じじぃの「カオス・地球_06_人間がいなくなった後の自然・禁断の森・ヴェルダンの戦い」

The Battle of Verdun (1916) Cartoon

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=RG3sH5e4ROg

Battle of Verdun


戦争が終わって100年経ってもなお残る「人間が住めない場所」

2016年08月02日 GIGAZINE
1914年から1918年にかけて戦われた第一次世界大戦の中でも、フランス軍とドイツ軍の間で勃発した1916年2月のヴェルダンの戦いと、同年6月のソンムの戦いは、特に熾烈な戦いでした。
ヴェルダンの戦いでは両軍あわせて70万人、さらにソンムの戦いでは実に100万人以上という兵士が命を落としており、第一次世界大戦で最大の戦いとして歴史にその名を残しています。
同様に深刻なのが、毒ガスを充填した砲弾の存在。人の背丈ほどもある砲弾に残された毒ガスが流出する危険が高いため、人が立ち入るにはまったく向いていないエリアとされています。
https://gigazine.net/news/20160802-zone-rouge/

『人間がいなくなった後の自然』

カル・フリン/著、木高恵子/訳 草思社 2023年発行

第3部:長い影 より

第8章 禁断の森:フランス、ヴェルダン、ゾーン・ルージュ

数週間にわたる雪とみぞれと嵐の後、1916年2月21日の朝はすがすがしく晴れ渡り、厳しい1日の始まりを告げた。西部戦線上にあるヴェルダンの北の丘陵地帯では、樹木におおわれた内陸地域を挟んで2つの軍隊が対峙していた。西側では、フランス軍が、急いで掘った穴の中に身をかがめていた。立ち昇る彼らの熱い息は、薄いおおいがかけられた穴の中で凝縮した。
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多くの意味で、そこは世界最悪の場所だった。このヴェルダンの戦いは、まさにウルトラヴァイオレンスの原点だった。世界で初めて大量殺戮が行なわれた。

第一次世界大戦で行われた他の戦いの総計は、もっと多くの人命を奪うことになるが、ヴェルダンの戦いでは、夏の間中、砲撃が続き、そして凍てつくような厳しい冬の寒さの間にも砲撃が続き、最も砲撃が集中した地域であり、最も多くの戦闘員の命が奪われた。約20平方キロメートルの土地の中で推定30万人の兵士が死亡し、さらに、45万人が有毒ガスの被害にあったり負傷したりした。この戦いは、世界で最も長時間にわたる戦いとして記録されている。

金属汚染と植物

いわゆる「重金属」の多くは、生命の基本的な営みに不可欠なものであるが、その量が多くなると有害となる。植物が金属に汚染された汚染された土壌に触れると、不思議なことが起こる。

1950年代、ロシアの博物学者N・G・ネスヴェテーロヴァは、堆肥にさまざまな金属塩を加えると、ポピーの色が変わることを発見した。例えば、亜鉛化合物はレモンイエローの花を咲かせ、ホウ素は薬を濃い緑色にした。一方、銅を加えると、青みがかった淡い「鳩色」になる(このように、妖精になることを夢見る庭師が、アーモンドの木の下にマンガンを撤くと花冠が白からピンクになる。アジサイの根に硫酸アルミニウムを撤くと、綿菓子のような花は、灰色がかった紫色、藍色、ベビーブルーに変化していく)。
そして、このプロセスには魔女の混合物のような組み合わせの妙があった。2種類以上の塩をチンキ剤のように混ぜ合わせると、花は思いも寄らない新しい色合いになる。金属を別々に加えたときとはまったく違った色合いになる。

中近東やカシミール地方でよく見られる黒花ポピーは、亜鉛の多い土壌で育つと、二重の花弁をつける。一方、コーカサス地域に見られるモンツキヒナゲシは、銅・モリブデンに反応して斑紋のパターンを変える。鉱物の多いところでは、その黒い斑点が伸びて、中央で合わさり十字になる。これは、地下の世界を知るための道しるべとなる。

マンガンの近くで育った植物は、見苦しいほど大きくなり、豊かな緑色の巨大な姿に達するかもしれない。硫酸銅やクロマイと鉄鋼の近くでは、矮小な植物になる。このような症状は、土壌中の鉱物を示す「生物指標」として、何世紀にもわたり、世界中の探鉱者たちに利用されてきた。かつて探検家たちが砂漠で水を求めてヤナギやハコヤナギを探したように、探鉱者たいは人間の貧血に相当する白化を示す植物の生えている風景を探し回った。白化すると、葉の色が白っぽくなったり、色が薄くなったりするが、葉脈だけは色が濃いままで、その印象的な姿を際立たせる。

さらに、その植物が存在するだけで貴重な金属のありかを告げるようなものもある。例えば、スカンジナビアの初期の鉱山労働者たちは、銅の花や黄鉄鉱の植物を目印として、目当ての鉱物を探した。ピンクの花を咲かせるキャンピオン(ナデシコ科マンテマ鏃)は見た目の繊細さとは裏腹に非常に丈夫で、他の種では育たないような場所でも繁茂する。

6世紀、当時の中国ではすでに探鉱の手段として、金属を好む植物の可能性に気がついていた。植物の種類と、その植物の近くにある鉱物をリストにしたリストにした詳しい手引書を作成していた。そして、特定の金属に関連する徴候学や召喚呪文のような韻律を伴って書かれていた(もし葉が……緑で、茎が赤なら、下に多くの鉛がみつかるだろう……)。

このように、専門的な知識を持つ地球植物学者は、植物から多くの複雑な情報を得ることができるのである。
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地域によっては、濃度の高い金属鉱石の存在に大きく影響され、希少な「金属植物」でさえも生息できないところもある。そのような地域では、植生がはぎ取られ、発育の悪い牧草地と化し、緑豊かな森林地帯に点在するあばたのようにみえるかもしれない。プラチナは、ウラル山脈南アフリカのはげた部分の下から発見されている。ロシアでは、そのような場所からホウ素が見つかった。このような奇妙な現象にまつわる民話がある。
ノースカロライナ州のある場所は、「悪魔のたまり場(devil's stomping ground)として知られている。その不毛の原因はまだ解明されておらず、人間がこの地に到達する以前からあったのかもしれない。しかし、重金属による汚染が、その場所を不毛の地にするほど極端である例は珍しい。

ヴェルダンの近くの森の中の空き地、「ガス広場」は、そのような場所なのである。

緑色の真実

囲いの後方、道路から最も遠い場所のフェンスの下に穴が掘られていた。アナグマか犬が掘ったのかもしれない。大きな穴ではない。しかし、私も大柄な人間ではない。

私は肩を前後に動かしながらその下を潜り抜け、空き地に入った。口を固く閉じ、目を細めて、ヒ素の混じった土壌に対抗した。レザーワイヤーの間に慎重に手を置き、引っかかったシャツをワイヤーから外す。

フェンスの中で、私はよろめきながら立ち上がり、草むらを通って灰色の不毛な呪われた土地に足を踏み出した。縁はコケでおおわれ、固まっていたが、それ以外は砂のように柔らかく、動きがあった。不安定さを感じながら、私は木漏れ日の中へとさらに歩を進め、焦土と化した地に、光を浴びて立ち止まった。辺りは、まるで見えない力場(りきば)で抑えられているようだ。森の植物は緑に輝き、青々と、鮮やかに、薬物に酔っているかのように輝いている。

ヴィクトリア朝時代、ある色合いの染料が流行した。鮮やかなエネラルド色が発明されたのだ。そのため、緑のドレス、緑の壁紙など、この人工的な緑色はすべてのものに熱狂を引き起こした。しかし問題があった。この染料は銅と三酸化ヒ素の混合物で、極めて有時だった。工場で働く女の子たちは、口から緑の泡を吹いて死んでいった。彼女たちの目も爪も、胃も、肺も、すべて緑色だった。「シェーレグリーン」の夜会服を着ていた女性は、彼女が入ったすべての部屋にいるすべての人々を殺せるほど十分な量である。一晩で3.9グラムのヒ素が服から粉になって床に落ちるかもしれない。20万発の化学兵器の灰の中には何グラムのヒ素が含まれていたのだろう(私が今、ジーンズから払い落したヒ素は何グラムだろう、と考えだすと止まらなくなる)? 緑色の真実がわかった後でも、人々はこの神秘的な緑色の魅力に抵抗することはできなかった、それは、思うに、私をフェンスに追いやった衝動と同じではないだろうか。私は毒りんごを光らせた。そして一口かじったのだ。

フェンスの中で、私は突然アドレナリンが放出されるのを感じた。パニックにさえ陥りそうだった。そよ風が長い草を揺らしながら吹き渡る。鳥たちがフェンスの向こうの枝の上でさえずる。私は振り返って、フェンスに目をやった。簡単には戻れない。わたしは不安を抑えて不毛の地へ戻った。私の足は、戦争の跡の柔らかい砂利、人間の自己消滅の衝動の沈殿物に沈む。円形の不毛の地は、犯罪現場の指紋のように残っている。前例のない規模と破壊、無謀な攻撃が行なわれた戦争の証しである。

映画『ストーカー』では、訪問者はゾーンの中心にある謎の部屋に入ることを期待している。そこに入れば願いが叶うという。しかし、ストーカーは、これまで数えきれないほどの人々をその入り口まで案内してきたにもかかわらず、自身は一度も入ったことはなかった。その示唆するところは、私が思うに、おとぎ話のような衣装の下には目に見えない恐怖が潜んでいるが、そこを通過する者に、地上の富よりも価値があるものを与えてくれるのだろう。腐敗した世界で、希望を与えてくれるのだ。

私は、この小さなゾーンのかなめにある部屋へと歩を進めた。木こりの小屋、その中の打ち捨てられた暗い空間を目指す。扉は開け放たれている。