じじぃの「旧約聖書のサムエル・ユダヤ人の物語・短編小説『夜の声』」

Mary Caponegro and Steven Millhauser Read From Their Work

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=6F0xDUOpn2s

William Brassey Hole: “Eli and Samuel”

Steven Millhauser: “A Voice in the Night” from The New Yorker, 10/10/12

A Just Recompense
Everything connected: David playing the harp for Saul, the boy in Stratford practicing the piano, the cellos and violins behind the closed doors.
The boy listening for his name, the man waiting for the rush of inspiration. Where do you get your ideas? A voice in the night. When did you decide to become a writer? Three thousand years ago, in the temple of Shiloh.
https://sloopie72.wordpress.com/2012/12/12/steven-millhauser-a-voice-in-the-night-from-the-new-yorker-101012/

ユダヤ教の本――旧約聖書が告げるメシア登場の日』

学習研究社 1995年発行

サムエル より

「その名は神」という意味のサムエルは、紀元前11世紀の終りにこの世に生を享(う)けた。母のハンナが神に誕生を祈ったことから、この名がつけられたのである。
「サムエル記」は上下に分けられており、全体の内容は、イスラエル王国の成立と初代の王サウル、次代のダビデをテーマにした壮大な歴史物語になっている。
サムエルの誕生からダビデの死までの約100年間を扱っているわけだが、矛盾する表現もあり、複数の異なった伝承から構成されたと考えられる。伝承を大きく区分すると、サムエルの言動に表された古典的で厳格な宗教観による部分と、2人の王を主人公にした歴史を語る部分に分けられる。
サムエルは、エフライムの山地に母の祈りによって生誕した後、シロの祭司エリに預けられる。神への祈りから生まれた子なので、初めから一生を神に捧げる運命を背負っていたのである。
やがて、サムエルは神の声を聞く……。
「見よ。わたしは、イスラエルに1つのことを行う。それを聞く者は皆、両耳が鳴るだろう。その日わたしは、エリの家に告げたことをすべて、初めから終わりまでエリに対して行う。わたしはエリに告げ知らせた。息子たちが神を汚す行為をしていると知っていながら、とがめなかった罪のために、エリの家をとこしえに裁く(サムエル記上/3・11~13)。
エリの家の息子は神を畏(おそ)れぬ悪行を行ったので、一族は祭司から追われ、代わってサムエルが神の言葉を話す者、預言者となることを告げたのである。
シロは、一度ペリシテ人の攻撃によって破壊されたが、10年後にサムエルを指導者(士師)として戦い、奇跡的な勝利を勝ち取った。神を軽んじた民に下った破壊の裁きの結果が、サムエルによって回復されたからだという。いずれにせよ、ここにイスラエル王国の基礎が固まったのである。

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『夜の声』

スティーヴン・ミルハウザー/著、柴田元幸/訳 白水社 2021年発行

夜の声 より

少年サムエルは闇の中で目覚める。何かがおかしい。大半の注釈者は、この出来事が起きるのは神殿の内部であって、星空の下、神殿の扉の外にある天幕の中ではないということで意見が一致している。それほど合意がないのは、サムエルの寝床が、一晩じゅう灯された七枝のオイルランプの前に<契約の箱>が置かれた<至聖所>そのものにあるのか、それとも隣接した寝室にあるのかである。
ここで仮に、彼が内部の、至聖所にも近い、おそらくは隣接した寝室で横になっているとしよう。そこからは、カーテンを吊るした戸口を通って、ここシロの神殿のきた」大祭司を務めるエリの寝室に行くことができる。私たちはそうした細部を好むが、いまはそれは大事ではない。大事なのは、サムエルを夜中に突然目を覚ますことだ。『ユダヤ古代誌』の著者フラウィウス・ヨセフスによればこのときサムエルは12歳だが、あるいはそれより1、2歳若いかもしれない。何かにハッとして目覚めた。もう一度それが聞こえる。今度ははっきり「サムエル!」と。エリが彼の名をを呼んでいる。どうしたのか? エリは決して夜中に彼の名を呼んだりはしない。サムエルが日没時に神殿の扉を閉めるのを忘れたのか? ランプの7つの炎のうちひとつが消えるのを見逃してしまったのか? だが彼ははっきり覚えている。杉材の重い扉を押して閉めたこと、ランプが一晩じゅう明るく燃えるよう至聖所に入って7つの枝に神聖なオリーブ油を補充したことを。
「サムエル!」。彼は山羊の毛の毛布を放り投げ、急いで、ほとんど走るように闇の中を進んでいく。カーテンを押しのけてエリの寝室に入る。老人は仰向けに横たわっている。シロの神殿の大祭司なので、木の壇に敷かれた布団には藁(わら)ではなく羊毛が詰まっている。頭は山羊の毛の枕に載っていて、指の長い両手は白いあごひげの下、胸の上で組んでいる。目は閉じている。「お呼びになりました」とサムエルは言う。あるいは「汝われをよぶ我こゝにあり」といった言葉遣いかもしれない。
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エリが自分でもわからずに彼の名を呼んだということはありうるだろうか? 祭司は老いていて、時おり眠っている最中に何か唇で音を立てたり聞き慣れぬ言葉を呟いたりする。けれど夜中にサムエルを呼んだことは一度もない。サムエルが夢を見て、夢の中で誰かの声が彼の名を呼んだのか? つい最近も、紅海の2つに分かれた水を1人で歩いている夢を見た。ゆらめく水が崖となって両側にそびえ、それら水の壁が頭上に落ちてきたところで叫び声とともに目がさめた。神殿の金の外から、幼い羊がわめく甲高い声が聞こえる。サムエルはゆっくりと目を閉じる。

訳者あとがき より

夜の声(A Voice in the Night) V

こちらはうって変わって旧約聖書が素材である。旧約聖書のサムエル、その物語を1950年代に先生から聞いた少年。そしてその少年の半世紀後の姿と思しき作家。この3人を行き来する物語の作りが素晴らしい。

中編『魔法の夜』をはじめ、夜眠れぬ者たちの物語をいくつも綴ってミルハウザーだが、これはそのサブジャンルにおけるもうひとつの傑作である。