じじぃの「歴史・思想_524_老人支配国家・日本の危機・社会の活力=出生力」

Lowest Birth rate Countries 1960~2020

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=U9e2Ku3cSU4

日本は1.36、米国は1.71、韓国は0.92…各国の合計特殊出生率推移(最新)

2021/10/31 ガベージニュース
該当するデータとは2021年7月に内閣府が発表した、2021年版となる「少子化社会対策白書」(【少子化社会対策白書】)。
ここには主要国の合計特殊出産率の推移が示されている。
http://www.garbagenews.net/archives/1654942.html

文春新書 老人支配国家 日本の危機 エマニュエル・トッド

本当の脅威は、「コロナ」でも「経済」でも「中国」でもない。「日本型家族」だ!
【目次】
日本の読者へ――同盟は不可欠でも「米国の危うさ」に注意せよ

Ⅰ 老人支配と日本の危機

1 コロナで犠牲になったのは誰か
2 日本は核を持つべきだ
3 「日本人になりたい外国人」は受け入れよ

Ⅱ アングロサクソンダイナミクス

4 トランプ以後の世界史を語ろう
5 それでも米国が世界史をリードする
6 それでも私はトランプ再選を望んでいた
7 それでもトランプは歴史的大統領だった

Ⅲ 「ドイツ帝国」と化したEU

8 ユーロが欧州のデモクラシーを破壊する
9 トッドが読む、ピケティ『21世紀の資本

ⅳ 「家族」という日本の病

10 「直系家族病」としての少子化磯田道史氏との対談)
11 トッドが語る、日本の天皇・女性・歴史(本郷和人氏との対談)

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『老人支配国家 日本の危機』

エマニュエル・トッド/著 文春新書 2021年発行

1 コロナで犠牲になったのは誰か より

「死」は嘘をつかない

「経済統計」は嘘をつきますが、「人口統計」は嘘をつきません。作家エマニュエル・ベルルが述べたように、「死は嘘をつかない」。「人口統計」の操作は困難だからです。
1976年に『最後の転落――ソ連崩壊のシナリオ』(藤原書店)を書いて、「今後、10年、20年、もしくは30年以内にソ連は崩壊する」と私が論じたのも、ソ連の乳幼児死亡率の統計を見たからです。それまで低下し続けていた乳幼児死亡率が、71年から74年まで上昇し続け、75年以降は公表されなくなり、”何かある”と気づきました。
今回の新型コロナで注目すべきなのも、各国の死亡率に大きな違いがあることです。
もちろん、気候の影響などさまざまな要因があるので、その点も考慮すべきですが、少なくとも現時点では、全体としてウイルスの毒性はそれほど高くない。ですから、それぞれの死亡率は、「ウイルス属性」よりも「各国の現実」について多くを物語っている、と捉えるべきです。
このウイルスは、まず「世界の工場」たる中国で、”製造”され、グローバル化を担うエリートたちによって各地に運ばれ、イタリア北部、ドイツ南部、フランス東部、ベルギー、ロンドンといったグローバル化の先進地域を襲い、最後に、その中心地たるニューヨークに到達しました。
人口10万人あたりの死者数(2020年5月15日時点)は、ベルギー「77.4」、スペイン「58.0」、イタリア「51.5」、英国「50.0」、フランス「40.4」、米国「25.7」であるのに対し、ドイツはわずか「9.5」です。日本や韓国はさらに低く、いずれも「0.5」程度です。

「何が生産的か」という問い

新型コロナが露呈させたのは、GDPの”空虚さ”です。高いGDPを誇っても、産業が空洞化した国は、いかに脆(もろ)いかが明らかになりました。
ここで改めて考えるべきは、「(GDPに計上すべき)生産的な労働」と「(GDPで過大評価すべきでない)非生産的な労働」の区別です。
先ほどは分かりやすくするために、「モノ」と「サービス」の対比で説明しましたが、「サービス=非生産的な労働」というわけでは必ずしもありません。今日、多くの人は、医師、看護師、介護従事者、教師の仕事を「非生産的な労働」とは考えないでしょう。独経済学者で「保護貿易論」を唱えたフリードリヒ・リストは、「自由貿易」を信奉する古典派経済学の根本的な誤謬(ごびゅう)をこう揶揄(やゆ)しています。
「すべてを『交換価値』から捉える彼らの見方では、『豚を飼育する人々』は『生産的』であるが、『子供を育てる人々』は、『非生産的』となってしまう」
「交換価値の理論」に対してリストが提示した「生産諸力(=生産力を生産する諸条件)の理論」によれば、次のようになります。
「『豚を飼育する人々』はもちろん『生産的』だが、『子供を育てる教師』はさらに高度に『生産的』である。前者は『交換価値』を生産し、後者は『生産諸力』を生産するからだ。国民の繁栄は、『交換価値』の蓄積以上に、『生産諸力』の発展にかかっている」
産業空洞化で新型コロナの被害が大きかった先進国がすぐに取り組むべきは、将来の安全のために、産業基盤を再構築すべく国家主導で投資を行うことです。これは、いま話題の「ベーシックインカム」などより重要です。問題は「生産力」だからです。投資に加えて、国内の医療産業を保護する措置も採るべくでしょう。フランスについて付け加えれば、ユーロから脱却して、国内投資のために独自通貨を取り戻すべきです。

社会の活力=出生力

実は厳密に言えば、「何が生産的か」「何が非生産的か」という問いに、明確な答えはありません。開かれた問いで、「良き社会とは何か」「良き人生とは何か」という、より大きな問いにもつながる哲学的な問いでもあるからです。ただ、今回のコロナ禍は、これまでの「グローバリズム」や「経済」のあり方を「何が真に『生産的』なのか」という形で、改めて問い直すきっかけになるでしょう。
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ただ、日本について気になるのは、「出生率の低さ」です。

先ほど、仏独の死亡率の違いを強調しましたが、私は人口学者として「死亡」だけでなく「出生」にも着目します。2019年時点で、日本と同じ「直系家族」で「女性の地位の低い」ドイツは、出生率が低く(女性1人あたり約1.5)、「出生数」が「死亡数」より「約20万人」も少なくなっています。他方、出生率が高い(約1.9)フランスは、「出生数」が「死亡数」より「約14万人」多くなっています。
老人を敬うのは良きモラルだとしても、”社会としての活力”すなわち”生産力”は、「老人の命を救う力」よりも、「次世代の子供を産み育てる力」にこそ現われます。
新型コロナの被害を最小限に抑えた日本ですが、唯一にして最大の危機は、「少子化」です。私はかつて「日本の核武装」まで提案しましたが、少子化対策は、安全保障政策以上の最優先課題です。大好きな日本に存続してほしいがゆえに、最後に一言述べさせていただきます。