じじぃの「科学・地球_502_移民の世界ハンドブック・災害・環境難民」

Over 5.7 million affected by floods in Bangladesh | Friendship NGO Bangladesh

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=F8_TMoBz7jc


MAP: Global Flood Damage Could Exceed $1 Trillion Annually by 2050

AUGUST 18, 2013 Mother Jones
As climate change intensifies, one of the most surefire threats we’re bound to face is increased flooding of coastal cities brought on by sea level rise.
https://www.motherjones.com/environment/2013/08/map-top-cities-billion-dollar-floods/

『地図とデータで見る移民の世界ハンドブック』

カトリーヌ・ヴィトール・ド・ヴァンダン/著、太田佐絵子/訳 原書房 2022年発行

さまざまな移住、要因と展望 より

環境難民は、将来の移民か

現在、世界の環境難民数はおよそ5000万人と見積もられている。気候変動によって、移住者の数は倍増するかもしれない。気候の専門家は、2050年から今世紀末までのあいだに、その数が1億5000万人から2億人になるとみている。とはいえ、そのほとんどは国内避難民となりそうである。実際、まず国外へと向かう労働移民とは異なり、環境難民は自国内い避難場所を求める。それは自発的移動の場合もあれば、逆に、強制された移動の場合もある。

あいまいなカテゴリー

環境難民あるいは気候変動難民という言葉は、1980年代末から使われるようになった。だがそこには、世界の歴史と同じくらい古くからある災害(火山の噴火、自信、サイクロン、竜巻)から、旱魃、増水、洪水、土砂災害、島々の水没といった最近の現象なで、さまざまな事例がふくまれている。国連難民高等弁務官事務所は、このような人の動きを難民とはみなしていない。1951年の難民条約によって定められた、難民の定義にあてはまらないためである。しかも、災害にそなえてあらかじめ避難する場合は、強制された移動ではなく、自発的移動ということになる。とはいえ、環境難民の地位を国際的に認めるべきであるという問題が提起されている。それは、2014年にもっとも被害の大きい国とされたバングラデシュのように、環境災害に立ち向かうすべての国に属している人々のためである。
2010年に、メキシコのプエルト・バジャルタで開かれた、国連の「移住と開発に関するグローバル・フォーラム」ではじめて、環境難民の問題がテーマとしてとりあげられた。人類の活動と気候変動の関係が、「気候変動に関する政府間パネルIPCC)」によって分析された。そして、もっとも気候変動の影響を受けやすい途上国は、もっとも責任を負っている国々ではない、ということを示した。実際のところ、温室効果ガスの責任をおもに負っているのは、先進国である。しかも途上国はたいてい、この問題に対応するだけの力がない。こうした議論を、気候変動難民の立場を弁護する人々は――気候変動難民の出身国は無関心であるため――活用してくるかもしれない。

環境による移動の原因

環境による避難の原因は、解氷、サイクロン、海面の上昇、砂漠化、大陸の氷河の溶解、洪水など、さまざまだ。太古の時代から存在したものもあるが、かつてはこのように特徴づけられるものではなかった。聖書にある洪水、ヴォルテールによって記述されたリスボン地震、1930年代アメリカの砂嵐ダストボウルも同様である。ハリケーンの頻発(2005年ルイジアナ州ニューオーリンズのハリケーンカトリーナ)、砂漠化(サハラ砂漠南部のサヘル地域)、氷河の融解(ヒマラヤ)、多発する大規模洪水(2010年夏のタイ)、海面の上昇(太平洋のツヴァル、インド洋のモルディブ、ドイツ北部のハリゲン諸島)、森林火災(2019年オーストラリア、2020年カリフォルニア)など、最近の災害もある。こうした避難がこれまでにない特徴をもつものはどうかについては、異論もある。もっとも貧しい人々は、そうでない人々より、避難する機会に恵まれていない。こうした避難が、国際的な移住としてあらわれることはほとんどないのである。

環境難民、強制移住か自発的移民か

ツヴァルの島々では、19世紀から災害を予測して、出産を制限してきた。1951年にはフィジーの島のひとつを買って、そこに移住しはじめた。さらに、3000人のツヴァル人がニュージーランドに移住した。国家による対応策もとられてきた。
いっぽうバングラデシュでは、ヒマラヤ山脈の氷河融解によるガンジス川デルタの洪水が、首都ダッカで人災を引き起こすことになるかもしれない。ダッカには人口が集中していて、生活が不安定だからだ。しかも隣国インドは、自国を守るために、両国のあいだに壁を建設した。インド西海岸に面するムンバイもまた、浸水のリスクにさらされている。貧しい人たちは、どんなに危険にさらされていても、強制されないかごり避難することができないのはいうまでもないことだ。
もうひとつのケースは、ドイツのハリゲン諸島である。中世の時代に、地続きだったヨーロッパ大陸から切り離されて、北海の海面すれすれに浮かぶ島々となった。世界銀行によれば、気候変動による移動がもっとも多くなるとみられる地域は、サハラ以南のアフリカ、南アジア、ラテンアメリカである。