じじぃの「科学・地球_378_魔術師と予言者・水・トマト・肥沃な三日月地帯」

The Complete and Concise History of the Sumerians and Early Bronze Age Mesopotamia (7000-2000 BC)

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=szFjxmY7jQA


The Great City of Uruk Became Sumerian Powerhouse of Technology, Architecture and Culture

25 AUGUST, 2018 Ancient Origins
Home to Gilgamesh, Uruk was the major force of urbanization and state formation during the 4th millennium BC. In Epic of Gilgamesh , the king is said to have built the city’s monumental walls. There may be some truth to the legend, these walls, as well as other city structures, were actually unearthed by archaeologists.
https://www.ancient-origins.net/ancient-places-asia/uruk-sumerian-003653

魔術師と予言者―2050年の世界像をめぐる科学者たちの闘い 紀伊國屋書店

チャールズ・C・マン(著)、布施由紀子(訳)
現代の環境保護運動の礎となる理念を構築した生態学者ウィリアム・ヴォート=予言者派と、品種改良による穀物の大幅増産で「緑の革命」を成功させ、ノーベル平和賞を受賞した農学者ノーマン・ボーローグ=魔術師派の対立する構図を軸に、前作『1491』『1493』が全米ベストセラーとなった敏腕ジャーナリストが、厖大な資料と取材をもとに人類に迫りくる危機を描き出した、重厚なノンフィクション。
《人類の未来を考えるための必読書》

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『魔術師と予言者――2050年の世界像をめぐる科学者たちの闘い』

チャールズ・C・マン/著、布施由紀子/訳 紀伊國屋書店 2022年発行

第5章 水――淡水 より

トマト

トマトは、実質的には味のついた水の塊だ。わたしが現地を訪れた時期は、暑くて空気が乾燥していた。日中の気温は摂氏38度、空に雲ひとつない日が続き、農場の外の景色が干からびているように見えた。ふと、思った。トマトの栽培に必要な水はどこから来ているのだろう。『チャイナタウン』という映画を観たことがあるかと、ピーター・メンゼル(写真家)がきいた。人殺しをしてでも水を手に入れようとするカリフォルニアの物語だ。あれはほんとうのことだったという。
カリフォルニアは北米のどの地域よりも果物、野菜、ナッツ類の生産量が多く、そのほとんどがセントラルバレーで栽培されている。この谷は全長およそ720キロメートル、西の海岸側にはコースト・レンジズ山脈が走り、東側にはシエラネバダ山脈がそびえ立つ。樋(とい)のような形をした谷底は、水を通さない岩盤でできている。何十億年ものあいだに山脈が侵食され、この窪地に沈泥(ちんでい)や礫(れき)、砂、粘土が数百メートルの厚さにまで堆積した。高所から流れてきた雪解け水がこの堆積層に染み込み、不透水性の岩盤によって受け止められる。水の一部はやがて谷のヘリからあふれて川へ注ぎ込むが、残りは地中深くに埋め込まれる。20世紀のはじめ、深い井戸を掘削する機械が発明された。たちまち農家の人々は、地面からいくらでも好きなだけ灌漑用水を汲み出せるようになった。セントラルバレーでは、あまりにも大量の水を吸い上げたため、2、30年のうちに多くの地域が干し上ってしまった。なかには、沈没する船のように、地盤が沈下する場所も出てきた。そこかしこで、地下水面が90メートル以上も下がってしまった。
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焼けつくような暑さのなか、トラックで谷を走りながら、ピーターがこうした話を詳しく聞かせてくれた。わたしは、そんな何億トンもの水をあちこちに分散して、カリフォルニアはいったいそれで何をしたんだと尋ねた。ピーターは窓の外を指さした。車は水田地帯を走っていた。水平線の端から端まで、見渡すかぎりに表方形の浅い池が並び、そのうえで鮮やかな緑のイネが撚(よ)り糸のように連なって揺れていた。水面から水蒸気が立ちのぼり、空に広がっていくようすが目に浮かぶようだった。
わたしは驚いた。何百キロメートルも離れたところから、莫大な金を使って膨大な量の水をここへ引いてきて、それをただ蒸発させているというのか?
ピーターはうなずいた。
おかしいんじゃないか?
いや、コメ農家にとってはそうじゃないのさ、と彼は言った。

直径275キロメートルの球

SF小説では、異星人がはじめて地球に接近する場面がよく描かれる。彼らは宇宙船に乗っていて、さして興味もなさそうに、外惑星(火星以遠の太陽系惑星)のそばを過ぎていく――通例ここに登場するのは、海王星天王星のように巨大な氷惑星、土星木星のような巨大ガス惑星、それに、火星や小惑星のような荒涼たる岩石惑星だ。しかし訪問者たちは地球を目にしたとたん、驚愕する。その惑星が水に包まれているからだ。
地球の表面の4分の3は、液状の、または氷という固体状の水で覆われている。その外側にも、雲という形でさらなる水が存在する。水はどこから来たのか、なぜほかの惑星では見られないのか。そうした問題について、科学的な議論が活発におこなわれている。疑いの余地がないのは水(H2O)は、地球上で最もありふれた分子のひとつであることだ。おそらくどんな分子よりもありふれている。だから、水が不足するという考え方は奇妙に感じられる。そんなにふんだんにあるものがなぜ足りなくなるのだろう。
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今後も世界がどんどん豊かになっていくとすれば、食器洗い機や洗濯機など、水を使う機会の需要も伸び続けるにちがいない。同時に、そうした富の増加は(先述したように)、おそらく食物生産を2倍に増やす必要があることを意味している。食物生産を増加しようとすれば――とりわけ、肉の消費量が増えるとなれば――必然的に作物の栽培に使う水の量も増やさなければならない。水の専門家によれば、人口100億人の世界では、水の需要が現在より50パーセント増加する見込みだという。それはどこから引っ張ってくればいいのだろうか。新しい供給源を見つけ出すのはたやすいことではない。利用されていない湖や河川はほとんどなく、帯水層の水量は減少の一途をたどっている。同様に、無駄をなくし、節水を奨励して、いまの供給量でなんとかやりくりしていくのもむずかしいだろう。この圧力に加えて、気候変動で氷河が縮小し、川が干上がる事態が進んでいる。

食料問題でもそうだが、ボーローグとヴォートの後継者たちは、こうした不安に対しても異なった反応を見せる。それぞれの道は「硬水派」「軟水派」と呼ばれてきた。どちらを選ぶべきか、次の世代もまた、考え続けることになるだろう。ハードとソフトの議論は多くの場所で起きているが、とくに中東諸国とカリフォルニア州で顕著だ。人口が急増し、深刻な政治的緊張にさらされる中東地域は、世界で最も厳しい水問題に直面する見込みが高い。もしカリフォルニア州が独立国なら、世界で10位以内の経済大国だ。その水問題も、最大級の規模かもしれない。

肥沃な三日月地帯

そのおんぼろビュイックは、新たに建設されたムッソリーニ・ハイウェイ[通称]を使い、リビアチュニジア、エジプトを走った。ハンドルを握っていたのは、米国農務省土壌保全局の副局長ウォルター・クレイ・ローダーミルク。同乗していたのは、メソジスト教会宣教師で社会活動家の妻イネズと、15歳の息子、11歳の娘、それにベビーシッターとして連れてきた10代の姪、個人秘書、それにアルジェリアの市場で子供たちの遊び相手として買ったいたずら好きの犬が1匹。驚くべきことに、これが米国の正式な科学遠征隊のフルメンバーだった。
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ローダーミルクは、モーセヨルダン川の東岸の丘から眺めた景色を見ようと意気込んでいた。主が彼らを導きいれようとしていた「良い地」を。「平地でも山でも川の流れがあり、泉や地下水が溢れている地」[「申命記」八章七節、聖書協会共同訳]を。レバノンでは、聖書に「樹液に満ち」と伝えられた杉の木立を見ようと楽しみにしていた(「[イスラエルの王ソロモンの]その姿はレバノン山のようで杉の木のように秀でている」[雅歌五章一五節より])。それからバビロンも。古代七不思議のひとつとされる「空中庭園」があり、ネブカドネザル2世王が「大運河」を建設して、「あらゆる民に水をふんだんに届け」、「レバノン山の杉の高木」を使って「壮大な宮殿や寺院」を建てて「まばゆい黄金」で覆い尽くしたという都市を。
しかしローダーミルクが目にしたのは、ほとんど木の生えていない荒野だった。疲弊した土壌、手入れもされずに放置された廃墟、まばらに生える貧弱な草木、「貧困と無学のうちに、劣悪な環境で」生きているヤギ飼いたち。「バビロンの空中庭園は瓦礫の山と化し、塩にまみれた荒地に」横たわっていた。肥沃な三日月地帯はもはやとうてい肥沃とは言いがたい様相を呈していた。