プーチンが降伏宣言?AIによるディープフェイク拡散
プーチンが降伏宣言?
米、ロシア情報工作組織IRA関連の個人・団体に制裁
2020年9月24日 ロイター
米財務省は23日、 ロシア企業インターネット・リサーチ・エージェンシー(IRA)を率いるエフゲニー・プリゴジン氏に関連する8個人と7団体を制裁対象に指定した。
ロシア第2の都市サンクトペテルブルクに本拠を置くIRAは、ネット上に偽情報を流して影響力を及ぼすトロールファーム(情報工作組織)と見なされており、米政府は2016年の米大統領選挙に影響を及ぼす工作で中心的な役割を果たしたとの見方を示している。IRAを率いるプリゴジン氏はロシアのプーチン大統領と関係が近い実業家。
財務省はこのほか、これらの制裁対象がロシア連邦保安局(FSB)の活動を支援していた疑いなどがあるとしている。
https://jp.reuters.com/article/usa-russia-sanctions-idJPKCN26E2XV
『ディープフェイク ニセ情報の拡散者たち』
ニーナ・シック/著、片山美佳子/訳 ナショナル ジオグラフィック 2021年発行
第2章 ロシアが見せる匠の技 より
ロシアの大統領ウラジーミル・プーチンは、「ジェームズ・ボンドの敵」を地で行く人物だ。男らしさをアピールするため、わざとらしく滑稽な「やらせ写真」をいろいろ公開している。上半身裸で鞍なしの馬に乗ったり、1万ドルの設備でウェイトトレーニングをしたりする姿や、釣り上げた70キロのカワカマスにキスをしている雄姿などがインターネット上で散見される。
世界を支配する構想を練る傍ら、白猫をなでるような一面もあるらしい。そんなプーチンの”かっこいい”ネタがインターネット上で人気を博していることにも驚きはしない。しかしユーモアのある写真にごまかされて、インフォカリプス(情報の終焉)におけるロシアの本当の恐ろしさを見過ごしてはならない。プーチンは世界で指折りの危険な人物だ。
プーチンが政権の座に就いているここ10年で、ロシアは国際政治に甚大な影響を及ぼし始めた。インフォカリプスの混乱に乗じて、米国をはじめとする西側諸国に、これまで以上に大胆な攻撃を仕掛けているのだ。ロシアは、情報のエコシステムがインフォカリプスに陥るよりもはるか前から、情報戦を得意としていた。冷戦から2020年までにロシアが米国に対して行った3つのニセ情報作戦をたどり、インフォカリプスの状況下で、ロシアによる攻撃の危険性が格段に増していることを示したい。ロシアに誘発された悪質な独裁国家が、ロシア政府に倣ってインフォカリプスを利用しようとしていることも見逃せない。
ラフタ計画
ロシアによる2016年の大統領選への干渉は、米国の自由民主主義の秩序を崩壊させようと長年目論んでいるロシア政府の新たな攻撃だが、露骨さ、活動の水準、活動の範囲において、これまでのロシアの計略とは別格だ。
声明では、攻撃がウラジーミル・プーチンの直接の許可のもとに行われたこと、ヒラリー・クリントンよりもドナルド・トランプが大統領になる方が彼にとって都合が良かったことが付け加えられた。「我々はこの判断に非常に自信を持っている」と胸を張る。
ロシアが行った攻撃は、現代の情報のエコシステムに特徴的な高度なテクノロジーがなければ実現不可能だった。攻撃は次の3項目で構成されていた。
1 投票システムのハッキング
2 民主党全国委員会(DNC)とヒラリー・クリントン陣営を標的にしたハッキング
3 ソーシャルメディアでインターネット・リサーチ・エージェンシー(IRA)によるニセ情報作戦を展開し、米国市民を攪乱に陥れて分断すること
二重詐欺作戦
2020年の大統領選に先立ち、ロシアはもっと足が付きにくい新しい方法で米国を攻撃しようと動いていた。ロシア政府の戦術の進化を知る手掛かりがいくつかある。2020年3月12日、CNN、ツイッター、フェイスブック、そしてソーシャルメディアの分析を手掛ける米国企業グラフィカは、「二重詐欺作戦」が行われていたと発表した。ラフタ計画と同じように、複数のソーシャルメディアのプラットフォームを利用して世論に影響を与える作戦だった。発見されたとき二重詐欺作戦のネットワークは、誕生からまだ9ヵ月で、かなり小規模だった。フォロワー数1万3500人の69のフェイスブックページ、フォロワー数26万3000人の85のインスタグラムアカウント、フォロワー数6万8500人の71のツイッターアカウントで構成されていた。
ラフタ計画はサンクトペテルブルクにいるIRAの諜報員が実務を遂行していたが、2020年の作戦ではガーナに仕事をアウトソーシングし、アフリカの非政府組織(NGO)を隠れみのにしていた。このニセのNGOには、「アフリカ解放の障壁撤廃」(EBLA)という名称が付けられ、ホームページやオフィスがあり、従業員もいた。すでに削除されているが、EBLAのニセのホームページには、「ニューメディア(NM)を用いて支援運動をサイバー活動方式によって、日々の人権侵害の話題やニュースを共有することで、アフリカ内外における人権問題の意識を高める」という意味不明の活動目的が掲げられていた。