じじぃの「科学・地球_415_始まりの科学・時間の始まり」

宇宙の誕生ビッグバン以前にも時間や宇宙は存在していた!?

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=-SuZNNhWc7c

ビッグバンの前に何が起こったのか


理科年表オフィシャルサイト/FAQ/天文部:宇宙はどのようにして作られたのですか?

 宇宙はおよそ 137 億年前に、ビッグバンと呼ばれる極めて高温・高密度の状態からはじまり、その後膨張を続けて現在に至ったと考えられています。これをビッグバン理論といいます。
図 1  宇宙のはじまりから現在までの模式図です。無からのはじまり、インフレーション、ビッグバン、宇宙の晴れ上がりなどが時間の流れに沿って示してあります。
( 東京大学大学院理学系研究科物理学専攻・佐藤勝彦研究室
https://www.rikanenpyo.jp/FAQ/tenmon/faq_ten_008.html

『【図解】始まりの科学―原点に迫ると今がわかる!』

矢沢サイエンスオフィス/編著 ワン・パブリッシング 2019年発行

パート4 時間の始まり――「絶対時間」から「存在しない時間」まで より

●始まりも終りもないニュートンの「絶対時間」
時間は過去から流れてきて現在に至り、未来へと流れ続ける。そこでは時間は他の何ものとも関わりなくそれのみで存在し、誰にとっても公平かつ同一の速さでチクタクと進んでいる――
これは、アイザック・ニュートンによる古典的な物理学(ニュートン力学)が定義する時間と同じ見方である。ニュートンはこの見方の上に立って、人間が感じる時間は「相対的な時間の進み方だけ」と考えた。われわれは忙しいときには時間が早く進み、待ち人を待っているときには、約束の時刻がなかなかやってこないと感じてイライラしたりする。そのためわれわれには、時間は自分の状態によって延びたり縮んだりするようになる。
だが、実際の時間は、人間のこうした感覚とは無関係に、宇宙のどこにおいても、いつでも、同じ速さで進んでいる。それは時計の針の動きが示すように時間が絶対的存在だからである――そこでニュートンは時間を定義し、「絶対時間」と呼んだ。

●絶対時間を完全否定した相対性理論
このようなニュートンの時間の定義はシンプルであり、現代のわれわれが聞いてもすなおに納得できる。実際に地上のあらゆる人間活動においては、ニュートンの時間の定義を何の問題もなく用いることができる。例外は、カーナビなどに利用されるGPS全地球測位システム)などの人工衛星が、原子時計によってわずかな時間修正を必要とする程度である。
だが、ニュートンから2世紀後の20世紀はじめ、まったく新しい時間の定義が現れた。それはアインシュタイン一般相対性理論による見方だ。この理論が予言するところでは、時間はニュートン力学が言うような独立した絶対的存在(絶対時間)ではない。それによると、この世界、この宇宙は、空間の3次元と時間の1次元が融合した「4次元時空(=時空)」だという。つまり時間はそれだけでは存在せず、時空をつくる一要素にすぎないというのだ。
この理論を示す方程式によると、時間はきわめて奇妙な性質をもつことになる。それは、ある物体が空間を非常に速く運動すると、それに反比例するように時間の進み方が遅れるというのだ。運動速度がいっそう速くなって光速(毎秒30万km)に近づくと時間の遅れは顕著になり、同時にその物体の質量が大きくなる。ついに運動速度が光速に達すると、時間は完全に停止する。だがこのとき、物体の重さ(質量)が無限大、つまり宇宙全体より大きくなるという矛盾が生じる。そのため、質量をもつどのような物体も光速に達することはできない――これが相対性理論の予言である。
この見方は人々の興味を掻き立てるが、いま見たような性質をもつ4次元時空もまた問題含みである。というのも、空間の3次元――たて、よこ、高さ――については、われわれが望めばその方向を前後左右や上下にたどって移動できる。ところが4番目の次元である時間だけは、現在から未来へと一方向にしか進めない。その点はニュートンの絶対時間と同じだ。これはなぜか?
イギリスの大天文学者アーサー・エディントンは1927年、このような時間の一方向性を”時間の矢”と呼んだ。これは、相対性理論には互いに相容れない性質が混在しているという問題の指摘でもある。
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ともあれ、一般相対性理論もまた、時間がいつから流れ始めたのか、つまり本稿テーマである時間の始まりについては何も触れていない。

●ホーキング「私なら説明できる」
時間の始まりをようやく問題にできるようになったのは、一般相対性理論をもとにして、この宇宙がいつどのように誕生したかを説明しようとする理論、すなわちビッグバン宇宙論(パート3)が誕生したときである。
ちなみにアインシュタインは当初、自分が考え出した相対性理論から宇宙の起源についての理論であるビッグバン宇宙論が生まれるとは予想もしていなかった。
そのビッグバン宇宙論の最初の最新バージョンによれば、われわれの宇宙は138億年前に突如”無”から生まれた。この宇宙が生まれる前は無だったというのだから、理論的に考えるなら、宇宙誕生以前には、宇宙が存在しなかっただけではなく時間も存在しなかったはずだ。つまり宇宙誕生とともに時間も流れ始めたことになる。ここまできてはじめて物理学は、時間がいつ始まったのかに言及した。
この見方では、時間はニュートンが言うように他の何ものにも影響されずに流れる絶対時間ではなく、宇宙の一要素としてしか存在しないレベルまで”格下げ”された。
では宇宙誕生以前の無と誕生後では、何がどう違っていたのか? 物理学のこの根源的な疑問は、世界中の物理学者や宇宙論学者にも容易には答えの出せない問題である。
ところがこの疑問について「私なら説明できる」と主張する者がいた。読者の多くがその名を知っているに違いないオクスフォード大学の車椅子の物理学者スティーヴン・ホーキング(2018年3月14日死亡)である。
ホーキングは生前、ある科学雑誌のインタビューで、「われわれが文字どおりに理解している時間は、宇宙がビッグバンによって爆発的に膨張しはじめる前には存在しなかったのです」と答え、次のように説明している。

●北極点に北極点は存在しない=無境界仮説
それによると、時間を138億年前のビッグバンの瞬間までさかのぼって追跡していくと、宇宙はいっきに小さくなるので、そこでは”時間の矢”もまた無限小へと折りたたまれ、ついにはどこから時間が始まったかわからなくなる。そしてついに138億年前にたどり着いたとき、全宇宙は目にみえない1個の原子より小さくなっている。
ここまで収縮した状態の宇宙は、物質・密度・温度が無限大の「特異点」となる。
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だが、この宇宙の特異点ではいっさいの物理法則は崩壊し、そこでは過去も未来も見分けることができない。そこで特異点を避けて通るためにホーキングと共同研究者ジェームズ・ハートルらの考え出した手法が、「無境界理論」である。これは簡単にいえば、「宇宙は有限だが、その(明瞭な)境界は存在しない」とするもので、彼らはこのアイディアの着想をすでに1980年代に発表していた。

宇宙の特異点の状態は複雑である。そこでは粒子が飛び出したり消えたりし、空間と時間は切り離されている。その時間はわれわれが考える時間とは別物であり、われわれには時間が存在しないと同様だ。そのため、ビッグバンの瞬間以前に何があったかと問うこと自体が意味をなさない。

特異点のこうした状態からホーキングらは、そこにはわれわれが地球の表面などから想像するような”境界”は存在しないと考えた。それはちょうど、地球の北極にむかって移動し、ついに北極点に到達すると、そこでは北極点がどこにも存在しないことを発見するようなものだ。時間もまた、ビッグバンに到達したとたんに消えてしまう。こうしてみると、時間はビッグバンの膨張とともに姿を現したことになる。それは特異点からポンと現れたのではなく、”染み出す”ように現れたとでもいうべきかもしれない。