【現代社会】離島制圧から全面侵攻まで、台湾有事の6つのシナリオを考察/分岐する未来
「台湾海峡」という大障害
習近平はいつ“台湾侵攻”を決断するのか
元陸上自衛隊最高幹部が注目する「3つのポイント」(山下 裕貴)
2023.04.19 講談社
●「台湾海峡」という大障害
米国防総省の「中国軍事力報告2022」では、台湾海峡作戦を担当する部隊として、人民解放軍の東部戦区及び南部戦区を挙げている。
増援部隊を含め、両戦区を合計すると約42万人の戦力が台湾正面に使用可能とされている。
https://gendai.media/articles/-/109013?page=3
デンジャー・ゾーン――迫る中国との衝突
【目次】
序章
第1章 中国の夢
第2章 ピークを迎えた中国
第3章 閉じつつある包囲網
第4章 衰退する国の危険性
第5章 迫る嵐
第6章 前の冷戦が教えること
第7章 デンジャー・ゾーンへ
第8章 その後の状況
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『デンジャー・ゾーン――迫る中国との衝突』
ハル・ブランズ、マイケル・ベックリー/著、奥山真司 /訳 飛鳥新社 2023年発行
第5章 迫る嵐 より
チャンスの窓と戦争
もし中国が日本のような地域大国と争う準備ができていないのであれば、その代わりに南シナ海周辺の弱者である近隣諸国を脅かすことができる。北京はベトナムを打倒したいと思っているはずだが、それ以上に格好のターゲットとなるのは「完璧な敵」という条件にすべて当てはまるフィリピンであろう。
「軍事的に弱いか?」という項目はイエスだ。フィリピンは徐々に中国に反旗を翻しているかもしれないが、今のところその能力は哀れなものであり、北京はフィリピンの海軍と空軍を一度の小競り合いで一掃することができるだろう。
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もし中国がフィリピン軍を攻撃した場合、アメリカは非常に厳しい選択を迫られることになる。領土の主張に関して曖昧な立場をとる同盟国を守るのか、それとも中国が国際法を無視して南シナ海の支配を拡大し、アジアにおけるアメリカの同盟へのコミットメントの信頼を台無しにするのを承知で介入しないかの、どちらかしかないからだ。
ターゲット:台湾
これらのシナリオは、それぞれ深刻なものだが、中国の革命的なキャンペーンのメインイベントとなりそうなもの、すわわち「台湾の征服」に比べれば比較にならない。台湾の奪取は中国の外交政策の最大の目標であり、中国共産党は台湾奪還のために国防予算のおよそ3分の1を注ぎ込んでいると言われている。
もし中国が台湾を征服できれば、世界レベルの半導体産業へのアクセスが可能となり、何十隻もの船舶、何百ものミサイルランチャーと戦闘機、そして何十億ドルもの防衛費を使って遠隔地まで破壊力を及ぼせるようになる。中国は台湾を太平洋に戦力投射をするための「浮沈空母」として利用し、日本とフィリピンを海上封鎖し、東アジアにおけるアメリカの同盟ネットワークを崩壊させることができるようになる。
とりわけ侵略が成功すれば、世界で唯一の「中国人による民主国家」が消滅し、中国共産党の正統性に対する恒常的な脅威が取り除かれることになる。台湾は東アジアの重心であり、中国の指導者たちが「短期的な侵略で、アメリカに対する自国の長期的な軌道を根本的に改善できる」と考える、典型的な場所である。
台湾が北京にとって最も魅力的なターゲットである理由は他にもある。たとえば地理的な非対称性が深刻な点だ。台湾防衛のために、アメリカ軍は中国沿岸から100マイル以下の近距離で戦わなければならず、戦場まで少数の脆弱な基地や空母から出発して何百、何千マイルも移動しなければならない。アメリカ軍の多くは他の地域に駐留しているため、アメリカは片手を縛られた状態で戦うことになる。
これに対して中国は、自国の軍隊の大半を投入することができるし、自国を巨大な基地として利用できる。中国軍は、安全な陸上交通路と補給路を確保でき、本土の無数の「聖域」から射撃、移動、再装填ができる。全土において中国軍を収容し、食事を与え、補給し、輸送することによって戦争の遂行を支援することができるのだ。
このような「ホームフィールド・アドバンテージ」を、東シナ海や南シナ海での戦争で中国が直面する状態と比較してみよう。中国空軍と海軍は、戦場と大陸の間を何百マイルも移動して燃料を補給し、再装備しなければならない。この行き帰りの行程は、中国銀の前線における戦闘力を削ぐことになり、彼らは脆弱な通信衛星網に頼らざるを得なくなる。また、中国軍は戦域への行き帰りに台湾を通過するたびに激しい攻撃を受けることになり、嫌がらせや消耗作戦を実行するチャンスを敵に大量に与えてしまうことになる。
最後に、台湾は中国にとって「チャンスの窓」が最も急速に閉じつつある場所だ。平和的統一の可能性は急速に失われつつある。中国本土の一部になることを望む台湾人はますます少なくなり、アメリカは台北との軍事・外交関係を強化しつつある。これに対応するため、中国は軍事的な選択肢を検討しているのだ。
2020年9月、人民解放軍は台湾海峡で、この25年間で最も攻撃的な軍事力の誇示を開始した。台湾の防空識別圏への侵入は急増している。
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「恐ろしい2020年代」は厄介な10年間となりそうだ。なぜなら中国が厄介な地政学的分岐点――衰退を避けるために大胆に行動することが可能であり、またそうすべき時点――に差しかかっているからだ。
ピークを迎えつつある修正主義国は、ある程度の成功がまだ見込めるうちに行動するチャンスをうかがうものだ。そして中国にはいくつかの短期的なチャンスの窓がまだ開いているため、そこに魅力的な可能性を見ている。
大胆さというのは狂気と違う。もちろん中国のパワーが頭打ちになったからといって、全方位に対して猛烈な勢いで暴れだすとは限らない。だがそれは中国がさらに強圧的で攻撃的になることを意味し、とりわけ今のうちにリスクを冒すことが、長期的により良い現実を生み出すはずだと考えている分野ではそうなる。
もし中国が台湾を手に入れれば、第一列島線を突破し、北京の戦略的な地理状況は非常に良くなる。もし中国がハイテク帝国を築けば、経済の停滞と外国による包囲網を食い止めることができるかもいれない。もし中国共産党が民主化の波を押し返すことができれば、政権が強化され、国際的な孤立状態を解消できるかもしれない。
中国の指導者たちは、もしかすると「ちょっとした大胆さがあれば、自分はもっと悲惨になる運命から救われるはずだ」と自分たちに言い聞かせるかもしれない。
もちろんこれも1つの可能性だ。だがもう1つの可能性は、こうした駆け引きが悲劇に終わることである。中国の新たな帝国主義は、世界各国で紛争を誘発する可能性がある。西太平洋での侵略は、最悪のエスカレーションを引き起こす可能性がある。
だが、ピークを迎えつつある大国が、必ず理性を失うわけではない。1941年当時の日本の指導者たちの多くは、東京が敗北する可能性が高いのを理解していた。だが彼らの行動は常に不安定になりがちだ。なぜなら「恐ろしい未来」を回避するために、より高いリスクを積極的に受け入れようとするからだ。
したがってワシントンは実に困難な仕事を抱えている。アメリカには、今後1世代以上にわたって自己主張が強く独裁的な中国に対処する、長期的な戦略が必要だからだ。だが同時に、この10年間の高い緊張の続く時期を乗り切るための短期的な戦略も必要だ。
アメリカがこの頂上決戦で平和的に勝利するためには、まずこの「危険な時期(デンジャー・ゾーン)」を乗り越えなければならない。ここでもまた、歴史の実例が役に立つかもしれない。