じじぃの「カオス・地球_68_デンジャー・ゾーン・序章・中国の台頭」

【中国 デンジャー・ゾーン 突入】『米中新冷戦の今後』

長谷川幸洋高橋洋一のNEWSチャンネル
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デンジャー・ゾーン――迫る中国との衝突

【目次】

序章

第1章 中国の夢
第2章 ピークを迎えた中国
第3章 閉じつつある包囲網
第4章 衰退する国の危険性
第5章 迫る嵐
第6章 前の冷戦が教えること
第7章 デンジャー・ゾーンへ
第8章 その後の状況

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『デンジャー・ゾーン――迫る中国との衝突』

ハル・ブランズ、マイケル・ベックリー/著、奥山真司 /訳 飛鳥新社 2023年発行

序章 より

2025年1月18日、いままさに戦争が始まろうとしていた。
アメリカでは大統領就任式を2日後に控えていたが、選挙の結果はまだ係争中だった。民主党共和党の候補者はいずれも勝利を主張し、就任式での宣誓の準備をする一方で、何百万人もの支持者たちが街頭で衝突していた。アメリカで選挙結果が争われるのは連続2回目であり、今回は同時に、地球の裏側で危機が進行していた。

中国が台湾海峡で大規模な海軍演習を行っていたのだ。人民解放軍は台湾に向けて、空挺部隊、水陸両用揚陸部隊、攻撃用航空機、数千発の弾道ミサイルといった脅威となる兵略を配備していた。

このような中国による力の誇示は、過去50年間、離反した省とみなす台湾という島国への恒例行事となっていた。中国共産党のトップとして13年目を迎える習近平は、台湾に対して北京に服従せよと繰り返し警告し、アメリカに対しても手を出すなと言い放っていた。

彼が好んで使う言葉は、中国の発展を遅らせようとする者は「万里の長城に頭を打ちつけられて血まみれになる」というフレーズだった。これと似た調子で、中国共産党の宣伝機関は、人民解放軍の攻撃で台湾軍とアメリカ軍が虐殺される様子を描いた動画が公開するようになった。さらに人民解放軍は、日本政府が邪魔をすれば、日本の都市を核兵器で蒸発させると脅してもいた。

西太平洋のはるか上空では、アメリカのスパイ衛星が軍の動きを監視していた。アメリカが世界に誇るシギント(電波傍受)能力が、中国側の動員を察知している。だがアメリカは、これも習近平がよく使う脅しであり、台湾の国民を動揺させて軍備を増強する陽動作戦に過ぎないと見ていた。

だが、彼らは今回、完全に間違えていた。
アメリカ東部時間の午後10時1分(北京と台北では翌朝に当たる)に、中国軍は猛攻撃を開始した。短・中距離ミサイルが、台湾全土の飛行場、政府機関、軍事施設、そして沖縄とグアムにあるアメリカの重要な空軍基地を攻撃したのだ。この地域を唯一航行していたアメリカの空母であるUSSロナルド・レーガンには、対艦弾道ミサイルが直撃した。

事前に台湾に潜入していた中国の特殊部隊がインフラを破壊し、首脳を殺害して中華民国政府を斬首しようと試み、台湾国民にパニックを引き起こした。中国のサイバー戦士は、送電網を破壊して台湾全土を大規模停電に追い込み、アメリカの人工衛星を盲目状態にした。

一方、北京はこの危機が台湾のせいであるとする世界的な偽情報キャンペーンを展開し、アメリカ国内の混乱した政治情勢をさらにかき回した。

ところがこれらはすべて、本番のための準備だった。「演習」を行っていた中国艦隊は、いまや台湾で最もアクセスしやすい縞の西側の浜辺への着上陸作戦を開始しようとしていた。

海峡を行き来する中国の民間のカーフェリーからは、小型の上陸用艦艇が突然、投入された。中国本土では、空挺部隊が台湾の飛行場と港を占領する準備をしており、数十万の舞台による主攻撃の道を開こうとしていた。

長年恐れられていた台湾への侵攻が始まり、アメリカの対応能力に対しても多方面から攻撃が開始されたのだ。
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本書は、多くのアナリストが考えている以上に中国が大きな問題を抱えており、その傾向がなぜ今後数年間を非常に危険なものにしているのか、そしてアメリカがこれからくる嵐にどう備えるべきか、それらの理由を説明しながら、中国に対する逆説的な見方を提供している。

またわれわれは、大規模戦争の起源や、大国の興亡に関する通説にも挑戦している。

学者たちは長年にわたり、これらのテーマを研究してきたが、彼らの研究は誤った前提の上に成り立っている。その前提とは「国というものは上昇するか下降するかのどちらかでなければならず、上昇する国は発展し、下降する国は後退する」というものだ。
また、国際システムを揺るがす大規模な戦争は「パワー・トランジション」、つまり疲弊した覇権国を、台頭しつつある挑戦者の国が追い越すときに起こりやすいとされる。

こうした考えは「ペロポネソス戦争を引き起こしたのは、スパルタを犠牲にしたアテネの台頭だった」と書いたトゥキディデスにまで遡る。さらに「ターボを搭載した中国が、四気筒エンジンのアメリカを追い抜きつつあるため、紛争の確率が劇的に増加する」と警告する国際的なベストセラー本でも取り上げられている。

しかしこのような概念の多くは誤解を招くもので、単純に謝っている。国家は台頭すると同時に没落が始まりもするし、経済が低迷・停滞していても、領土を奪取したり、急速に軍拡したりすることがある。相対的な衰退によって引き起こされる不安は、強大化によってもたらされる自信とは異なり、野心的な大国を気まぐれかつ暴力的にする可能性がある。

さらに加えて、権力の移行が行われない場合には世界最終戦争のようなものが発生する可能性もある。かつて台頭した大国が、決して超えられないライバルを挑発してしまい、最後まで戦い続けるはめに陥ることもある。

このような過去の致命的なパターン――これは「ピークを迎えた大国の罠(わな)」と呼ばれる――を理解することは、思ったよりも速く到来しつつある、暗い未来に備えるために重要なのだ。

この問題は、学問的な領域だけの話にとどめておくことはできない。1940年にダグラス・マッカーサー元帥が説明したように「戦争における失敗の歴史は、以下の言葉にほぼ集約される。それは”遅すぎた”というものだ」。

つまり、潜在的な敵の致命的な目的を理解するのが遅すぎたのであり、準備するのが遅すぎたのであり、抵抗のために可能なすべての力を結集するのが遅すぎたのであり、そして同盟国と共に立ち上がるのが遅すぎた、ということだ。

さらに彼が付け加えているのは、もしアメリカが「決定的瞬間」を捉えることができなければ、それは「すべての歴史の中で最大の戦略的誤り」になるということだ。

マッカーサーの言葉はまさに予言的だった。当時フィリピンにいた彼の準備不足だった軍隊、そして太平洋全域のアメリカ軍は、その後の日本との日本との戦争の緒戦(しょせん)で敗北したからだ。

したがって、2021年にインド太平洋軍のアメリカ軍の情報部のトップが、それと全く同じ言葉で中国の新たな全体主義の脅威を表現したことは、注目に値する。「彼らは進撃しており、これはもう時間の問題だ」と彼は説明したのだ。

確かに「時間の問題」である。アメリカは、戦争のリスクが最も高く、今後なされる/なされないという決定が、それから数十年間にわたる世界政治を形成するというタイミングで、中国との競争における真に重要な局面を迎えている。つまり「決定的な瞬間」が再びやってきているのであり、アメリカは手遅れになる前に、再び準備を整えなければならないのである。