じじぃの「科学・地球_233_SDGsがひらくビジネス新時代・グレタ・テスト」

WATCH: Greta Thunberg's full speech to world leaders at UN Climate Action Summit

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=KAJsdgTPJpU

Greta Thunberg Warns in UN Speech: 'We Will Never Forgive You'

Greta Thunberg Warns in UN Speech: 'We Will Never Forgive You'

September 24, 2019 GLOBAL CITIZEN
Sixteen-year-old Swedish climate activist Greta Thunberg fought back tears as she ripped into world leaders gathered at the United Nations Climate Action Summit on Monday for their failure to meaningfully address climate change.
“You are failing us,” Thunberg said. “But young people are starting to understand your betrayal. The eyes of all future generations are upon you, and if you choose to fail us, I say we will never forgive you.
https://www.globalcitizen.org/en/content/greta-thunberg-un-climate-action-summit/

ちくま新書 SDGsがひらくビジネス新時代

竹下隆一郎(著)
SDGsの時代を迎えて、企業も消費者も大きく変わろうとしている。ビジネスの世界は一体どこへ向かっているのか? 複眼的な視点で最新動向をビビッドに描く!
序章 SNS社会が、SDGsの「きれいごと」を広めた
第1章 SDGs時代の「市民」たち
第2章 優等生化する企業
第3章 「正しさ」を求める消費者たち
第4章 衝突するアイデンティティ経済
第5章 職場が「安全地帯」になる日
最終章 SDGsが「腹落ち」するまでに

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SDGsがひらくビジネス新時代』

竹下隆一郎/著 ちくま新書 2021年発行

第2章 優等生化する企業 より

「グレタ・テスト」

さて、ここでもう一度、本書で何度か言及してきたグレタ・トゥーンベリさんに登場してもらう。当時16歳だった彼女は、2019年にニューヨークの国連気候行動サミットで、県境問題への対策を怠ってきた政治や企業を痛烈に批判し、「よくもまあ、そんなことを!(How dare you)」という言葉を発した。

私は取材で企業の経営者や幹部に会うとき、「グレタ・テスト」というものを勝手に行っている。「グレタ・トゥーンベリさんの演説をどう思うか」という質問をして、その答えによって本人の経営理念や企業姿勢を確かめるのだ。

「何も分かっていない”女の子”が騒いでいるだけだ」。もしこんな返事をする経営者がいたら、私はその企業経営者の資質を疑う。ESG投資(従来の財務情報だけでなく環境・社会・ガバナンス要素も考慮した投資のこと)の専門家で、ニューラル代表取締役CEOをつとめる夫馬賢治氏は、グレタ・トゥーンベリさんを冷笑してしまうことで、本質を見失う危険性を指摘する。グレタ・トゥーンベリさん本人の思想的立場は別にしても、その発言から「ニュー資本主義の動き」を読み解く必要があるというのだ。
夫馬氏によると、かつては企業が環境や社会への影響を考慮すると、利益が減るという発想が根強かった。これが「オールド資本主義」だ。ところが最近は、環境や社会への影響を考えたほうが利益は増えるという考え方が、機関投資家やグローバル企業のあいだで浸透している。
ところで「機関投資家」というと、私たちの生活にまったく馴染みがない存在というイメージがあるか、夫馬氏の『ESG思考』(講談社+α新書)でも指摘されている通り、年金基金や保険会社のことを指す。そして世界最大級の年金といえば、日本の年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)だ。GPIFは、広く国民から集められたお金の一部を投資などで運用し、将来の年金給付の財源にしていく。GPIFは2017年は2017年、ESG投資を強化する方針を決定した。この頃から、日本のマネーも、環境や社会重視にシフトし始めている。
今後は、環境問題や社会課題に対するビジネスを積極的に進める企業があれば、そこにお金が集まることになる。お金が集まればそこに人材やアイデアも集中し、企業の集積を上げることになる。またEUや、アメリカのカリフォルニア州が、環境負荷が高いとれれるガソリン車の規制を決めたように、環境のことを考慮していない企業は今後、国や地域が決めたルールによって、ビジネスができなくなる可能性が高い。
グレタ・トゥーンベリさんの発言そのものは、彼女の内面の奥底から発した「個人としての問題意識」にもとづいているが、そこに交差するのは夫馬氏が指摘するような「ニュー資本主義」の大きな流れだ。SDGsやESGは今後、ビジネスの新ルールになっていく。ここを読み解けないと、倫理観にもとづいて声を上げる消費者をはじめとしたSDGs市民たちの声を、「単なる個人の感想」として片付けてしまう愚を犯すことになる。グレタ・トゥーンベリさんが象徴している資本主義の変化を把握しないといけない時代なのだ。

ウイグル問題」と日本企業

日本企業にとって、2021年に広く知られるようになった「ウイグル問題」は、新たに突きつけられた課題だと言えよう。中国の新疆ウイグル自治区で生産される綿花は高品質でしられる。一方で、ウイグル属への強制労働の問題も指摘されている(強制労働の定義やその有無をめぐる、いくつかの議論もある)。そのため、この地区が関連している素材を使うアパレル企業への厳しい視線が、国際世論や投資家から注がれている。
ユニクロを展開するファーストリテイリングも対応に苦慮する。2021年4月8日の決算会見で同社はこのことを指摘されたが、「人権問題というより政治問題」「われわれは常に政治的に中立だ」と柳井正会長兼社長がコメントするのがやっとだった。
無印良品新疆ウイグル自治区の綿花を使った医療品を扱っていたため、同じような指摘があった。いずれの企業もきちんとした回答ができず、本当の意味で世界基準の企業ではないと私は思った。
ESGを重んじる投資家の影響力が次第に強くなっていて、「ビジネスと人権」が企業経営に影響を与える時代になってきた。ちなみに「政治的に中立」に言及した柳井氏の発言は注意深く検討する必要がある。「政治的」と表現したのは理解できると口にした人が、私の周りにいたからだ。「人権などの概念」は、欧米型の価値観に過ぎないという意識が、日本社会にはどこかしらあり、ビジネスとは関係がないと思う人が多い。しかしながら、人権はすべての人が生まれながらに持っている権利があり、全く関係のない職業は存在しない。とりわけ1948年の世界人権宣言によって、人権を国内だけでなく、国際的にも保障することが確認された。「米中新冷戦」という言葉があるように、政治的なテーマになることはあるが、ときに企業が国家並のパワーを持つこともある現代においては、企業自身がきちんとした意見を持たないといけないことは間違いない。
ところで、「スウェットショップ」の汚名をきせられたナイキは、ウイグル自治区での強制労働問題に対して「懸念」を示すなど踏み込んだ対応を見せている。同社は、2018年に、アメリカンフットボールのスタジアムで、人種差別問題に抗議して国歌を歌わずにアメフト界から事実上追放されたコリン・キャパニック選手への支持を公然と行い、本人の顔写真を大々的に起用した広告を展開した。日本企業がナイキの「変化」から学ぶべきことは多い。