、予知ができるとうそをついた先生たちとその弟子や孫弟子は、今では地震研究の中心的な座に居座っています。本当は、予知研究が失敗した時にメンバーを変えなくてはいけなかった。東大地震研をはじめ旧帝大の研究者など一部の人が相変わらず、次は地震予測だと言って予算とポストを取り過ぎているのが実態です」

ゲラー氏が地震予知だけでなく地震予測にも批判的なのは、そもそも「地震は一定の周期で繰り返し起きる」とする周期説を否定的にとらえているからだ。

訴訟回避のための見直し

2016年から始まった大震法抜本見直しの検討会の座長就任要請を断ったという関西大の河田恵昭特別任命教授(防災・減災、危機管理)は、「内閣府南海トラフ地震を予知できなかった場合、国の不作為として訴えられるのを恐れて見直しを始めた」と当時の事情を説明する。

河田氏によると、熊本地震での政府の対応を検証した結果、熊本地震より大きな地震が発生した場合、非難所の設営や応急救助などを定めた「災害対策基本法」と「災害救助法」では対応しきれなくなることがわかったという。南海トラフ地震熊本地震よりはるかに大規模な被害が出ると想定されている。

これが突発的な地震ならば、政府の不作為までは問われない。だが大震法は東海地震の予知ができることを前提にした法律だ。
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なぜ内閣府はそこまでして大震法を廃案にしたくなかったのか。この問いに河田氏はこう答える。

「大震法は議員立法だ。廃案にするとなるとめちゃくちゃもめる。当時の政策立案者に責任が及ぶが、40年も前に成立した法律で立案者がいない。すると今の担当局長や参事官が矢面に立たざる得なくなるが、役人としてはそれは避けたい。2年もすれば人事異動で次のポストに移るのだから、そこまで耐えられればいいというのが本音でしょう」

朝日新聞の元科学記者で著書に「日本の地震予知研究130年史」などがある泊次郎氏は、大震法を残すことで、各省庁はいつまでも予算と人員を確保できるし、国の委員となっている有力な学者は予算の配分に影響力を持てる。大震法の廃止なんて、初めからできるわけがなかった」と解説する。そのうえで、見直し後の地震防災の環境についてもこう指摘する。

「こうした仕組みが残ったことで、多くの人は南海トラフ地震が起きる前には何らかの情報が出ると勘違いを続けるのではないでしょうか。これで、各防災機関や有力な研究者が既得権益を尊重し合うムラ構造は温存されました」