じじぃの「科学・地球_420_始まりの科学・人類の始まり」

The Evolution of the Human Brain

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=aQ5PeJjZqBY


Evolution of Brain Size

Ask An Anthropologist
●How did our brains get bigger?
Brain growth and upkeep is expensive, as it requires large amounts of high-energy food. So for our ancestors to develop bigger brains, they needed more high-energy foods. Scientists believe that meat played a major role in the evolution of our brain size. Meat is rich with calories and protein, which makes it a perfect food for fueling brains. Which meal do you think contains more protein and calories: raw carrots and celery or a steak and baked potato?
https://askananthropologist.asu.edu/stories/when-did-our-brains-get-big

『【図解】始まりの科学―原点に迫ると今がわかる!』

矢沢サイエンスオフィス/編著 ワン・パブリッシング 2019年発行

パート9 人類の始まり――人間になったものと消え去ったもの より

●ヒトと動物は”地続き”
地中海のシチリア島で生まれた修道士トマス・アクィナスという男がいる。13世紀の話だ。彼は敬虔なカソリックの信者だったが、それだけでは物足りず、”全能なる神とその御業”を論理的に埋葬しようとした。彼の内面の”科学する心”がそうさせたらしい。
彼が死ぬと、まわりの修道士たちはアクィナスとその遺体の”聖性”を信じ、他の修道会に遺体を奪われまいと衆議一決。そこで彼の痛いを密かに保存しようとまず頭部を切断、さらに全身をゆでて骨だけにした。これは人間にしか見られない奇怪な行為だ。動物は決してこんな愚かで無意味なことをしない。
では何が人間と他の動物を分かつかと聞かれたとき、誰が適切な答えをもっているだろうか?
意識や知能が違いと言う人がいるかもしれないが、見当違いもはなはだしい。哺乳類や鳥の多くは人間と同じ意識やときには驚くほどの知能をもち、感情(愛情や悲しみ、怒り、嫉妬など)に至ってはしばしば人間以上に深く繊細である。集団生活や社会生活も人間の専売特許ではまったくない。サルやゾウやライオンはみな家族や集団(群れ)で生きており、昆虫でもハチやアリのように女王を頂点とする社会を築いている。ライオンやハイエナやオオカミ、海洋で生きるシャチなど、集団で手分けして食糧調達(狩り)を行うを行う哺乳類はいくらでもいる。
道具の使用も人間だけのものではない。カラスは道路に木の実を落として通過する車に割らせるし、チンパンジーは石をハンマーのように使ってヤシの実を割る。物作りや農耕も同様だ。葉を巧みに編み上げて住まい(巣)をつくるハタオリドリ、巣の中でアブラムシを飼い、キノコに肥料を与えて育てるハキリアリなど、視野を広げればきりがない。
言語は人間だけの特色のように見える。だが他の動物は人間の言葉とは違っていても複雑なコミュニケーションの方法を用いる。人間と暮らす動物は人間の言葉や抑揚のもつ意味も理解するようになり、訓練されたチンパンジーボノボは図形を使って会話ができる。また彼らの間には、ある集団内の行動を世代を超えて伝える”文化”も存在する。
2本脚の直立歩行は独特に見えるが、クマやチンパンジー、必要に迫られればイヌやネコなども2本の後脚で歩く。どこから見ても人間と他の生物はなにひとつ断絶してはおらず、完全に”地続き”である。
生物学的に見ても、チンパンジーといまの人間(ホモ・サピエンス)の遺伝子の違いは1%あまりでしかない。
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ではこの人間(人類)は、いつどのようにして地球上に現れたのか?

●最初の人類は”ルーシー”から”トゥーマイ”へ
2000万年前、東アフリカは深い熱帯雨林でおおわれていた。食糧の豊富なこの森で類人猿は繁栄した。だが1000万年前ほど前に”アフリカの裂け目”が広がりはじめ、同時にその両側が隆起して巨大な山々をつくりはじめた。すると西から吹く湿った風は山々でさえぎられ、その東側の雨量が激減した。密生していた木々はまばらになり、大地は草でおおわれてサバンナとなった。
森の大半が失われたため、ヒトの祖先となる類人猿は地上に降り、サバンナで生活するようになった。彼らは点在する森から森へと移動して水や食糧を探した。身を隠すもののない緑地で肉食獣の攻撃を避けるには、遠くを見通して敵をすばやく発見する必要がある。そのため彼らは2本脚で歩くようになった。こうして長い時間がたつうちに、彼らは自由になった両手を複雑な作業に使うことで脳が発達し、ついに彼らは新しい種であるヒトになった――
この単純な見方は「サバンナ説」とか、有名なミュージカル「ウエストサイド・ストーリー」をもじって「イーストサイド・ストーリー」と呼ばれる。実際、初期人類の化石の多くは、グレート・リフトバレーとアフリカ南部で発見されている。なかでも世界的に知られる女性の全身骨格”ルーシー”などの猿人の一種アウストラロピテクスの化石は数多く産出している。
だが近年、このサバンナ説には疑問符がつけられている。1994年、日本の諏訪元(東京大学)などの研究グループが、ルーシーの発見場所近くで440万年前の猿人と見られる化石を発見した。諏訪らはこの化石人類を「アルディピテクス」と名付けた。
問題は、この化石が森林植物の化石とともに見つかったことだ。ルーシーは乾燥したサバンナで生きたが、アルディピテクスは深い熱帯雨林で暮らしていた。にもかかわらず彼らは直立して歩いていた――これは「サバンナが直立2足歩行を促した」とする説の根拠を崩す。そして、700万年前に生きていた「サヘラントロプス」の発見が疑問をさらに大きくした。

●病気が直立2足歩行のきっかけ?
最初のサヘラントロプス・チャデンシス、愛称”トゥーマイ”は2001年、アフリカ中央のチャドで発見された。いまでは中学校の教科書でも、アウストラロピテクスに代わる”最初の人類”と紹介されている。
サヘラントロプスの頭骨は類人猿に似ていたが、犬歯が小さいなど人間との共通部分もあった。また頭骨の孔の位置から直立歩行していたと推測された。周辺の化石から見て彼らは湖に近い森林に住んでいた。とすれば、熱帯雨林の中で直立2足歩行していたことになる。
実は、サバンナで2足歩行が進化する理由はあまりない。2足歩行は4足に比べてとくに速い移動法ではなく、遠方を見るには一時的に立てば十分である。身を守り、かつ獲物を狩るための武器をもつ必要があったとしても、4足歩行でも携行は可能だ。
では、ヒトの祖先はなぜ立ち上がったのか?
アメリカの人類学者オーウェン・ラブジョイは「プレゼント説」を唱える。彼は、2足歩行は一夫一婦制の始まりとともに進化したという。つがいのオスが食糧を集めてメスと子どものところに持ち帰る。このとき2足で立てば両手が自由になり、より多くの食糧を持ち運ぶことができる。その結果こうしたオスの繁殖率が上がり、2足歩行が自然選択された――いささかこじつけ的ではある。
別の研究者は、人類の祖先は手で枝をつかみながら樹上を渡り歩くうちに2本脚で歩くようになったという。

水辺で移動する時間が増えたとの説もある。たしかにチンパンジーは小川を渡るときには2本脚になる。

病気説という奇説もある。

●人間の脳が肥大・発達したわけ
サヘラントロプスの脳は350立方cmとチンパンジーより小さかった。だが、彼らは直立2足歩行で自由になった両手を使い続けた結果、手で道具をつくるようになった。また生息環境が大きく変わると、ヒトは生き延びるためにさまざまな工夫を強いられ、それが結果的に脳を著しく発達させたのかもしれない。
アメリカの人類学者ロビン・ダンバーは、脳の発達には社会活動が不可欠だという。ヒトを含めてほとんどの霊長類の脳には「前頭前野」があり、ヒトではとりわけ大きい。ここでは思考や創造性、計画立案、推理などが行われ、ヒトがヒトであるための部位とも呼ばれる。
かつて精神疾患の治療のために前頭前野を破壊するロボトミー出術がさかんに行われたが、これによって患者が性格破綻を来たすという結果が生じた。
ダンバーは、前頭前野は相手の心を推理することによって発達したという。人間はふだん、他人の考えやそのまわりの人物との関係を推測する。実験では、類人猿も単純ながら相手の認識や判断を想像することがわかっている。集団の中で適切なふるまいを求められるようになると、他人の考えや行動を”読む”能力が高まる。これが脳を発達させるというのだ。