人間以上の記憶力、類人猿の優れた知能
2011.08.08 ナショナル ジオグラフィック日本版サイト
チンパンジーの「アユム」が、タッチスクリーン上に一瞬だけ表示される数字を記憶するテストに臨んでいる(2007年撮影)。
京都大学霊長類研究所は、若いチンパンジーと人間の大人(どちらも複数)を対象に、短期記憶を競うテスト(瞬間的に対象物を記憶する課題)を2種類実施した。結果はチンパンジー側が勝利を収めたという。
https://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/article/news/14/4689/
第4章 サルは計算できるのか?――類人猿とサル より
京都大学の天才チンパンジー・アイ
こうした言語能力の研究(アメリカの類人猿研究)というより、「[松沢哲郎が]本当に目指したのは、明確に定義された視覚的記号を通して、チンパンジーから見た世界を研究することだった……チンパンジーはこの世界をどのように見ているのだろう? 私たちと同じように認識しているのだろうか? と」。
ランボーのように、松沢もレキシグラム――日本語の漢字にどこか似ている黒と白の図形――を使った。レキシグラムはコンピューターで管理されるため、何が行われ、アイがどんな行動を取ったのか、客観的で正確な記録が得られる。レキシグラムに加えて、松沢は、「見本合わせ」の手法を用いて、アイがアルファベットの26文字と0~9までの数字を認識・記憶できるかどうかを調べた。この手法を使って異なる刺激を識別する能力を調べつつ、松沢と同僚たちは、短期記憶、遂次学習、生物学的運動知覚、色覚と物体認識、顔認識、さらには錯視さえも検査した。
アイが5歳くらいになると、数の訓練が始まった。アイはすでに物体や色の名前に合わせてレキシグラムを使うことを学んでいた。
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注目してほしいのは、物の集合の「数」をある数字と一致させるためには、アイが集合の物の性質とは無関係な数字の意味を認識していなくてはならないことだ。つまり、アイが心でとらえる「数」のイメージは抽象的、少なくともわりあい抽象的である、ということ。私がとくに驚異的だと感じるのは、5歳のアイが11種類の色の記号と14種類の物の記号と6つの「数」を記憶して正しく使い、求めに応じて正しく提示できる点である。
偉大な霊長類学者のジェーン・グドールも同じようにアイに感銘を受けていた。
「初めてアイを見たとき、彼女はほかのチンパンジーたちと一緒に囲いの中にいた。目が合ったので、私はチンパンジーが挨拶し合うときに出す優しく喘ぐような声を出したが、アイは返事をしなかった。1時間後、私はうずくまって、コンピューターに向かうアイを観察しようと、小さな窓ガラスをのぞき込んでいた。松沢にこう警告された。『アイは間違えるのが嫌いです。とくに知らない人が見ているときは。毛を逆立てて、あなたに向かって突進し、ガラス窓をたたくでしょう。でも、心配は要りません。防弾ガラスですから!』(松沢らが編集した『Cognitive Development in Chimpanzees(未邦訳:チンパンジーの認知発達)』(2006年)の序文)
松沢と同僚の友永雅己が考案した実験は、画面に点の集合を不規則に並べ、毎回異なる配置で提示する、というものだった。画面の隣に置かれたタッチパネルには、数字がやはり不規則に並び、毎回異なる配置で提示される。アイは点の数に相当する数字に触れるよう求められた。実験の条件は2つ。1つは、アイが数字に触れるまで、点が表示される。2つ目は、点は100ミリ秒間表示されたあと、抽象模様で覆われて見えなくなる、というもの。
点を短く表示する条件のときは、アイと4人の人間は同等の正確さで課題をこなしたが、点の数が5つを超えると、アイのほうがずっと速くこなした。表示時間の制限のない条件のほうが、人間もアイも点の数が増えるに従って反応時間が増えたが、アイのほうが反応は速く、とくに点が最も多い9つのときは、人間よりずっと速く反応した。
チンパンジーの頭の中にある地図
アイは幅広い訓練を積んでいたが、彼女の見習いである息子のアユムはどうだったのだろう? 「アユムがコンピューターに向かうところを観察した」とグドールは書いている。「アイと同じように、彼も素晴らしい集中力を持っているようで、小さな報酬のために正解のパネルを喜んで押していた」
松沢の研究方法では、チンパンジーは、研究所に来て認知課題に取り込むことを選べる。強制はしないし、課題をこなすことで食べ物の報酬が追加されることもない。チンパンジーたちは、課題を楽しんでいるように見えた。また、大人のメスが実験に参加することを選ぶときは、子どもを連れてきても構わない。野生の幼いチンパンジーは母親のそばを離れず、5歳まで乳を飲んでいることさえある。アイがアユムを連れてきたとき、タッチパネル式のコンピューターがアユム用に提供されたから、アユムがそうしたいなら、母親を観察して真似ることができた。
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この調査では、数字を表示してから隠すまでの間隔――見る者が情報を取り込まなくてはならない時間――をさまざまに設定した。間隔が650ミリ秒の場合は、人間はアユムと同等の成績が取れるが、アイは取れない。さらに間隔が短くなると、アユムは人間よりよくできる。
こうした調査からわかるのは、チンパンジーが研究所で、数的能力を極めて高いレベルまで発揮できるようになること。これは、彼らの脳が「数のモジュール」を受け継いでおり、そのおかげで数を数えられるし、数の大きさの順番を学べるし、簡単な計算ができることをうかがわせるが、証明してはいない。
彼らが数のモジュールを持っているなら、チンパンジーが人間の課題を上手にこなすのも、おそらく驚くには当らない。すべての動物種のなかで、私たちに最もよく似ているのは、大型類人猿――チンパンジー、ゴリラ、ボノボ、オランウータン、中でもとりわけよく似ているのが、チンパンジーなのだ。
チンパンジーは人間(ホモ・サピエンス)と同じ科(ヒト科)の一員で、彼らの種族が渡したいから枝分かれしたのはわずか600万年前だ。地球の生命史においてはそれほど前のことではないし、脊椎動物の歴史の1パーセントを占めるにすぎない。チンパンジーと私たちのゲノムの違いは、2パーセント未満だ。彼らの脳は私たちの脳より小さいが、それほど小さいわけでもない。あちらが384グラムで、平均的な人間の脳は1350グラムだ。彼らの脳のニューロンは280億個で、私たちのは860億個だが、構造はとてもよく似ている。
チンパンジーの目を見張るような認知能力は、驚くには当らない。野生では、絶えず更新される認知地図が必要だからだ。実がなる木を見つけ、その実が食べられるくらいに熟れる時期をはじき出し、木になっている実をすでに取られてしまったのかどうかを記憶するためである。それから、植物のどの部分が食用で、どの部分を食べてはいけないのかも、知っておく必要がある。
1970年代にアメリカの霊長類学者、エミル・メンゼル(1929~2012年)が実施した素晴らしい実験は、若いチンパンジーが最高の食べ物が見つかる場所を記憶できることを証明した。
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どうでもいい、じじぃの日記。
「間隔が650ミリ秒の場合は、人間はアユムと同等の成績が取れるが、アイは取れない。さらに間隔が短くなると、アユムは人間よりよくできる」
天才チンパンジーのアイが、アユム(息子)を産んだ。
アユムは母親のアイが実験用のタッチパネルに押すのをそばで見ていて学習するようになった。
『利己的な遺伝子』の著者リチャード・ドーキンスによれば、ミーム(模倣を通して、脳から脳へと伝達される文化情報の単位)は「文化的遺伝子」を作るとされる。
チンパンジーも進化し続けるのである。
一応、参考までに ↓
中国「ヒトの遺伝子をサルの脳に移植、認知機能を改善させた」に批判が集まる
2019年4月16日 ニューズウィーク日本版
●野生のサルに比べて短期記憶が良く、反応時間も短かった
中国科学院昆明動物研究所、米ノースカロライナ大学らの共同研究チームは、2019年3月27日、中国の科学誌「ナショナル・サイエンス・レビュー(NSR)」において、「ヒトの脳の発達において重要な役割を担うとされるマイクロセファリン(MCPH1)遺伝子の複製をアカゲザル11匹に移植したところ、野生のサルに比べて短期記憶が良く、反応時間も短かった」との研究論文を発表した。
マイクロセファリン遺伝子が移植されたサルの脳は、ヒトの脳と同様、その発達速度が緩やかであることも確認されたという。
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2019/04/post-11983.php