じじぃの「科学・地球_474_量子的世界像・超伝導とは何ですか」

【固体量子02】超伝導ってすごいっ!

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=gpCPfGy2hq4

超電導ってなあに


超電導ってなあに

超電導超伝導)とはどんな現象なのでしょうか?
簡単に言うと
・ 電気抵抗がゼロである
・ マイスナー効果が観測される
という2つの現象が観測されることが超電導であることに必要です。そして超電導状態に変わる温度のことを超電導状態になる温度のことを、臨界温度Tc (Critical Temperature)と呼びます。
http://www.istec.or.jp/description/description.html

『量子的世界像 101の新知識』

ケネス・フォード/著、青木薫塩原通緒/訳 ブルーバックス 2014年発行

XIV さまざまなスケールでの量子物理学 より

超伝導とは何ですか

小さなスケールの世界では、永久運動が普通に起こっている。原子内の電子は決して速さを落とさない。核子も飽くことなしに動いている。宇宙でも、摩擦がきわめて小さいために、惑星でも恒星でも銀河でも、その運動はほぼ永久運動に近いものになっている。しかし、わたしたちの身のまわりの世界では、永久運動はないと言っていい。永久運動の特許を取ろうと思っても、やめておいたほうがいいだろう。成功しないに決まっているから。力が働かなければ何も動かないとアリストテレスが考えたのも無理はない。わたしたちの通常の経験では、押すなり引くなりして力を加えなければ、物体はやがて必ず停止する。優良な伝導体のなかの電流でさえ、外部から絶えず電圧をかけられていなければ消えていく。

超伝導超流動は、永久運動は存在しないという人間スケールの規則に対する例外である。1911年、ライデン大学のオランダ人物理学者、ヘイケ・カメルリング・オネスは、水銀を液体ヘリウムの温度まで冷却して絶対温度で4度にすると――この温度では水銀だけでなく、ヘリウム以外のすべての元素が固体になる――電気抵抗がなくなることを発見した。ただ減るのではなく、文字どおりゼロになるのである。
このような金属を「超伝導体」という。電気抵抗がゼロであるということを理解するには、超伝導体がドーナツ型に成形されて、そこを電流が回っていると想像しよう。その電流は、外部から何も後押しを受けなくても、無限に周回しつづける。1個の原子内で抵抗を受けずに回りつづけている電子が、その軌道を10億倍に膨れあがらせているようなものである。

長年のうちに、科学者は超伝導体のさまざまな特徴を発見した。たとえば、超伝導体のなかには磁場が存在しないのである。

また、より高い「転移温度」で超伝導体になる新しい材料がつぎつぎと見つかっている。その温度は1950年代には18ケルビン絶対温度で18度)だったが、1980年代には一気に30ケルビンまで上がり、いまでは100ケルビン以上になっている。これらの「高温超伝導体」(あくまでも相対的な「高温」だが)が、なぜそのようにふるまうのかはいまだに謎である。だが、1957年に3人のアメリカ人物理学者――ジョン・バーディーン、レオン・クーパー、ジョン・シュエリーファー――によって提出された、低温超伝導体のなかでの原理を記述した理論には、この現象についての強固な裏づけが見いだせる。3人の頭文字をとって一般に「BCS理論」と呼ばれている彼らの考えを、大ざっぱにではあるが、まとめてみよう(きちんと記述すれば、きわめて数学的な理論である)。
優秀な伝導体――銅やアルミニウムなど――とは、一般に、電子がそのなかを比較的自由に動きまわれる物質だと見なされている。たしかに伝導体と絶縁体は、この性質の有無によって隔てられる。しかし、通常の伝導体の最高クラスのものであっても、そのなかの電子は多少の摩擦(すなわち抵抗)に遭遇する。これは電子が結晶格子のあいだを流れるときに、そこにある陽イオンとエネルギー交換をする場合があるからだ。この遭遇で、電子はエネルギーを少し失い、イオンはエネルギーを少し得る。そのエネルギーが、つぎに熱として物質内に散らばっていく。電気を帯びている伝導体は温かくなる。伝導体の温度が低いほど、イオンの熱運動は小さく、通過する電子のイオンへのエネルギー損失も現象して、抵抗が小さくなるが、それでも通常はゼロにまではいたらない(矛盾するようだが、大半の超伝導体は、室温ではあまり優秀な伝導体ではない)。
BCS理論の基礎となっているのは、ある種の物質が十分に低温になると、電子が2個ずつ結びついてペアになるというレオン・クーパーの(理論的)発見である。当時、イリノイ大学でのクーパーの同僚だったデイヴィッド・パインズとジョン・バーディーンは、ある種の固体では電子どうしのあいだに電気的斥力が働くにもかかわらず、電子のペアが弱く引きあうことをすでに確認していた。クーパーは、その弱い引力でも十分に電子のペアを形成できて、ペアがそれ自体として物質内を動きまわれるのだろうと考えた(これが現在で言うところの「クーパー対」、もしくは「クーパー・ペア」である)。
この引力のしくみは、まず1個の電子が物質内を移動しているあいだに、周囲にあるいくつかのイオンを引き寄せ、電子とイオンの集まりをつくる。続いてやってきた1個の電子は、前方に正の電荷がまとまっているのに気づいて、そこに引き寄せられていく。それが、実質的には前の電子に引きつけられたようになるのである。このしくみは、ボーリングの球とマットレスにたとえられてきた。マットレスの中央にボーリングの球を置くと、球が深く沈みこんで、マットレスにへこみができる。そのマットレスの端に別の球を置くと、球はへこみに向かって転がっていく。本当はマットレスがその球を動かしているのだが、初めの球が引き寄せているように見えるのだ。もしマットレスのへこみが十分に深ければ、球と球との互いに押しあう電荷があったとしても、球と球との見かけの引力は保持されるだろう。
クーパー対は2個のフェルミ粒子(スピン1/2)からできているので。対のふるまいはボース粒子(スピンが整数)のようになり、排他原理にしたがわないから、多くの対が同時に同じ運動状態に収まることができる。この対を分割したり、片方だけを引き離したりするにはエネルギーが必要で、むろん大きなエネルギーは要らないが、極度の低温では熱エネルギーが足りないために、この対をほどけない。したがって電子の対は、抵抗を受けることなく物質内を運動できる(この対の最も奇妙なところは、球を形成している2個の電子のあいだの距離が、対と対との平均距離より大きいことだ。これは多車線道路にセミトレーラートラックが何台もいて、1台のトラックの長さがトラックの平均車間距離より大きいというようなものである。ただしクーパー対には、1車線しかない)。ここで私の説明は、完全なBCS理論の上っ面をなぞっただけでしかない。しかし、ひとつの重要なポイントは押さえていると思う。クーパー対は何にも邪魔されずに結晶格子をすり抜けていけるが、その理由が、結晶格子にクーパー対を壊せるだけの十分な熱エネルギーがないためだという点だ。

電流はループ(輪)状になって流れていると、必ずループに沿って磁場を生む。それを利用しているのが電磁石だ。そのループが超伝導体でできていると、新たな量子効果があらわれる。磁束――場の強さと面積を掛け合わせたもの――が量子化されるのだ。角運動量と同様に、磁束も最小値の整数倍の値しかとれない。この効果の説明は、原子内の電子軌道が量子化される理由についてのド・ブロイの最初の考えと驚くほど似ている。超伝導のループのなかでは、電流の波動関数がループを1周するあいだに整数回、波打たなければならない。さもないと振幅を強め合う干渉ができず、超伝導が維持されなくなるからだ。
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言うまでもなく、テクノロジーにとって超伝導はとてもありがたいものである。フェルミラボでもLHCでも、陽子ビームを偏向させる磁石は超伝導線でできている。これらの磁石を従来の磁石と比べてみると、費用もかかるし、超伝導体を絶対温度約2度に維持しておくのもたいへんだが、消費電力の節約でやや埋め合わせができている。リニアモーターカーにも超伝導体が使われている。